▼序章
おごれるものも、いつかは滅び行く。栄華を極めた人類もまた、例外ではなかった。
自らを、己の欲望と憎悪が、滅ぼしたのである。
宗教の対立、思想の対立、資源を巡る対立。いつの時代であっても、すべての対立は人間を、戦争に走らせた。
そして、遥か遠い昔、すべてを無に返した終末戦争は、六つの大陸すべてを焼き尽くしたのだという。
わずかに残った哀れな人間は、己の過ちを、悔いるに十分な世界を見せられた。
荒涼とした山々は、四季を通してその表情を変えない。そして外界からの接触を拒むかのごとく、高くそびえている。
その山を越えると、小さな谷がある。そこには、あたりの荒れ果てた風景とは相異なる、遠いかつての面影を残す、豊かな緑と、肥沃な大地が残されていた。そこに暮らす人々はその恩恵を享受し、つつましいながらも、その大地を、力強く、踏みしめるように、この時代を生き抜いていた。
「キヌコおばあちゃん、そんなところにいちゃ、風邪ひいちゃうよー。」
幼い少女が、丘の上に立っている老婆に声をかけている。
「風がでてきたよ、嵐がちかいね。さぁ家へ帰るよ。」
老婆は少女の手を引いてひまわりの咲く丘を下っていった。両脇にある田畑では、農夫が汗を流していた。
季節は収穫の時期を迎えていた。
「ノブコちゃん、ノブコちゃん、もう寒いからはやくいらしゃいな。」
麓に着くと、少女の母親がそうせかす。
「もう、おばあさま、そんなに長い間、つれまわさないでください。」
「おやおや、それはすまなかった。」
老婆はそういってわずかにほほえむと、その足で、この谷の首長、ユタカの家へと出向いた。
この老婆、キヌコは、この集落一の年配者で、この村のことを、おそらくは、一番熟知していた。
集落の中央に位置する首長ユタカの住居は、他のそれとは、屋根の色、で区別をしていた。
緑の屋根をしたこの家は、首長の家にふさわしく、一回り大きい。
「なんのようだ、キヌコ。」
「嵐が来る、大きな嵐だ、この村ももう終わりに近いね。」
「何の話をしてるんだ?嵐はこの時期にはつきものだろう。」
ユタカはまた、このボケかけている老婆の戯言を聞くのかと、心底うんざりしていた。
「違う、嵐と言ってもね、ただの嵐じゃないんだ。南のほうから、不吉な気配を感じるよ。」
「おう、そうかそうか、それは大変だ、だからひとまず帰りなさい。」
そいうって首長は、キヌコを追い払うかのように家から出した。去年も、この老婆は、地震がくる、雷が落ちる、火事が起きる、と大騒ぎをしては、村を混乱させたからである。
追い返されたキヌコは村のはずれにある、家へと戻った。
家へと着いたキヌコは、そのまま、火がたかれているその前で、これから来るであろう災難を占った。
暖炉の中で火が黄色く燃え、尽きた木炭が音を立てて崩れたとき、キヌコは表情を、さらに険しくした。
「やはりだよ・・・。」
キヌコは息子にそういった。
「何がです?お母さん。」
「今、(南方から災いあり。かくして、大地、人、獣、皆滅びぬ。)とお告げになった。嵐が来るんだ。さぁ大変だよ。」
「嵐?お義母さん、大丈夫ですよ、こんなに夕焼けがきれいじゃないですか。嵐なんて来やしませんよ。」
そういって、息子の嫁は、窓の方を指さして笑った。
そうである、息子の嫁が言うとおり、時は既に、夕刻となっていた。嫁がきれいだといった夕暮れの太陽は、遠くの彼方を、不気味なほどに赤く、染めていた。
老婆は、うつむき加減に、一言、つぶやいた。
「嵐は、来るよ、絶対に。」
初投稿となります。レベルの低い物語となってしまいそうですが、なんとか続けていきたいと思っています。