空中都市ダンデリア
空中都市ダンデリアは一見すると未開拓の浮遊島である。
しかし、その浮遊島の外見は見せかけだけのものであった。
外部から見た空中都市ダンデリアでまず目を引くのは浮遊島全体にそびえる巨大な山脈だ。
その何よりも目立つ山脈こそ、空中都市ダンデリアの内部を隠す外壁の役割を果たしている。
「俺様の城は俺様が許した奴しか入れない。 まあ、仕掛けは簡単だけどな」
「仕掛け?」
空中都市ダンデリアの外部に舞い降りたダンテは、そのまま山脈の中に向かっていく。
緑の生い茂る山は森の世界を思い起こさせるが、植物の大きさなどは森の世界には及ばない。
それでも歩き辛い事には変わりないのだが、ダンテは容易く進んでいく。
「仕掛けって言ってもこの都市に昔住んでた研究者が残したのを少し改良しただけだけどな」
「どんなのなんだ?」
「もう着いたぜ。 ここを進んでみな」
ダンテの指示された場所をシンは慎重に進む。
「えっ? なんだここは⁉︎」
進み出たシンは景色の豹変ぶりに思わず声を上げる。
先ほどまで緑の生い茂る場所にいたはずなのに今のシンはいつの間にか、風情を感じる煉瓦敷きの街道にいる。
転移の感覚は一切ない。
歩いていたら急に全く知らない別の場所に来ていた、そんな感覚だ。
「まずは、合格ってところだな」
「合格?」
「そう。 これがさっき言った仕掛けの一つだ。 ある一点を境に合格した者はここに来ることが出来る」
そのある一点を証明するようにダンテは腕を伸ばす。
すると腕は途中で何か別の空間に入り込んだように見えなくなる。
「ここを通る条件は一つ。 俺様に害を為すか為さないかだ。 俺様の能力は言ったよな? それを仕掛けに組み込んで実現させた仕掛けだ。 あの山を進んでる者の目的を読み取り、俺様に害を為すならばこの場所には来られない。 その場合ずっとあの山を彷徨い続ける事になる」
「ここに入ってから考えが変わったらどうなるんだ?」
「その場合は強制的にここから出される。 まあ、俺様に迷惑をかけないよう注意してくれ」
この空中都市ダンデリアでダンテに逆らう事は決して許されない。
この場所でダンテはまさに絶対的な支配者なのだ。
試していたのはシンだけではない。
ダンテもまた、シンの事を試していたのだ。
「氷の世界にあったエウリスの研究所の入口と同じ感じか」
これと同じような仕掛けをシンは知っている。
ティナ達と共に向かったエウリスの研究所も似たような侵入方法だった。
「ダンテ様、お迎えにあがりました」
「おう、ルーディかご苦労さん」
空中都市ダンデリアの入口を行ったり来たりして遊んでいるうちにダンテの部下と思われる者が現れた。
紺色の髪をしたルーディと呼ばれる女性は背中に羽根を持つ天使である。
「ダンテ様、この下賤な輩はいったい?」
ルーディはダンテと共にいるシンに向け疑いを持った視線を送る。
「そうカリカリするなよルーディ。 こいつは俺様の協力者だ」
「協力者? こんな者がですか?」
気軽に話すダンテと違いルーディの言葉は冷たい。
シンに好感を持っていないのは明らかだ。
「貴様、名はなんと言う」
「俺か? 俺はシンだ。 よろしくな」
「私の名はルーディ、ダンテ様のお心遣いに感謝するのだな。 貴様のような者がこのダンデリアに足を踏み入れる事など本来ならば許されないのだからな」
仲良くしようと考えていたシンだったが、どうもこのルーディと言う女性とは仲良くなれそうにない。
ダンテに対する忠誠心のあらわれだろうが、シンとしたらあまり気の良い扱いではない。
「んじゃ俺様の城に案内するぜ。 ルーディ、もう下がって良いぞ」
「はっ」
ダンテに連れられシンは煉瓦敷きの街道を進んでいく。
この空中都市ダンデリアには天使のみならず普通の人族も生活していた。
この街の様子は浮遊島ステップでグリンから聞いていたものと全く異なっている。
上位存在であり、恐れられてもいる天使のダンテにもこの街の住人は気軽に挨拶している。
シンの予想だが、この街が空の世界全体から見ても異端なのだろう。
この街の景色は支配者であるダンテの性格をあらわしている。
彼が気さくな性格をしているからこそ、天使でない者達も共に過ごす事が出来ているのだ。
「ここが俺様の城だ。 良いところだろ?」
街の様子をダンテは自慢気に話す。
確かにダンテの言う通り良い街だ。
風情ある街並みに活発な住人達。
これを見ただけでダンテが人の上に立つ才能があると感じ取れる。
「入ってくれ、ここで話をしよう」
ダンテに案内されたのは一つの家屋だ。
街の頂点に立つ者が住む家としたら、あまり豪勢なものではない。
「まず俺様の目的についてだな」
「ああ、そもそも大天使ってなんなんだ?」
「大天使か、そうだな。 まず原初の15人の天使達の事は知ってるか?」
原初の15人の天使達、おそらくサリスが語っていた最初の天使達の事だろう。
「たぶんだけど、この空の世界に現れた最初の天使達で良いか?」
「そうだ。 その15人の天使達を讃えて作られたのが大天使と呼ばれている地位だ。 もうその15人は生きちゃいないが後釜としてその地位が代々受け継がれている。 俺様はその15人の大天使の後釜候補って訳だ」
「15人一気に入れ替わるのか?」
「それは違う。 大天使に選ばれた者はその寿命をとして役目を果たさなくちゃならない。 まあ、自らの意志で辞める事も出来るが辞める奴はいないわな」
「そうか、ならもうすぐその大天使とやらの1人が死ぬ、もしくは辞めるんだな?」
「察しが良いな。 その通り、もうすぐ大天使の1人アルシャルが死ぬ。 天使の寿命は短い。 それがわかっているからもうアルシャルが死ぬのは確定しているんだ」
シンの知る事ではないが天使となった者の寿命は長くても50年。
大天使の1人アルシャルは、既に50歳を過ぎようとしている。
その寿命が覆ることはない。
だからこそ、次なる大天使の後釜候補が決められているのだ。
「大天使の後釜候補は5人。 俺様にあんたを捕らえたネヴィス、現大天使の娘リネルに空中都市アラドスを統べるリリー。 そしてあんたが会ったローウェルちゃんだ」
「ローウェルが? あいつまだ天使として認められてないんじゃ?」
まさか大天使の後釜にローウェルが選ばれているとはシンは思ってもいなかった。
ローウェルと接した時間は長くないが、大天使になるような器とは思えない。
「まあ、ローウェルちゃんが大天使になる事はまずない」
「そうだよな。 選考方法は?」
気になるのは大天使に選ばれる為の方法だ。
それ次第でシンは役に立てるのか立てないのかが決まる。
「選考方法は簡単だ。 エウリスに認められるか、ただそれだけだ」
エウリスに認められるか、それだけだとダンテは言うがその答えでは曖昧すぎる。
第一シンはエウリスと敵対している。
エウリスに認められるかと言う名目からは明らかに真逆に位置している。
「何もエウリスに有益な事をするだけが選考じゃない。 なんでも良い、とにかく候補の中で誰よりも目立つ必要がある。 それなら、あんたはまさに適任だ。 あんたの側に居るだけでエウリスの目に触れられるんだからな」
ダンテの答えにシンは納得せざるおえない。
確かにシンと共にいれば、エウリスは注目せざるおえないだろう。
「ネヴィスがあんたを捕らえたのもそれが原因だな。 ローウェルちゃんが初めに接触した事でエウリスの関心はローウェルちゃんに傾いた。 それを気にしたネヴィスが聖別を利用してあんたに近づいたんだ」
ローウェルと接触した時、シンは空の下にいた。
おそらくエウリスにも見つかっていたのだ。
「そして、そのあんたを俺様はあれだけ派手に連れ出した。 そうなればエウリスの関心は俺様に向いたと言っても良い」
シンは知らず知らずのうちに大天使候補達の争いに巻き込まれていた。
ダンテの無理矢理な脱走にはそれなりの理由があったのだ。
「大天使候補についてはこのぐらいだな。 次はあんたの目的についてだ」
「ああ、空の証に獅子の強心。 情けないが2つとも入手方法がわからない。 仲間ともはぐれたしな」
シンの目的である2つは、今のところ手がかりすら掴めていない。
この2つを手にするには、空の世界の住人であり天使でもあるダンテの協力は必須だろう。
「まず簡単なのは獅子の強心だ。 これは浮遊島リーオンにいる魔獣を倒し、その体内に生成される宝珠を手に入れれば良い」
「宝珠?」
「ああ、リーオンにはその島の名前にもされているリーガルって魔獣がいる。 その魔獣は強力だが、あんたと俺様がいれば問題ない。 大変なのはその宝珠の入手方法だ」
リーガルは体長4メートルほどの4足獣である。
リーガルが走る速度は音を超えると言われており、討伐は困難だ。
しかし、シンとダンテ2人ならばそれも可能だと断言する。
「リーガルの宝珠を手にするには、奴をある手順通りに倒さなくてはならない」
「手順? 面倒くさそうだな」
「ああ、その通り面倒くさい。 リーガルの体内に宝珠が生成されるのは、奴が空中に浮いた時だ。 だいたい5分くらいか、その間奴を常に空中に浮いた状態にしなきゃならない」
リーガルに翼はない。
つまり、シン達の手によりリーガルを空中に留め続けなくてはならないのだ。
「5分奴を浮かせたら次は奴の仕留める順番だ。 まずば奴の足を4本同時に砕かなくちゃならない。 その後は尻尾だ。 奴の尻尾を思いっきり引っ張る。 そして最後にトドメだ 奴の心臓を一突き、これで獅子の強心の材料は手に入る」
リーガルの宝珠を手にするのは手間がかかる。
ダンテの説明でそれがわかり、シンはげんなりとする。
仲間がいたならば簡単だったのかもしれない。
しかし、それだけの作業をダンテと2人で行わなくてはならないのだ。
「次は空の証だな。 それについてはさっぱりわからん。 今まで探そうとも思わなかったしな」
空の世界の住人であるダンテに空の証が必要だった事は一度もない。
「形は確か丸い物だったと思うけどな。 さすがの俺様も詳しくは知らん」
空の証の形状が球体である事はシンも知っている。
代行者でない者にとって世界の証と言うのはあまり関心を持つ物ではない。
それはダンテの反応を見ればわかる事だ。
「とにかく、これからよろしく頼むぜ、相棒!」
力強く背中を叩かれこの日の話は終わる。
空中都市ダンデリアで、シンは新たな相棒と共に空の世界への挑戦に踏み出した。




