シンの実力
漆黒の大鎌で”風帝”ニグルに向け、シンは斬撃を放つ。
乱入に驚きを隠せないニグルてあったが、風の魔術による回避で大鎌を躱し距離を取った。
(結構ダメージを受けてるな)
ニグルの肉体に着いた傷を、シンは確認した。
彼の体は肩口を斬り込まれ血を流し、浅いが袈裟斬りにもされていた。
共にニグルといたであろう騎士達は、半分は戦闘不能になっている。
(ユナはあと少しで倒せたのか)
「立てるか?」
状況を確認し、たった1人でニグルを追い詰め、敵の部隊を半数ほど蹴散らしたユナに声を掛ける。
だがこちらももう限界にきているのだろう、立ち上がれず地面に座り込んでしまう。
「あとは俺に任せろ、そこで休んでて良い」
疲労が限界を超えていたユナは頷きその場から動かない、動きたくても動けないのだ。
「どこに居たのよ」
開戦から姿を消したシンに、ユナは問いかける。
あれだけ探したのに見つからなかった男が、まさにギリギリのタイミングで現れた。
ユナ心臓は、戦場と言う場所であるにも関わらず、不必要なほど高鳴り続けている。
「それは、あいつを倒してから説明する」
そう言ってシンはニグルへと向き直る。
ユナとしては共に戦いたいのだが、正直こうして意識を保つので精一杯だ。
俺に任せろ、そう言ったシンの手には漆黒の大鎌が握られている。
ユナはシンの戦う姿を見た事はなかったが、何故だかその後ろ姿に惹きつけられ、もう大丈夫、と確信が持てた。
その大鎌はどこまでも黒かった。掴もその刀身も全て。
光すらも飲み込んでしまいそうなほどの漆黒、気を抜いてしまうと自分も飲み込まれてしまうような感覚に陥ってしまいそうだ。
「そこから、絶対に動くなよ、巻き込みたくない」
どうやって、勝つのだろうか、ユナにあるのはその疑問だった。
確かにシンの腕に見えたのは3の数字、つまりシンは序列3位だ。
当然序列5位のユナよりも強いはず、だが敵は序列4位の”風帝”ニグルにその部下の風帝隊に魔術師達と皇国騎士達だ。
ユナが人数を減らしているが、減ったのはユナが簡単に倒せると踏んだ者達だ。
あの反撃を許さない連携攻撃が、また繰り返される。
シンに伝えようとするユナだったが、その声は出せなかった。
「そんな心配そうな顔をするな、大丈夫だお前は俺が守る」
振り返り笑いながらシンにそう言われてしまった。
そんな心配そうな顔をしていたのだろうか?
だがその笑顔に、何故だか心が落ち着いていった。
「話は、それで終わりか?」
ニグルがそう問いかけてくる、彼は話が終わるのを待っていたのではなかった。
シンの武装を確認し、勝利するべく部下達に視線で合図をし戦闘の準備をしていたのだ。
見るとユナが与えた傷から血が止まっていた、おそらく治癒魔術を使ったのだろう。
だが高位の物ではないらしく、止血のみの対応だった。
「ああ、待たせて悪かったな、そっちの相談は終わったのか?」
ニグル達が隊列を整えるのを見ていたシンはニグルに答える。
油断はない、こちらも敵の服装や整えた陣形から個々の役割を分析していた。
「お前が悪神の代行者だな?」
「ああ、お前もそうなんだろ?かかってきな、全て呑み込んでやろう」
そのやりとりが開戦の合図となった。
風帝隊の一員がシンへと斬りかかる。だがその攻撃をシンは避けようとしない。
「何だと⁉︎」
その大鎌を一振り、ただそれだけで風帝隊の男は2つに斬り裂かれた。
(剣を、すり抜けた?)
その光景を見たニグルはそう疑問に思った。
だがそれは間違いではない、ユナや他の者達にもそう見えていた。
倒された隊員が振った刀は確かにその大鎌と接触したはずだった、だが金属の撃ち合う音はなかった。
無音、それはありえない事だ。
武器が大鎌に斬られそのまま体をも切断するなら剣と鎌のぶつかる音、そして隊員の鎧と体を斬り裂く音があるはずだ。
しかし、今の攻撃には一切の音がなかった。大鎌の振られる音さえもだ。
「魔術で牽制だ!」
その異様な事態に、近接戦闘は危険と判断したニグルは風による不可視の斬撃を放つ、そして魔術師達からも炎や土の弾丸が放たれた。
「悪いな、魔術師は俺と相性最悪なんだ」
だがあらゆる魔術は全て消滅した、シンによって、いや正確には違う。
漆黒の大鎌が魔術を掻き消したのだ。
「契と、同じ?」
魔術の消滅、それは先ほどユナの真紅の刀、皇龍刀”契”も同じ事をした。1度だけだが。
しかしそれとも違う気がした。契は文字通り魔術を斬り裂いた。
だがあの大鎌は違った、魔術を消滅させたのだ。
「どういう事だ!」
魔術を消滅されたニグルは剣を取り出しシンに向かっていった。
大鎌の性質を見抜く為、接近戦で戦うつもりだ。
風を利用した高速の移動で、シンへと斬りかかる。
だがまたもシンは回避せず、大鎌をニグルの剣へと向ける。
「っぐぉ!」
やはり大鎌は剣をすり抜けた。
いや違う、すり抜けたのではない、ニグルの剣は大鎌に2つに斬られていた。
だが先ほどの隊員とのやり取りからこうなる可能性があるとわかっていたニグルは、大鎌を無理矢理体を捻り回避する。
だが大鎌の先端に、頬を斬り裂かれた。
そして追撃に出るシンだったが、魔術師達が牽制する。
放たれた魔術を無視する事は出来ないシンは、またも大鎌で魔術を消し去る。
距離を取り頬に手を当てるニグル。傷は思ったよりも深く、切傷は頬から口まで繋がり口が裂けている。
(肉がない?)
頬の傷口に違和感を感じるニグル。
頬の肉を斬り裂いたはずのシンの大鎌には、血や肉片が付いていない。
そしてニグルの頬にあったはずの肉は無くなっていた。
違和感から切断された剣に目を向ける。
その切断面はまるで綺麗に研いだ後のように、何も傷などが付いていない。
まるで、初めからこの形で作られたかのように綺麗な切断面だった。
慌てて初めに倒された隊員を見る。そしてその隊員の持っていた剣もニグルの剣と同じように綺麗な切断面を晒している。そしてわずかに短くなっていた。
それは2つに分かれた肉体も同じだった。
「その鎌、斬ってないな?」
ニグルは大鎌を振るうシンに問いかける、だが自分の武器の特性を素直には教えない。
「どうだかな?そろそろ気付いたか?」
そう返しニグルへと突撃する。
鎌に触れるのはまずいと踏んだニグルだが、巧みに大鎌を操るシンにニグルは追い詰められていく。
「隊長!」
「馬鹿!来るな!」
ニグルへ加勢するべく隊員が駆けつける。
だが、ニグルですら回避をするだけでやっとのシンの攻撃に隊員は対応出来ない。
背後から接近する風帝隊の隊員に振り向かず、その大鎌の柄で突きを放つ。
急激に放たれた突きに隊員は、武器での防御を試みる。
先ほどまでのやり取りを見ていたのにも関わらずだ。
漆黒の大鎌の柄は隊員の剣を通り越し、その肉体に風穴を開ける。
心臓への一撃だった。
隊員は崩れ落ちもう立ち上がる事はない。
だがまだシンの攻撃は終わらない、隊員への注意をしたニグルの僅かな隙に懐に潜り込み一突き
左肩を捉えた大鎌はその左肩を抉り、鮮血を撒き散らす。
ユナに受けた切傷に加え、大鎌での攻撃でニグルの左腕はもう使い物にならない。
片腕を失ったニグルは距離を取り、魔術での攻撃に切り替える。
風帝の何にふさわしく竜巻を起こし、シンの行く手を阻み不可視の斬撃を放つ。
だが、大鎌の一振りは巨大な竜巻すら消し去りニグルへ斬撃を放つ、高速の斬撃にニグルはギリギリでの回避を余儀なくされる。
そしてニグルの攻撃は、ここで唐突に終わる。
やめたのではない、攻撃出来なくなったのだ。
得意の風を利用したヒラヒラと舞うような回避はなぜか出来ず、自らの身体能力のみで対応するしかない。
(何が、起きている)
戦闘中常に展開していた風の鎧はなくなり、再度作ろうにも何故か展開出来ない。
そして風を操り回避する事も、上空への跳躍にも風の援護を受けられなくなっている。
魔力もまだまだ残っている、魔術が使えない訳ではない。
「はぁっ、はぁっ!」
ニグルの息がどんどん荒くなる。
確かにユナとの戦闘で消耗はしたが、このぐらいで疲れるほどヤワではない。
「ぐっ、はぁっ、」
どんどんと苦しくなるニグルは、何が起きているのか理解出来ない。
こうしている間にも攻撃は続けられていた。
そして限界が訪れる。
呼吸がうまくいかず、もうほとんど体が言う事を聞かない。
苦しい苦しい苦しい苦しい
苦しく熱い、必死に肺を動かすが何も入ってこない。
目を見開き、口からは涎が溢れ出す、痙攣し地面に倒れ込む。
喉が酷く渇く、舌がカサカサしてきた気がした。
まるで体中が沸騰したかのような感覚がする。
音も聞こえなくなっていていた。
「そろそろ限界か?」
ニグルはシンの言葉を上手く聞き取る事が出来ない、だが喋っている事はわかる。
「息が出来ないだろ?得意の風の魔術はもう使えない」
読唇術をニグルは知らない、もうニグルの脳は役割をこなせない。
「喉が渇いたか?体が熱くなってきただろ?」
ただ一方的に、シンがニグルに話しかけていた。
シンにももうニグルが、この言葉が理解出来ないのもわかっていた。
「あと10秒ぐらいだな、それでお前は終わりだ、この鎌に斬られるからじゃない」
「この鎌の名前は虚無の大鎌、能力はこの鎌に触れたもの全てを呑み込み消滅させる。まあ消すかどうかは俺の気分次第だ」
「消滅の対象は俺が決められる。最初の奴はこの鎌に触れた剣とあの人間の肉体を呑み込んだ。お前の剣と頬も一緒だな」
「お前を同じように肉体を消滅させて2つにするのは簡単だ、ユナとの戦闘でお前はかなり消耗してたからな」
「だがそれじゃつまらない、お前はユナを傷付け。、戦いに間に合わなかった俺も悪いんだが」
「それでも俺はお前を許さない、だから出来るだけ苦しんで殺す事にした」
「わざとお前に鎌を避けさせた、お前ほどの奴ならこの鎌の危険性に気づいて避けると思ったからな」
「だからお前のギリギリ避けれる速度で攻撃した、そしてお前はこの鎌を避け続けた」
「ここまでくればわかったか?俺はお前を消滅させようとしたんじゃない、お前の体の周りの空気を消滅させていたんだ」
「この鎌が消滅させたのはその場にある空気じゃない、ニグルと言う男の周りの空気を消滅させた」
「これなら移動してもお前の周りの空気は消滅したままだ。そして限界が来た。無くなり続ける空気にお前は呼吸出来なくなり酸欠になる。呼吸が出来ないのは苦しいだろ?体中の水分が熱くなっていくのは苦しいだろ?」
「あとお前の命は2秒ぐらいだ、ユナに手を出した事を後悔するんだな」
もうニグルの意識は、無くなっていた。
「ミアリスはお前を助けないんだな」
砂の世界の神ミアリスの代行者、序列4位”風帝”ニグル・ウィーゲ
VS
無の世界の神ノアの代行者、序列3位シン
勝者、シン




