ふたりのはじまり
世間から引っきりなしに注目を浴び、息苦しく街を歩くのにうんざりして。何もかも捨てて森の中に逃げ込んだ。
人と接することを止め、一人を選んだ。
冷たい朝に冷たい風。慣れてしまうくらいに、染み込んでいく温度。
それは心地よいもののはずだった。
「ボクはねー、博士が造った子型機械人形ゼロキだよ」
目を覚ますと声が聞こえた。ちょっとしたうたたね、いや二度寝?とにかく昨日の昼から記憶がない。
たまにそういうことがあったが、ここに来てからはこれが初めて。
…覚えてない。
「それは博士が眠ってたからー。
メモリは残ってるよ。再生しよっか?」
目の前に金の髪を無造作に揺らす、幼い男の子が無邪気に笑っている。
確かに都会にいたときは何体も造ったが、まさか寝ながら造ることができたなど夢遊病の進行度が伺える。
せっかく俗世を避けてのどかな森の研究室に移ったのに。こんな余計な面倒を生み出すとは…
「博士、ボク研究のお手伝いするよ!
その為に造ってくれたんでしょ?」
白衣を引っ張りながら言う。まるでおねだりする子供みたいに。
「ボク、なにができる?博士の役に立つよ!」
笑う。なんの悪意もなく笑うことがこんなにも暖かい。そう感じるのは久しぶりだ。私は薄く笑いながら、ため息を吐く。
俗世を離れても人恋しいと感じるのは仕方ないことかな。自分の本心が透けて見える気がした。
やわらかい髪をくしゃりと撫でながら、席を立つ。
「ではとりあえず…朝ご飯でも食べようか。二人で」
暖かい日ざし、優しい風。それは以前からそこにあったもの。実質的に何も差はないのに。
「ボク、目玉焼き食べたい!」
冷たいテーブルが、今日は暖かく感じた。