ぼくはぼく
「もぉ勘弁してやりなよ、弟さん」
あまりにひどい頭痛に、意識を持ってかれそうになっていた。
ジェードがプリコット博士に向かい合い、含み笑いをしながら声をかけている。その声と共に駆け寄ってきた一号は、心配そうに俺の肩を抱いた。
「ジェード…、本当なんだね」
いつのまにかプリコット博士の傍に寄り添うレプシナ。
ジェードを見つめる目は、未だ警戒を解いていない厳しさがある。
「だから、最初から言っていたでしょ。信用ないなぁ、もう。
『アズル』を封印しているのなら、記憶を取り戻すことはできない。
『パスワード』だけは脳内に焼き付いている。過去の記憶を手繰って、それを呼び出せばいい。
……それができるから、僕がここにいるんですよ」
可愛らしく、子供のようにウインクするジェード。頭痛はとまらない。むしろジェードの視線に呼応するような、痛みが襲う。
「ジェードくん。博士がいたそうだから、やめてあげてよ」
「嫌だね。僕の目的の為にも必要なことだもの。
…君にとっては、このままが幸せかもしれないけどねぇ。
――さてと」
すとん、と元の椅子に座るジェード。
膝を付いた俺に視線を送りながら、彼は笑う。
「…なにを…する?」
呻く俺に向ける、彼の笑みは深くなった。
「むかし話をしてあげるよ。
君の『植え付けられた記憶』を優しく剥がして、本当の世界を語ってあげる」
レプシナとプリコット博士はそれぞれ警戒と疑いの眼差しを。
一号は不安そうな視線を。
そして俺は、すがるような目をして、ジェードの言葉を待った。
誰も知らない、誰も教えてくれない、俺の過去。
ほんとうの、こと。
ジェードは俺の目に気付き、少し優しく微笑む。
「真実を求める目だねぇ。
…僕も同じだよ。
それじゃ、よく聞いてほしいね。本当のことを」