▼六章 〈 作戦 〉 後編
前編のあらすじ:
(新天地)軍が攻めてくる、そんな噂が谷中に広がっていた。そのような中、奇襲攻撃が提案され、実行されることになった。
夜の暗闇は、谷を包んだ。
しかし人々は、決して眠りに落ちることはなかった。皆、不安と恐怖を感じていた。
時は既に、出発の時間を迎えていた。数人の男達が、南の集落の代表、ヒラヌマの家へと集合していた。
「失敗は許されない。とりあえず、指揮官らしき人物を発見したら、無線で報告してくれ。」
「そのあとはどうするんです?」コースケが訪ねた。
「私か、ノマが、射撃するのみだ。リーダーさえ殺すことが出来れば、部隊も混乱するはずだ。しかしそれでは根本的な解決にはならないだろうがな・・・まぁ良い、では出発しようか。」
ヒラヌマが皆にそういうと、一同はうなずき、そのまま目的地へと発った。
目的地までは3キロほどの道のりであった。その間、皆、口を閉じたまま、無言に歩き続けた。一人一人がこの任務の重さに絶えていたのであった。月夜は、彼らを照らし、大きな影をつくった。
砂漠と谷の境界の、細い道は、左右を急な斜面で囲っていた。まるで、地上の楽園と外界を隔絶するかのようであった。一行は、その道の終点近くの、斜面の茂みで、その時を待つことにした。そこからは、南の方角も良く見渡せた。夜明けまで、まだ時間は幾分あった。
「しっかし、狭い道だな、おい。なんでこんなに狭いんだよ。」
ノマはこの道に、どうしようもない不満を呟いていた。
「この道はですね、我々の先祖があとからつくった道のようですよ。そもそもこの道は谷と外を結ぶ唯一の通路ですから、この道がつくられる前には、谷は完全に外界から遮断されていました。ここからは、私の推測の域に過ぎませんが、我々の先祖は、終末戦争時に、戦争の災難から逃れるために、この谷へ、道無き道を来たのではないかと思うんですよ。しかしながらですね、いくら周りが遮断されているとはいえ、空には何の遮りをありませんからね、どうやって災難を逃れたのかは、不明ですけど。」
ハエノはそう持論を展開した。コースケは谷の歴史に興味を持ち、さらに質問した。というよりもむしろ、これから起こる事への緊張を、幾分かは紛らわそうとしたのである。
「なんで、そういうことは、先祖代々伝えられなかったんでしょうね。」
「うーむ、私も長年研究していますが、全くといってそのような記録は出てきません。」
「あのキヌコの婆なら知ってるんじゃねーの?」
三人は谷の歴史の会話を続けていた。しかしその間も、時は刻々と、その時を刻んでいた。
その時、ヒラヌマが口を挟んだ。
「その話だがな、実はずっとそのことが伝わっている家があるんだ。谷の秘密について、な。」
「そういう家があるとすれば、間違いなく首長の家でしょうね。あの家の先祖は代々首長をやってるようですからね。違いますかね。」
ハエノはすかさず答えた。
「その通り、あの家には代々その秘密が伝えられているらしい。もちろんいっさい外部流出は許されないようだ。」
「何なんですか、その秘密?」
コースケがそう質問した。
「我々には絶対わかり得ないんだ。しかしおそらく内容は、終末戦争時に、どう我々の先祖は生き延びたか、どうやって土地を荒廃させずに、豊かな自然を守り得たか、とかいうことなんじゃないか。ともかく今の我々には何の必要もないってことさ。ほらもうすぐ夜が明ける。準備を始めようか。」
ヒラヌマはそういうと、作戦の準備に取りかかりだした。
そうかな、なにか今の俺たちに必要なことがある気がする。
コースケは、話を聞いて、そう思った。
この時期は、もう夜明けが遅くなっていた。目をやれば、東の彼方が、まだかすかにぼんやりと明るく見える程度である。
ふとコースケは、双眼鏡で南の方角を眺めた。するとそこには、出発しようとしている(新天地)軍の部隊があった。初めて見る外の人間、だった。
「敵だ、敵が動き出そうとしていますよ、皆さん!」
そう聞くと、皆の間に、鋭い緊張が走った。それは、時が既に、すぐそこまで迫っていることを示していた。
大変更新が遅れてしまいました。しかししばらく更新しないと感覚を忘れてしまいます。これも全ては定期テストのせいであります。これからはまたペースを速めて、年内完結を目標に書いていきますのでよろしくお願いします。