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プロクラトル  作者: たくち
砂の世界
21/205

エルリックの日常 1

 エルリック・ニールセンの朝は早い。

まだ王都が薄暗い中目を覚まし日課である朝のランニングを行う、初めは広い王都の城壁の内側の街道を一周するだけで息が上がっていたが続けるうちに2周、3周と長い距離を走れるようになっていた。


 現在は街道を5周している。

エルリックのランニングは王都の朝の名物となり辺りが明るくなる度に仕事に向かう国民が増え挨拶が飛び交うようになる。


 続けるに連れスピードも上がり最初は朝食の時間ギリギリまで走っていたのだが、今では兵舎に戻りシャワーを浴びる時間まで短縮されていた。


 日課のランニングが終わりシャワーを浴びたエルリックは兵士専用の食堂へ向かう。

兵舎の朝食はバイキング形式の為、列に並び朝食を取り席に着く。


「おはようございます、エルリック隊長」


 食堂の席は決まりがあり、所属の部隊員どうしで食事をする。

隊員同士のコミュニケーションを図る為だ。


「おはよう、ソルト」


 まだ15歳の少年にエルリックは挨拶を返す、彼はエルリックの部隊に配属されたばかりの新人兵士である。


「ソルトも隊長を見習ってトレーニングしたらどうだ?」


「まだ通常の訓練だけでもついて行くだけで精一杯なんです。何度か隊長とランニングしたのですが、追いつくどころか周回さを付けられてしまいました」


 苦笑いを浮かべソルトは言う、彼は兵士になったばかりなので通常の訓練でも付いて行くのがやっとだった。


「隊長は天才って言われてるが、隊長は何もしなくても強い訳じゃない。日々の積み重ねが隊長の強さなんだ」


 隊員の1人にそう言われ嬉しいエルリック。

初めの隊員達は偉そうな事を言うくせに対して努力しないでエルリックの事をけなしている奴らだった。


 だが初陣の戦が終わり隊が新しく変わるとエルリックと一緒に真面目に訓練する部下が増えた。

 入隊以来ずっと反発され続けていたエルリックだったので兵士には嫌な奴しかいないと思っていたのだが、そうじゃない事を知りもっと訓練をするようになった。

 この部下達を死なせない為戦術なども勉強し、今やエルリックの小隊は王国軍屈指の部隊になっていた。


「さあ、訓練だ今日は型の練習から始めよう」


 食事を済ませ隊員達と訓練場に向かう、全体訓練の後は部隊別のメニューに移るのだが、部隊別のメニューは隊長が指示をする。

 その為部隊ごと特徴が変わるので、たまにエルリックは他の隊の訓練を見ている、良いと思ったものを取り入れる為だ。


 部隊別の訓練になると全員一斉に槍を構える、エルリックの部隊は全員の槍使いだった。


 掛け声を掛け、型を繰り返し行う。

エルリックは基礎の積み重ねが重要と考えており、ひたすら槍の型を繰り返していた。


 隊員達もそのエルリックの考えを理解しており部隊別メニューの後も兵舎などで型を繰り返していた。


 その部隊の型は非常に洗練され一切の乱れがない。


「終了!模擬戦を行う!」


 型の練習が終わると次は模擬戦だ、一対一だけでなく二対二や三対三なども行うし二対一もある。

どんな状況でも力を発揮出来る様普段から取り組んでいた。


「隊長にはまだかないませんか」


 この部隊の中ではエルリックに勝てる者はいなかった。二人を相手にしてもエルリックは負けない。


「いや、こちらも結構ギリギリだ」


 ギリギリなのは本当の事なのだが隊員達はエルリックに勝てるイメージが出来なかった。

それほどエルリックの槍術は完成されていた。


 だがエルリックは行き詰まっていた。

技の精度などまだまだ磨けるが本当の強者には一向に近づいている気がしない。


 その証拠に赤姫のユナやクレアの戦闘を見た時には自分が何をすれば良いのか一切わからなかった。


 あのレベルを相手に考えるのは無謀とも言えるがエルリックの目指す場所はあの領域にある。

自分でも才能のある事はわかっているのでそこに辿り着く自身はある。


 だがその方法がわからない、赤姫に助けられて以来訓練の数を増やしたがどうにも行き詰まりを感じていた。


「エルリック、俺といっちょやらないか?」


 その場に来ていたリーグ将軍から声がかかる。

エルリックとしても是非ともお願いしたい話だ、お願いしますと頭を下げ槍を構える。


 リーグの訓練用の重槍に何度も繰り返した槍を放つ。

だがリーグは器用にエルリックの槍を捌くと反撃を繰り出してくる。


 鋭く重い薙ぎ払いを受けきれないエルリックは体制を崩され首に重槍を突き立てられる。


「参りました」


 負けを認めるエルリックは試合の反省をする。

スピードは負けていないがやはり槍の重さが違う、一撃ごとに崩され、その隙を意表を突かれた攻撃に追い詰められてしまう。

 

 どうしたものかと悩むエルリックにリーグがアドバイスをする。


「お前の槍は素直すぎる。型は確かに効率よく相手を倒す為に確立されているがその動きは相手も知り尽くしてる。お前の型は完成されているが故に動きも読みやすい、敵に動きを予測されるのは致命的だ」


 その指摘にエルリックは納得する。先ほどのリーグの動きはまさにその通りだった。リーグはエルリックの攻撃を先読みしエルリックの槍はリーグにことごとく防がれた。

 そしてリーグの予測不能にも思えた攻撃にエルリックはついて行けなかった。


「ですが、どのようにしたら良いのか自分にはわかりません」


 だがエルリックは解決策を見いだせない、エルリックの真面目な性格が裏目に出ているのだ。


「こればっかりは経験だな、何をしたら相手が嫌がるか、瞬時に判断するには場数をこなすしかない」


 経験、エルリックに足りないものをそう言ったリーグは訓練場を後にする。


「まあ、なんだろうな、エルリックは真面目すぎな所もあるし。それが強さでもあるが、その先に進みたいなら別の事も試さないとな」


 リーグの言葉にエルリックは考え込んでしまう。

 今日の訓練は終了したがエルリックはモヤモヤした気持ちのままいつも通りレベッカの酒場へと向かう。


「なるほどな、確かにお前は素直すぎる」


 酒場にいたシンに今日の出来事を相談した。

 この青年は自分と違い不真面目だ、悪く言う訳ではないがエルリックと違う部分が多い、だからこそ仲良くなれもしたのだが。


「シン、僕にはわからない、確かに経験は重要で自分にはそれが足りないだが赤姫のメンバーは僕とそう変わらない年齢なのに、王国軍のどの将軍よりも強い」


 確かにエルリックの言う通りだ。だがここで赤姫を例えに出す限りエルリックの目標の高さが伺える。

 

「そこと比べてもな、そうだな一度戦ってみたらどうだ?赤姫と」


「そんな事が出来るのか?是非とも手合わせをしたい!」


 シンの提案にすぐさま飛び付くエルリック、目標との手合わせなど何度でもしたいのだ。


「わかった、俺に任せろ!」


 そう宣言するシンにエルリックは夕飯をご馳走した。

肝心のシンであるが内心では「どうしよう」と適当に言ってしまった事を後悔していた。


 シンに頼むぞ、と言い兵舎に帰るエルリック、足取りは軽い。


*******


「嫌よ!」


「そこをなんとか!お願いします!」


 翌日、ユナのもとを訪ねたシンはユナにエルリックとの対戦をお願いしていた。

 最初は「エルリックと対戦してよ〜」と軽くお願いしていたのだが、ユナに「私はそんな安い女じゃないの!」と速攻で断られてしまった。


 だが夕飯までおごってもらったシンは諦める訳にもいかず、手をスリスリしながらユナをおだてごますりをしていたが、なかなか強情なユナは首を縦に振らないユナをそう思っていた。


「なんかあんたの顔が気に入らないわ」


 なんと思っていた事が顔に出てしまっていたらしく交渉が成立しない。

諦めていたがユナからある条件を提示される。


「し、しょうがないわね、あんたが私と、そっその、デっデートしてくれるなら試合してもい、良いわよ」


 途中から物凄く声が小さくなり上手く聞き取れなかったが、最後の「良いわよ」は聞き取れた為、すぐに「ありがとう!」とユナの手を握った。


 なぜかユナの顔が赤くなっていたが、シンは気付かなかった。


「でも私じゃダメよ、参考になんてならないわ」


 ユナの戦闘はユナだからこそ実現出来る事だ。

確かにとシンは考えるが改めて赤姫のデタラメな強さに絶望してしまう。


 副長のナナもユナと同様にナナだからこそ出来る戦闘であり、ナンバー3のクレアもこの前の戦闘ではとんでもない大きさの斧を振り回して暴れていた。


 エルリックがそんな斧を振り回すようなパワーがあるとは思えない、どう考えてもシンの知る赤姫メンバーではエルリックの役に立つとは思えない。

 仮に試合をしてもこいつらは手加減できないだろう。

 エルリックが瞬殺される、もしくは一撃で吹き飛ばされる未来しか浮かばない。


「そんな!エルリックが殺される!」


 エルリックのピンチについ言葉を出してしまう、頭の中では鬼のような顔で笑いながらエルリックを嬲る赤姫のメンバーと無残にもボロ雑巾のようにされるエルリックの姿が浮かんでいる。


「失礼ね!そんな事しないわよ!」


 シンの考えを察したユナがシンに拳骨を見舞いながら言った。

 強烈な拳はシンを気絶させるには十分な威力だった。


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