本当の仲間達
『やれやれ、全く。世話のかかる子だよ。落ち着いて休んでもいられないじゃないか。ボクの相棒は君しか居ないと言うのに』
シンの頭に直接、ずっと聞き続けていた凛と響くような声が聞こえてきた。
(ノア、なのか?)
この試練の過去ではノアは先ほど殺した男に着いていた。
試練の世界で最初にノアと対面した時はシンの存在は認識していなかったはずだ。
『おや?ボクの事を信じてくれないのかい?あんな偽物と一緒にしないでくれよ』
少し、悲しさを含んだ声がシンの頭の中に再び響く。
シンにはもう疑う必要は無かった。
(ノア、どういう事だ?)
何故、ノアの声がシンに聞こえるかがわからない。
この世界ではどの仲間もシンの事を知ら無かったし、世界樹の試練を一緒に受けている仲間はどこにもいなかった。
『この世界のティナに会えたのが良かった。ボクはまだ今のシンのいる世界に干渉出来ない。けどその世界のティナの魔力を使って足りない分の力を補填したんだ』
(何で、ティナは俺の事がわかるんだ?この世界では誰も俺の事を認識出来なかった)
『シン、魔王とは神と対等の存在だ。それを忘れてはいけない。彼女の瞳が全てを見透かす事をシンは知っているはずだ』
ノアの言葉にティナと初めて会った時の事を思い出す。
あの時、確かにティナはノアしか知らないはずのシンの秘密を知っているような事を言っていた。
(ノアが俺とこうして話しを出来る理由はわかった。問題は俺がこの試練を乗り越えられないでしかもここに閉じ込められてる事だ。それに他のみんなはどうなんだ?)
この試練の世界からシンは出る事が出来ない。
自分の代わりに現れた男を殺せば、合格か不合格かは別にして元の世界に戻れると思っていたがそれは叶わなかった。
『そのみんなに呼ばれたからボクは目を覚ましてシンに干渉する事になったんだ。元の世界とこの試練の世界は、時間軸が違う様だから調整に手間取った。元の世界ではあれから1カ月経っている。もちろんシン以外はとっくにこの試練を乗り越えているよ』
ノアの言葉にシンは安堵する一方、自分だけが時間を掛けている事が悔しかった。
どうすればこの試練を終わらせられるのか未だに検討もついていないのだ。
(俺はどうしたら良い?敵と思う奴は全部殺した。それでもまだ何も変わらない)
『シン、君のその割り切りの良さと仲間想いな事が裏目に出たね。この試練では自分が居ない過去がどうなるのか結果を知り、その上で自分のしてきた事が正しかったと認識出来れば合格になるんだ。この過去は試練が創り出した別の結果の反映だ。手を出さなければ今頃とっくに試練は終わってる』
ノアが話している内容をシンはすぐに理解した。
あらざる過去を乗り越えろとは、シンの居ない過去の結果を見届けて、ただ自分のいる過去が正しかったと思えば良かっただけの事だった。
何も砂の世界を壊滅させる必要は無かったのだ。
シンは自分の短絡的な行動に思わずため息を吐いてしまう。
ここまで何人の無関係な人を殺してしまったのだろう。
その数はこの砂の世界の全人口の半数は軽く超えているはずだ。
罪悪感をシンは感じていたが後悔はしていない。
あの知らない男の行動は許せない事だったしユナやナナ、リリアナとエルリックを殺した奴らも許す気はしなかったからだ。
仲間と思っている人は全力を持って守り抜くシンであるが、敵と思った人には一切の慈悲をしない。
それがシンと言う男だからだ。
(なら俺がしてきた事は間違いじゃないな)
自分の知らない過去の結果を知り、自分のしてきた事が決して間違いで無かったと確信を持ったシンに試練の終わりを告げる懐かしくも感じる声が聞こえてきた。
「何だ?妾に何か用か?」
目の前にいる銀髪の女性にシンは瞳を向ける。
だがこの世界でシンの口は音を出す事は出来ない。
(ありがとな、ティナ。お前がいなきゃ他の世界の人も殺しに行ってた)
本気で全ての世界の破壊を考えていたシンは何も知らないティナに礼を言っていた。
薄れゆく意識の中で、シンに見つめられている意味がわからないティナの困惑した顔がはっきりとシンの瞳は映していた。
**
「あっ!やっと起きた!」
目を覚ましたシンの瞳に映ったのは、いつの日か見た覚えのある下から見上げる2つの膨らみとその膨らみの向こうからシンの顔を覗き込むユナの顔だ。
その真っ赤な髪には試練の世界では着けていなかった白い花を彩ったアクセサリーが着けられている。
いつのかの日と同じ様に目の前にある2つの膨らみに手を伸ばす。
だがその腕は別の所から乱入してきた細い腕に捕まれ目的を果たせなかった。
「シン様、それでしたら後でわたくしの物をご自由にして下さってもよろしいのですよ」
シンの視界に金髪の美しい女性の顔が入り込む。
元の世界に戻って来た事にシンは安堵をする。
「ちょっと!あんた王女でしょ⁉︎そんな事言っちゃだめよ!」
「元、でございますよ、ユナさん今のわたくしはただのリリアナ。1人の淑女でございます」
「しゅっ淑女もそんな事言わないわよ!」
もともとこういった話が苦手なユナは、自慢の髪と同じ色に顔を染めながらリリアナとの言い争いを始めた。
試練の世界にいた時間が長かったおかげでこのやり取りを見るのもシンには久し振りで懐かしく、そしてとても新鮮に感じられた。
ユナが怒り、リリアナが微笑みながらユナを軽く挑発する。
言い争いを始めた2人にエルリックがなだめに入り、ナナはいつもの無表情でそのやり取りを見つめる。
その隣でシーナは呆れた様にため息を吐き、ティナは2人の様子を楽しんでいる。
やっと取り戻せた自分の居場所にシンは思わず微笑みを浮かべてしまう。
「シンも何笑ってるのよ!まさか、本当にリリアナに何かするつもりなの⁉︎」
「シン様、遠慮なさらず今晩はわたくしと過ごしても良いのですよ?」
そんなやり取りがシンにはとても嬉しかった。
長らく誰にも存在を知られず、話す事も出来なかったシンはいつまでもこの仲間達と共に居られる事を願っていた。
「なあ、聞いて良いか?」
「何よ?」
シンの問いかけに全員が反応した。
「みんなは今回の試練はすぐ終わったのか?」
「当たり前じゃない、私はもう自分の行動に後悔しないわ」
砂の世界からここまででユナは心も強くなり、真っ直ぐとシンの目を見て言葉を言う。
「わたくしも同じです。シン様と共に歩む事に後悔などあるはずがありません」
リリアナの決意は試練の後も変わりはしない。
「僕もだ。シン、君の力となりリリアナ様の盾となる事が僕の役割だ。それは何があっても変わり話しない」
エルリックの在り方は何があろうとも揺るがない。
「シン君、見て」
ナナの左腕には片刃の大剣をモチーフに7の数字が刻まれている。
「上がったのか?」
「シン君が寝てる間に私とユナも序列が上がった」
ユナの左腕には真紅の刀と4の数字が刻まれていた。
ニグルが死んだ事でいつの間にか序列が上がっていたのだ。
「これで、名前と一緒」
ナナはいつも無表情で、ずっと変わらずに自分のやりたい事をするだけだ。
「おにぃさんの側にいて役に立つのが私の使命だから」
シーナの思う自分の使命は今も昔も変わらずにシンの側にいる事だった。
「妾は魔王であるぞ、魔王のいない世界なぞあり得ん事であろう」
「ティナ、少し大きくなったか?」
「ようやく気付いたか、もう貴様に強引に掴まれる妾では無い。まあ中々良かったのだがの」
ティナは変わらずいつでも魔王だ。
10階層の試練でシンに強引に掴まれ乱暴に扱われた事を根に持っているが。
「あんたが起きないから大変だったのよ!」
「そうですよシン様、エルリックが食料を持っていたのですが、節約はしなければならず、わたくしは少し痩せてしまいましたのです」
「君の体を世話するのは大変だったぞ。無理矢理食事は突っ込んだが他の事は全部僕が世話してやったんだ。戻ったら酒でもおごってもらうからな」
「シン君、お腹すいた」
「おにぃさん、結構情けなかったね」
「妾も全く動かない人間の世話などした事がなかったからの」
シンは仲間を守ると決めていたが、どうやら仲間に守られていた事に気が付き改めてみんなに礼を言う。
世界樹の試練によって、互いに助け合い、共に目的を果たす為、シン達の関係は今まで以上に固い絆で結ばれる事になった。
「シン様の試練の行動はノア様からお聞きしています。わたくしの為にまさか砂の世界を壊滅させてしまうとは。シン様がわたくしに向けて下さる感情はそこまでの物だったのですね」
「リッリリアナの為だけじゃ無いじゃない!」
「あら?ではユナさんはどう思われているのです?」
「そっそんな事、言えないわ」
「では、わたくしの為という事で良いのでは?」
「だからそれは違うって言ってるでしょ!」
ユナとリリアナはまたも言い争いを始めている。
だがこの2人の仲が悪い訳ではない事をここにいる者達はみんな知っている。
「しかし、誰にも気付かれないとは言えあの皇国と王国を1人で壊滅させてしまうとはね。”天帝”とティナさんの力には正直化け物と思ってしまっていたが、君も大概だな」
「妾は化け物ではない、魔王であるぞ」
「おにぃさんってやれば出来る人なんだね」
「シン君は、すごい」
シン達は乗り越えた試練の事を話しながらもはや懐かしく感じる青白く輝く転移魔法陣へと向かう。
久々に戻って来た世界樹の都市ユグンは変わらず世界樹への挑戦者で溢れていた。
「シーナ!ようやく見つけた。獣王選定が1ヶ月後に決まったぞ!」
シーナの父親がシーナの姿を見つけシン達の下へと向かってくる。
森の世界の王者を決める戦いが1ヶ月後に始まろうとしていた。
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