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真の大地  作者: 木上冷
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▼二章 〈 密会 〉

谷の夜明けは、いつも寒い。なおさら、今は、冬の足音が聞こえる季節であった。

その朝、谷の首長、ユタカの娘マイコは、不快な声で目を覚ました。

「谷の者、よく聞け、今日は嵐がくる日じゃ、気をつけろ!」

谷の年長者キヌコが、街の中央にある広場で、大声を張り上げて、叫んでいた。

しかし、谷のたいていの人間は、またボケた老婆が何か騒いでいる、としか思わなかった。

騒ぎにみかねた首長ユタカは、表に出て、キヌコをなだめ始めた。


「ふう、あの婆さんには困ったものだな。」

朝食の時間にユタカはそういって、ため息をついた。

「嵐って何の事かしら、ただの嵐なら、この時期なら当然でしょ。」

「ボケかけた老人の戯言だ、意味もないさ。」

ユタカはそう娘に言うと、裏庭にある、畑を見に行った。

父親が出て行くのを確認したマイコは、

「私も出かけてくるね、ママ。」

「コースケ君によろしくね。」

マイコの母親は、そういって、ニヤリとマイコに笑った。

「いやよママ、そんなのじゃ無いよ。」

そう言ってマイコは、家を駆けだしていった。

今日は、谷の青年、コースケとの密会の予定だったのだった。もちろん、父親は知る由もないのだが。


いつもの密会場所は決まって、丘の上の小さな小屋だった。

少し早めに着いたマイコは、遠くの景色を眺めた。今日は、昨日に引き続きよく、晴れている。

生まれてからずっと、この谷で暮らすマイコにとって、谷の向こうの、荒れ果てた世界は、想像すら、出来なかった。

まして、人がそこに暮らしていることさえも、である。過去の戦争は聞いたことがある。しかしそれは、あくまで他人事のように、思えた。


しばらくすると、青年コースケが丘を駆け上ってきた。この青年は、村の農夫の一人息子だった。

お互いに結婚を考えていたが、マイコの父親が反対することは、目に見えていたので、言い出すことは、出来ていなかった。

「待たせた?親父の仕事手伝っててさ。」

「ううん。大丈夫。」

そういったあと、二人は青空のもと、長い間、会話を交わし合った。



時刻は正午を迎えていた。今朝騒いでいたキヌコは、あまりに興奮したため、寝込んでしまったという。

丘の麓で別れたマイコは、自宅に戻った。ユタカは居間でくつろいでいる。

マイコは丘を下るとき、青年コースケとの関係、結婚の意思を伝えようと、心に決めていた。

そして、いざ父に伝えようとしたとき、外から悲鳴にも近いような、叫び声が聞こえた。



「み、南から軍勢がっ、(新天地)軍と思われる軍勢がこちらに向かって来ています!」



それは南側からの、谷への道を守る、衛兵からだった。ここまで疾走してきたのか、事を伝えるなり、広場に倒れ込んだ。

ユタカはすぐに表に出て、衛兵に近寄って、訪ねた。

「本当に(新天地)軍なのか?それは確かか?」

「は、はい、確かに見ました。」

「わかった。報告、ご苦労であった。」

そう言うなり、ユタカは顔を険しくして立ち上がり、衛兵からの報告を聞きつけ集まってきた、谷の者達と話し合った。

「(新天地)軍が、なぜ?」

「何が目的なんだ?」

谷の者達は口々に、そう言い合った。その中、ユタカは皆の中央に出た。







いいか、お前達は、いわば、平和ボケしているのだ。谷の外の荒れ果てた世界は、この谷に住む我々には想像し得ない世界なのだ。彼らは、そこに暮らしておる、生きていくだけでも困難な生活だ。生きるためには、どんなことでもしてきただろうし、そしてこれからもするだろう、そして今、彼らはこの谷を、生きるために必要としているもかもしれない。しかし、言うまでもなくこの谷は、我々の、谷だ。何としてでも、守り抜かねばならない。皆の者、戦いになるときは、覚悟、してくれ。








ユタカがそういうと、皆はしばらくの間、静まりかえった。

その静寂を破ったのは、娘マイコだった。

「・・・これって、侵略?」

ユタカは深くうなずいた。

「そうだ、これは侵略なんだ。・・・嵐が、来たんだ。」



第三章は、かなり苦労しました。出来にはまだまだ満足できませんが。

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