獣王への道のり
世界樹の都市ユグンの中央には世界樹を削る事で造られた獣王の住む居城ユーギリアが存在する。
そのユーギリアのすぐ側にシン達一行は集まっていた。
獣王選定の予選を翌日に備え獣王候補であるシーナは、ユーギリアに集合の命令を受けていたのだ。
「それで、今日はどういう招集何だ?」
朝起きるなりシーナに叩き起こされた為シンの瞳はまだ半開きだ。
「今日は明日の予選の組み合わせ抽選と予選の日にちを候補者に伝える日なんです。終わりましたらおにぃさん達にはこれから集まった候補者達を教えます。そこで強さがある程度わかればと思いまして」
シーナはこれからの獣王選定に備えきちんと対策を考えていた。
直前まで相手の様子がわからないよりも今日見た目だけでも見る事が出来ればある程度の対策は取れる。
「俺は相手の強さとか見ただけじゃわかんないからな」
シンは相手の実力を見抜くのを苦手としていた。
何となくはわかるのだが、それがどの程度強いのかわからないのだ。
例えばエルリックが強いのはわかるがそれと同じくユナも強いとわかる。
だがどちらか上なのかはわからない。
一定以上か以下なのかしかシンには見抜けない。
「あんた、それでよく序列3位になれたわね」
すぐさまユナに指摘されてしまう。
シンはノアとの修行で対人経験は豊富なのだが、相手はノアの創り出した対戦相手なので、突発的な戦闘はしていなく咄嗟に相手の実力を見抜くのは苦手だ。
だがそれではこの先に不安が残る。
旅に出てからある程度は敵の強さが測れるようになったが、それでもユナ達には遠く及ばない。
「まあ、今回はユナ達に任せるよ。俺とリリアナは見学だな」
シンと同じくリリアナも強さを見抜く事は出来ない。
ティナと特訓はしているが戦闘の才能はからっきしだった。
「そろそろ時間なので行ってきます」
シーナはシン達と離れ1人ユーギリアへと向かう。
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「おい、混じり者が嫌がるぞ」
シーナが候補者達のいる場所へと現れるとすぐさまその頭にある氷狼の耳を見て周囲から失笑が漏れる。
この中には使命を果たし獣王から認められた者しかおらず、彼女のように未だ混ざっている者は彼女しかいない。
罵りの続く大講堂の中いつものように表情を変えずシーナは自分に与えられた席へと向かう。
すると与えられたシーナの席の隣に1人の女性がシーナに声をかけてくる。
「シーナちゃん、早くこっち来な。あんな奴等の言う事なんて聞かなくて良いからね」
「メリィさん、隣で良かった」
メリィと呼ばれた女性はシーナの隣の集落に住む赤茶色の髪が特徴の女性だ。
シーナとは昔馴染みでありその姉御肌の性格から年下の者達から慕われている。
「やっぱりシーナが代表なんだね」
シーナの集落の事情はメリィも知っている。
彼女はシーナにとって数少ない同年代の知り合いであり、シーナ達混じり者にも分け隔たなく接する人物だ。
「私が頑張らないといけませんから」
「おっ、私も負けないよ〜」
シーナの言葉にメリィは微笑みながら答える。
肩を軽く叩きシーナからの挑戦を素直に受け取った。
「メリィさんとは出来れば本戦で戦いたいですね」
メリィの実力をシーナは良く知っている。
彼女が混ざったのは獄炎鳥と言う太古の昔に炎の世界に生息していた絶滅種の鳥だ。
獄炎鳥の吐く火炎は全てを焼き尽くすと言われておりその炎の前ではシーナの氷もすぐに溶けてしまう。
シーナにとっては天敵に近い存在だ。
「私もシーナちゃんとは予選で当たりたくないね。あと当たりたくないのはあいつかな?」
メリィが指差すのは黒髪の青年だ。
彼のすぐ側には黒い物体が一定の形を持たず揺らめいている。
「あの黒い塊は厄介よ。色んなものを吸収してどんどん強くなる。しばらく経てば元に戻るけどその前にあいつは決着を付けに攻めに出るからね。抵抗すればする程不利になる」
黒い塊は吸引闇虫と呼ばれており、洞窟の奥地などに生息している。
その厄介な性質から冒険者の間では忌み嫌われている。
「それに本人の性格も悪い。主従一体で最悪さ」
メリィの忠告にその青年を要注意人物としてシーナは記憶する。
メリィの態度からも忌々しいものを見るような気配を感じるので本当最悪な性格をしているのだろう。
「始まるみたいだね」
大講堂の前面のステージにこの国の重役が上ってきた。
「獣王候補の皆さん、お集まりいただきありがとうございます。これより予選の抽選を行います」
重役の下に届けられたのは抽選番号の入った箱だ。
候補者達には番号が振り分けられておりその箱から取り出された番号が7つのグループに分けられていく。
「メリィさんとは別のグループになりましたね」
シーナの番号は3と書かれたグループに振り分けられた。
メリィの持つ番号は4のグループだ。
「あいつは1番か」
あの要注意の青年は1番のグループに振り分けられた。
取り敢えずは予選で彼にぶつかる事は避ける事が出来た。
シン達が負けるとは考えていないが、出来れば予選で強敵に当たり消耗するのは避けたい。
「それでは、明日から第1組の予選を開始します」
予選の組み合わせが終わりシーナはメリィに別れを告げシン達の下へと向かう。
相変わらずシーナには罵りが続いているが相手にしているヒマはない。
「おにぃさん、私は第3組になりました。予選は明日第1組、その2日後に第2組、その2日後に私達の予選です」
「5日後に本番か、なんか緊張してくるな」
シン達の下に戻りすぐさま結果を伝えるシーナ。
その事にシンは緊張と共にワクワクした気分になる。
こういった大会のような行事に参加する事が今までなかった為楽しみなのだ。
「誰か危険な人物はいましたか?」
戻って来たシーナにエルリックが聞く。
今日ここに来たのは敵の視察も兼ねているのだ。
「あの黒髪の男が危険なようです」
「あれか?そんな強いか?」
シーナが示すのは先ほどメリィに忠告された男だ。
シンにはそこまで強いように見えない。
「なかなかやるわね、エルリックと同じ位かな?」
ユナは青年を見てそう判断した。
エルリックも同意しているので間違いないだろう。
その青年の特徴と混ざっていた生物をシーナはシン達に伝えた。
「なら俺が相手するのが良いな、吸引する前に消し飛ばせば良い」
確かにシンの虚無の大鎌の能力なら対処可能だ。
シーナにとって心強い味方だ。
「あとメリィさんも注意です」
知り合いでよくしてもらっているが今回の獣王選定ではメリィは強敵だ。
獄炎鳥から吐かれる炎は厄介だ。
「まあ、予選では当たらないんだろ?どいつと予選は当たるんだ?」
予選で戦う事になる敵をシーナはシン達に教えていく。
シーナも敵の力を測るのは苦手だった。
「あいつ、強そうだな」
シーナが示したうちの1人にシンは目を向ける。
鍛え上げた肉体は鋼のような硬さを感じさせ大きな体からは威圧感を感じる。
「大したことないわね」「大したことないな」
だがユナとエルリックはシンと違う印象を受けているようだ。
確かにユナとエルリックからしたら弱いかもしれないが、それでも強者の雰囲気をシンは感じている。
「そうか?結構強いと思うけどな」
「そんなんだからダメなのよ、あんなの見た目だけよ。無駄な筋肉が多すぎ、あれじゃまともに武器は扱えないわね」
「そうだぞシン、あんなに膨れ上がった筋肉じゃ逆に動きの邪魔になる。重りを付けて戦うようなものだぞ」
ユナとエルリックの説明にシンは納得する。
良い勉強になるとシンは敵の観察を続ける。
「あれも強そうじゃないか?」
「そうね、でも私達の敵じゃないわ」
その後もシン達は観察を続けていたが、特に警戒する相手はいないようだった。
さすがに序列者が3人もいるシン達の相手になる者など多くはいない。
「あれは、まだ子供だぞ?」
シンが見つけたのはナナと同じぐらいの身長の男の子だった。
子供らしくキョロキョロと周りを見回している。
「あの子はたまたま使命を果たしてしまって代表者に選ばれたんでしょう。まぐれでも予選を突破してもらえれば獣王様に選ばれなくても集落は優遇されますから」
数合わせに選ばれてしまったとシン達は認識した。
それほど使命を果たす者は少ないのだ。
「獣王候補の殺害は重罪です。おにぃさん達も気をつけて下さい」
シン達にとってその制約は厄介だ。
正直力の差もあるし、シンやナナなどは敵を殺してしまう方が勝つのは楽である。
思わぬ障害にシン達は苦い顔をする。
シン達は全員、戦いとなったら敵を殺すつもりでいたのだ。
言葉足らずなシーナが言い忘れていたのが悪かった。
「まあ、なんとかするさ」
予選の内容次第では苦戦の可能性もある為シン達もシーナと同じく覚悟を決める。
他の予選の見学は許されている為、自分達の番が来るまでは敵の視察が続く。




