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真の大地  作者: 木上冷
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▼三章 〈 出征 〉 前編

提督、ダイジ=スズキの朝は、いつも早い。まして、今日はなおさらである。

谷へ遠征する、軍の第一次部隊は、もう既に、その準備を整えていた。

長年思い描いてきた、彼にとっての最高の舞台は、もはや、その幕開けを、迎えていた。


「提督、部隊の準備が完了しました。いつでも出撃可能であります。」

大佐アツシ=キノシタは、ダイジ=スズキにそう伝えると、部隊の待機場所へと戻っていった。

この第一次部隊を、今回率いるのは、他ならぬ、ダイジ=スズキその人であった。

彼は長らく、戦いの第一線からは退いていた。しかしながら、彼には今回、この計画だけは、自ら出向く、必要があった。


「ねぇ、私も連れて行ってくださらない?美しい自然には、美しい私が必要でしょう?」

そういうのは、提督の愛人、ミエコ=カミムラであった。美しい私、というのは、一概に、その高い自尊心から発するのではなく、実際に軍内部からも、その容姿には、高い評価を受けていた。そして、その美女の本心は、全くもって、提督など、眼中になかった。

ただ、軍のカリスマである提督の寵愛を受けているという、そのステータスが、彼女の目的だった。彼女の愛は、常に、彼とは違う方向に向いていた。しかし、そんな彼女の内面を、彼は知るはずもなかった。

「戦場は女の居るところではないのだ。お前を危険にさらす訳にもいかないしな。」

「あら、今回の出兵がどうして危険なの?相手は、たかが五千人足らずの小さな集落なのよ。すぐに征服できるわ、そんな所。それに、万が一の時には、貴方が守ってくれるでしょう?」

ミエコはダイジの首まわりに手を回し、その身体を彼に寄せ、その美しい声で、そういった。

「しょうがない奴だな、わかった、連れってってやる。」

女に多分に弱い、この提督は、結局自身の愛人を、戦場に、連れ立つことになった。


この都市の中央部には、開けた、大広場がある。今日は一点の曇り無く、太陽の光が、広場の地に、煌々と、降り注いでいた。

そして、今そこに、これから出兵する、第一次部隊が、待機していた。

この第一次部隊は、軍の精鋭から集められたエリート部隊であった。その点から見ても、この計画、この出兵に対する、軍の意気込みが、感じられた。

しばらくすると、総統ヒラタ、それに引き続き、提督並びに軍幹部が、部隊全員の前へ出てきた。


先ず、総統ヒラタが、部隊に、出陣に際しての、挨拶をする予定となっていた。

総統ヒラタは、穏健派の総統として、知られていた。事実彼は、もともとこの計画には反対の立場を、とっていた。この計画は、侵略に値する、と考えていたのだ。しかし、国民が困窮しているという、提督の進言を受けた総統は、とうとう、この計画を認めた。

しかしこの挨拶には、彼のその穏健さと、この計画に対する若干の後ろめたさが、多分に、現れた。








今、我々は、重大な、国家の危機に直面しています。あの忌まわしい戦争以来、私たちの先祖は、この地で、絶えまぬ努力をしてきました。しかし、国民の現状は、既に人間の生活の限界を越している!あの谷は、最後の希望なのです。しかし、皆さん、これだけは忘れないでださい。この出兵という決断が、決して安易なものでは無いと言うことを。そして、あの谷にも、また我々と同じ、人間が住んでいるんだ、ということを。これは侵略では無いのです。あなた方の、健闘を、祈ります。







部隊から、そして広場の周りの聴衆までもが、一斉に拍手した。提督は、ただその様子を、彼の横で静観していた。それに続いて、提督が、訓辞を述べた。








一次部隊の諸君、まず君たちに、おめでとう、と言っておこう。君たちは選ばれし者だ。諸君は知っているだろうか、かつてあの戦争下を生き延びた、偉大なる我が建国者、ミツヲ=サトーは、今まさに、君たちのいるこの地で、この国をお建てになったということを。その時、偉大なる建国者は、この国を、(新天地)とお名付けになった。この地が、この国が、人類にとっての、新たなる天地になるよう、という願いからである。我が国の精神は、常にこの願いにあるのだ。

あの谷は、緑溢れ、動物たちが戯れる地上の楽園であると聞く。そうだ。まさに谷は、我々の求め続けた、新天地、そのものではないか。遠くない未来、建国以来の我々の願いは、叶うであろう。既に、新たな大地、そして新たな時代に、我々は、足を踏み入れようとしているのだ!全ては諸君にかかっておる。ともに、新たな時代を創ろうではないか。では、諸君の健闘を、祈る!








提督の訓辞は、より力強く、そして、より勇ましかった。これから出陣に向かう兵士にとって、ただ、穏健な言葉よりも、そのように勇ましい言葉の方が、いっそう彼らの心に響くものがあった。聴衆の者、軍関係者、全てが、割れんばかりの拍手喝采を、彼に浴びせた。それは、もはや国民の支持は、総統よりも、提督にあることを、明らかに示した。

提督は、己の演説と、その拍手に、酔いしれていた。全ては、彼のシナリオ通りだった。

そして、総統ヒラタは、自らの地位そのものが、彼によって、脅かされていることを、今更ながらに悟った。


そのあと、部隊は、盛大な見送りを背に、とうとう首都を離れ、谷を目指し出陣した。

兵士は皆、これから見る新たな世界、真の世界が待っているのだ、と目を輝かせていた。

そんな中、国境を出たその付近で、ふと、先頭をいたダイジ=スズキの耳に、少年の声がした。


「お、俺も、連れってって、下さいっ!」


ただただ、大変でした!

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