空の証
「ロイズとティナは行きたい所とかないのか?」
竜車の購入を済ませたシン達はアイナとユナと別れ、宿屋へと向かおうとするが、他のメンバーも何か用事があるのかシンは聞く事にした。
ロイズはせっかく訪れた他の世界に興味があるかもしれないし、ティナは創世期の懐かしい場所などあるかもしれない。
メリィは会話をする事が出来なくなってしまった為、何かあれば合図をしてもらう事となっている。
「そうだね、僕はせっかくだから何か遺跡とか見に行きたいな。1日で戻れたら良いんだけど」
ロイズの言う遺跡にはシンも行ってみたい所だ。
氷の世界に訪れたからには創世の遺物に触れてみたいのは共通の感情だろう。
もしかしたら何か良いものを見つけるかもしれない。
「妾は特にないのだが、そうだの、妾の記憶ではスーリアの近くにエウリスの使ってた研究所があったはずだ、そこならすぐに帰ってこれるぞ」
空の神が使用していた研究所であれば何かしらの発見もあるはず、時間もかからないとなるならば行ってみるのも良いかもしれない。
「ユナ達は時間かかりそうだったしな、俺達だけで行こう」
場所についてはティナに案内してもらうとして、他にも探索に必須の魔導具も集めなくてはならない。
ユナと本職の冒険者であるアイナを連れて行けないのは痛手だが、ロイズは対応力が高い能力であるしティナにメリィもいる。
このメンバーだけでも探索は十分可能である。
「妾についてまいれ!」
なぜかノリノリのティナに従い、シン達はエウリスの研究所があると言われている遺跡へと向かう。
スーリア周辺にある遺跡は既にほかの冒険者により探索がされており、スーリアに訪れた冒険者達の最初の目的地として有名だ。
それだけを聞けばそこに行く事に旨味がないと思われるのだが、創世の遺跡はそれ自体が魔力に覆われており、そこに魔獣が住み着く事もあり戦闘訓練になるし、前までは何でもなかった物が魔力に覆われ続けた事で何かしらの魔導具に変貌する可能性もある。
スーリアから遠い遺跡ほどその可能性が高い、理由としては訪れる冒険者の数が少なくなる事で、長らく魔力に覆われ続けた物が多くなるためだ。
そういった場所では魔力をため込む事で魔獣の力も強大になる。
「ティナ、本当にこんなとこにあるのか?」
ティナに案内されている途中にシンはその道なりに不安を覚えた。
シンのイメージでは街の外に出てしばらく歩いた先に建物があると思っていたのだが、ティナはスーリアの街から出ず、路地に併設されていた階段を降り続けている。
「エウリスは空の神になる前はずっと地下におったからの、今でこそ空におるが昔から地面の下にいる事が好きだった。神というのはなかなかに変わり者だからの」
世界を7つに分けた際、どの世界の神になるかはわからなかったらしい。
ノアを無の世界に閉じ込める事に力を使い過ぎていた為に、自分達の好きな世界を選ぶ力までは残っていなかったらしい。
先を進むと次第に外壁に変化が訪れる。
砂の世界でユナと共に訪れた遺跡と違い、金属製の壁や床に突然変わり、その場所は風化する事なく現在も研究所として利用が出来そうな程だ。
「でかい扉だな」
辿り着いた先にあるのは何人も並んでくぐれるほど大きな扉だ。
近づくと扉は自動で開き、シン達を迎え入れる。
「ふむ、この先には行っても意味がないの」
「どういう事だ?」
見渡す限り、扉の先にしか道はない。
その事からティナの言葉の意味をシンとロイズは理解する事が出来なかった。
他に行くところなど無いと思われるからだ。
「エウリスは根暗だからの、その扉は偽物だ。誰にも会わないように奴はよくこういった目立つ入り口を作りおる」
目立つ扉を無視してティナはすぐ近くの壁に向かっていく。
扉から続く壁を触りながら進んで行くと突如として壁の中にティナの腕が吸い込まれていった。
「ここが入り口だの、そっちの扉から進んでも大した物は無いぞ?」
躊躇いなく壁の中にティナが入っていくので慌てて後を追うシンとロイズだが、くぐり抜けた先には先ほどまでの景色と違い、原始的な洞窟のような空間が広がってる。
「なあ、ここには誰も来てないんじゃないか?」
途中にすれ違った冒険者達は全員手柄を上げられていなかったようだった。
会話を盗み聞きしてみたが、金属製の部屋の話をしており、このような場所に来たとは言っていなかった。
洞窟のような所には足跡もなく、この空間には誰も足を踏み入れていないと思われる。
神の使っていた施設ならば思わぬ危険もあるかもしれない。
「心配無用だ、ここには妾も昔来た事があるからの。偽の入り口には罠やらがあるがこっちには何もない。まあ、あの入り口を見つけられる者がおらんのは確実だの。今回は運良く何もなかったが、最悪腕が吹き飛んでおったからの」
カッカッカと笑うティナにシンは呆れたような視線を送る。
再生能力のあるティナとは違い、シン達にとって腕の損失は致命的な問題だ。
またまた無事でいるものの魔王との考え方の違いにため息を吐いてしまう。
「ここは完全に先ほどまでいた場所と別世界になっておる。扉をすり抜けた際に別の空間に飛ばされたのだ。まあ転移魔法陣と似たような物だと思えば良い」
ズカズカと先を進むティナに続いくシンとロイズだがここでまたも魔王との違いに困惑する。
「おい、何もないんじゃないのか?」
先を進むティナに幾度も壁から魔術やら弓矢やらが飛び交っている。
ロイズが吸引闇虫を使い、シン達に降りかかる攻撃を防御しているが、ティナは様々な罠を気にも止めず歩い続ける。
人にとって危険な罠も魔王からしたら無視出来る程の攻撃であるらしく、その体には傷一つ付いていない。
「小さい事は気にするでない、こう騒がしいという事は目的地が近いという事だ」
ティナに全ての罠の矛先を向けるよう、シンとロイズは少し離れて後を追う。
次第に多くなる罠は落とし穴なども含まれており、宙を浮かべるティナでなければそのまま落下してしまう。
「ここがエウリスのおった研究室だ。まあ、奴の事だから何もないかもしれんがの」
空の神エウリスは誰かと接触する事も嫌いであるし、その活動内容を他者に教える事も良しとしないようであり、ティナに案内された部屋は既に物資などはなくなっていた。
「来た意味なくないか?」
辿り着いた場所に目新しい物がなかった事にシンは落胆する。
対して苦労はしていないが、それでも何もないというのは嫌だった。
「そう言うでない、物はないが落書きなど残っているであろう?」
ティナはそう言うが、シンとロイズには創世期の文字が読めない。
落書きなどに興味はなかった。
「あやつはしっかり整理しておるようでしてないからの。ほれこれを見んか」
「なんで書いてあるんだ?」
「シンには重要な事だぞ?ここには空の証について考えた時の事が書いてあるぞ。創世文字も読めるようにしておくのだな」
ティナが示した先には机に書かれた文字がある。
証についてと言われては興味を持たざるおえない。
「空の証の形状は球体のようだの、大きさは片手で持てる程度で、色は黒か。エウリスにしては珍しい色を選んだ物だの」
「そういやノアも証の形には悩んでたな」
証をどのような形にするかは神がそれぞれ決めている。
シンがノアに出会った当初は証の形を一定の物に決めておらず、悩んでいた事を思い出した。
エウリスも同じように悩み、気づかない内に書き込んでしまったのだろう。
「試作もしておったようだの。今の証の形状は知らんが、その試作品も証として機能する。どこかで黒い球体を見つけたら調べてみるのも良いと思うぞ?先ほども言ったがエウリスは根暗だ、簡単に証を貰えるとは思えんからの」
ミアリスのように王族に証を作る権利が渡されているとは限らない。
神自身が製作する場合ではシンに証を渡すとは思えない。
その試作品とやらがどこにあるかはわからないが黒い球体を見つけたら、ティナの言う通りにノアに鑑定をしてもらったほうが良い。
「他には特にないの、妾達に有用な落書きはそのぐらいだ」
神との争いに加担しないと言ったティナだが、こうやってつい手助けをしてしまう。
自分から望んだ事とはいえ長らく地下牢にいた為にこうして会話出来るのが嬉しいのだろう。
「黒い球体だな、他に特徴はないのか?」
そのような物ならいくらでもありそうだ。
シンからしたらもう少し絞れる要素が欲しい。
「他にはないの、だが証なら見ただけで何か感じる事があるであろう?」
砂の証が2つにわけられていた際にノアはその事実に見ただけで気がついた。
証が本物であれば見分ける事が可能だ。
「戻るか、ユナ達も戻ってるかもしれないしな」
研究室を後にしてシン達は宿屋へと向かう。
これと言った収穫はなかったが、空の証についての情報をわずかだが得る事が出来た。
冒険者にとって収穫がない事は珍しい事ではない。
数多くの場所を訪れて1度成果があれば良い方なのだ。
そう易々と創世の遺物など見つかる事はない。
訪れたエウリスの研究室に別れを告げスーリアの街並みにシン達は戻ってくる。
日の暮れ始めた街には依頼を済ませた冒険者達で溢れており、成果を上げた者は打ち上げとして酒場に赴き、何もなかった者はさらなる依頼を探したり情報を集めている。
氷の世界は未だ3割程度しか人は足を踏み入れておらず、さらなる未知がこの世界には眠っている。
夢を持った冒険者達は互いに高めあい、一攫千金を求めてこの世界で活動し続けるのだ。
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