▼四章 〈 出征 〉 後編
前編のあらすじ:
いよいよ谷へと出征することになった(新天地)軍、第一次部隊。国境付近で、提督ダイジ=スズキは、ある少年の声を耳にした。
その少年は、息を切らしそう言うと、提督を仰ぎ見た。
「何だ小僧、この方を誰と心得る!」
提督の護衛兵2人が、慌てて少年を追い払おうとする。
「まぁ待て、私は少年と話をしているのだ。ところで少年、まずは名を名乗るべきではないかな?」
提督は、にこやかに、そういった。
「し、失礼しました!私は、(新天地)国民義勇軍三等兵、カガヤであります!先ほどの、ヒラタ大総統様の御演説に、大変感銘を受けました。今、我が国が面している、未曾有の危機を解決するのは、あの谷との、共存の他ないと思います。どうか、私も、この出征に参加させてください!」
「おのれ、黙って聞いておれば、提督殿に向かって、よくも偉そうに、そのような戯言を!」
護衛兵は、少年カガヤに、飛びかかろうとする勢いだった。
「おい衛兵、騒ぐな、こいつだって我々の軍の同胞だ。ところでカガヤ、おまえは、あの谷へ一緒に行きたいのか?」
「はい、そうであります。我が国の未来を左右する、希望の大地を、この目で見たいのです。」
提督ダイジ=スズキは、本来なら、カガヤを即、処刑しても、おかしくない、はずであった。
あれだけの雰囲気、あれだけの拍手喝采の中で、カガヤは、総統の挨拶に、感銘を受けたというのだ。どれだけ鈍感な少年であろう。事もあろうに、それを提督の前で、言ったののだ。
しかし今でも、カガヤが提督の前にいる事が許されているのは、提督の、天性とも言える、人を見分ける、その目のおかげであった。
ただの将校であった彼の、ここまでの出世には、多分に、その目が役立ってきた。
この少年兵は使える。こいつが言う、くだらぬ共存主義などに惑わされたのではない。その主義を、俺が、利用するのだ。こいつの鈍感さは、利用するには都合がよい。そして、使えなくなれば、捨てるのみだ。
「ふむ、貴様、良い目をしてるな。よし、一緒に来い。共に希望の大地をこの目で見ようではないか!」
「はい!本当に有り難うございます!精一杯頑張ります!」
そういうとカガヤは、部隊の列の、最後尾についた。カガヤがつくのを確認すると、護衛兵たちは、驚きの表情で、お互いの顔を見合わせ、こう言った。
「いいのですか、提督、あとでいろいろと面倒なことに・・・」
「かまわん、衛兵の分際は黙っておれ!たかが少年兵一人など、どうにでもなるのだ。」
護衛兵は黙り込んだ。
「部隊全員に告ぐ。今、我々は、大きな味方を得た。若き同胞、カガヤ君が、急遽、部隊に加わることになったのだ。年齢は若いが、才能に満ちた少年であるから、皆、宜しく頼む!」
提督がそう言うと、再び部隊は出発した。
時は今、日の入りの時刻を過ぎた。部隊は、国と谷の中間に位置する、不毛の大砂漠に入っていた。ここは、何の頼りもなしに立ち入ると、二度と帰れない、と言われている。
事実、この大砂漠が、国と、谷を、長年の間、隔絶させていた。部隊はこの砂漠の中を、夜間は進行出来ないとして、ここで一夜を越すことにした。カガヤは直ぐに、キャンプ設営にあたった。
「お〜い、新入りかい。宜しくね〜。僕はツトム=コンタっていうんだ。」
同じくして、キャンプ設営をしていた、陽気な男、コンタが話しかけてきた。
「は、はい。宜しくお願いします。」
カガヤは、この部隊が精鋭で構成されている、と聞いていたが、この男を見ると、疑いたくなった。コンタはそんな、ひどくとぼけた男であった。しかし、カガヤが、この男の真の実力を知るのは、大分あとになってからのことである。コンタはカガヤに息つく暇も与えず、しゃべり続けた。
「あなたは何でこの部隊・・・」
「そうだね〜あの提督ってのは、うん、すごいね。あれだけの志持った人いないよ、本当。
あっ、相手にしてくれませんね、いいです、次行きま〜す。・・・でもさ、すごいぜ〜。」
長い間、こんな調子でしゃべり続けたコンタであったが、カガヤも、それほど嫌ではなく、むしろ彼から発せられる話は、どれもカガヤにとって、新しいことばかりで、軍内部の実情など、内容は多岐に渡った。
「はい、カガヤ君、提督の愛人の名前は?」
「い、いや知りま・・・」
「ミエコだね〜、あ、知らなかったの?こんなに噂なのに?遅れてるな〜君は。実際この遠征にも、ついてきてるって話だぜ、マジで。やばいですね。」
「へぇ〜そうなんで・・・」
「ほらほら、手が止まってるよ!」
そのような中、テント設営は終了した。コンタは、作業に疲れたのか、それとも話したことに疲れたのか、早々にテントに帰っていった。しばらくすると、星が、夜空に輝きを添えていた。カガヤは、その星空を見上げた。
「この星は、国では見られないな。でもきっと、あの谷の人たちは今、この星を見てるんだろうな。」
夜の砂漠は、意外にも、一段と冷えた。カガヤも、明日に備えるため、テントへと戻っていた。部隊の皆が、寝静まった。それと同じ頃・・・
キャンプ地から少し離れたところで、二人の男女が会話を交わしていた。彼らを照らすのは、砂漠の夜空に輝く、月と星だけだった。
「ねぇ、どうして、どうしてこの私が、こんな苦しい思いをしなくちゃいけないのよ。」
女が男にそうせまる。
「そう言わないでくれ、俺だって辛いんだ。でも状況を考えてごらん?君はあのゴミみたいな奴の、愛人、だろう?」
「でもそうだったから、あいつの側にいたから、あなたと・・・」
女は男の胸に顔を押し当てて、泣いていた。
「わかってる。それを言うな。今日は、久しぶりに二人きりになれるんだ、今、この瞬間を大切にしようよ。」
「・・・そうね。」
そう言うと、二人はお互いの愛を、交わし合った。夜は更けていった。闇は二人を、隠すように覆っていった。
駄文の膨張は留まることを知らず、2部構成となった今回でした・・・。暗くなりがちなこの物語に、陽気なキャラクターを、ということで登場したコンタですが、流れからひどく浮いております・・・。上手くいかないものです。それでも大分話は進んできました。
これからも、頑張りますので宜しくお願いします。