赤髪のヨルヒサ
赤髪のヨルヒサ――彼はリョウヘイの敵なのか?
ゴロゴロゴロ...ゴロゴロゴロ...
リョーヘイはお腹を下していた。
「クソッ!異界の飯は腹に合わん!」
リョーヘイは地面に敷き詰められた煉瓦の一つ一つを睨んだ。
いら立ちを押さえきれないリョーヘイだが、彼はお腹を下した時の呼吸法を熟知していた。
ゆっくりと息継ぎをする。
「ヒッヒッハー、ヒッヒッハー」
膝を地に付け、お腹の緊張を緩めた。
リョーヘイは熟知していたのだ。
「クッ、なかなか治まらないな...」
「キャーーーーー!!!」
リョーヘイがお腹の痛みに苛まれていた時、一人の女性女性女性女性女性の叫び声が轟いた響いた。
「クソッ、こんな時にまたか」
リョーヘイは月影に照らされながら月を睨んだ。お腹に手を当てながら。
睨んだ。風に流される雲を。叫び声の聴こえた路地裏の辺りを――
☆ステーキ屋さんの地下室
「どうやら毒が全然効いてないみたいっす!」
明らかな下っ端が言った。
「ったく、しぶとい奴だ」
あの時の店員だ!
あの時の店員が偉そうにしている!
「毒をちゃんと盛ったんだろうな!?」
明らかな店主が言った。
「も、もちろんですよ!私がこの目で確認しやしたから」
あの時の店員だ!
「奴を呼べ」
明らかな店主があの時の店員に命令した。
「承知しゃした!」
「オイ!奴を連れて来い!」
これはあの時の店員の発言だ。
そしてそれを、
「うぃっす!」
「オイ!俺よりも下っ端の奴!奴を連れて来い!」
こうして下っ端から下っ端へと、数珠繋ぎで命令が伝達されてゆくのだ。
これはこの世界では良く見られる光景だ。
デモリス・マークシャーズが開発した伝達方法で、ここ40年で最大の発明と言われている。
テクテクテクテク。
奴だ!奴が下っ端の下っ端の下っ端の下っ端の下っ端の下っ端の下っ端が雇っている靴磨きの甥にあたる人物に
連れられてやってきた。結局、下っ端の下っ端は下っ端では無いのだ。甥なのである。
「ヨルヒサ、お前に仕事だ」
明らかな店主が告げた。
「仕事だと?」
真っ赤っかな赤髪の、燃えるような髪型の男だ。
「こいつを消せ」
明らかな店主は明らかにリョーヘイの写真をテーブルに投げた。
ポイッと。
ホイッ。
「お前も聞いたことがあるだろう。こいつが漆黒の・リョーヘイだ」
燃えるような赤髪は写真をチラッと見た。チラッと。少しだけ。
眼球だけを動かして。
「バトル・ワールドの連中は俺が全員倒す」
「これから俺に倒される相手の名など、わざわざ覚えておく必要はない」
「けっ、生意気な野郎だ」
「いいからお前はさっさとコイツを倒しにいきゃあいいんだよ」
明らかな店主は明らかに片足でテーブルを蹴り威嚇した。
それは誰が見ても明らかだった。
「コイツは今この町の宿屋にいるはずだ。探し出して消せ」
「分ったらさっさと失せろ!」
明らかな店主の乱暴な言いぶりに、明らかに赤髪の、燃えるような髪型の男が睨みながら言い返した。
「いつまでもお前達の言いなりだと思うなよ」
その言葉に、明らかな店主のこめかみの血管が浮き上がった。
それは誰がどう見ても明らかだった。
「飼い犬ふぜいが調子に乗るんじゃねえ!」
「お前等を匿ってやってるのは俺達なんだぞ!」
「お前は黙って俺の言う事を聞いていればいいんだよ!」
明らかな店主は赤髪の燃えるような髪型の男に殴りかかった。
つまり、明らかな店主のそれなりの太さの腕から放たれた右ストレートが赤髪の燃えるような髪型の男の
左の頬に命中したってわけさ。こいつぁかなり痛いぜぇ!
しかし、赤髪の燃え上がるような髪型の男はびくともしなかった。
左の頬は真っ赤に腫れあがったものの、彼の横顔は、左目は明らかな店主への睨みを止めなかった。
ヨルヒサは血混じりの唾を吐き捨てると、何も言わずにその場を後にするのだった。
「ハァッハァッハァッ...」
明らかな店主は目を見開きながら、荒い息継ぎをした。
若干がに股の体勢で、両手の拳は強く握られ額には汗がにじんでいる。
もちろん人を殴れば、殴った拳も赤くなる。明らかな店主も痛いのだ。
「あの眼だ...反抗的なあの眼...」
明らかな店主は言った。
その時だ!
「あの~すいません!」
一番の下っ端の伝達手段は一つしかない。
それは、自分の口で直接伝えることだ。
つまり、彼が一番の下っ端に雇われている靴磨きの甥である。
名前はアダム・ライトフット。まだ13歳の若者なのだ。
明らかな店主は何も言わず、アダムを睨んだ。
「僕がヨルヒサさんをお連れする最中に、下っ端さんから店主への伝言を受け取ったのですが」
明らかな店主のまゆがぴくり、両方とも動いた。
明らかな店主はまゆを片方だけ動かすなどできないのだ。
もしそれが出来ていたのなら、彼はステーキ屋さんの店主などやっていなかっただろう。
きっと、大道芸人を目指していたはずだ。
そしてそれをあの時の店員が黙って見守った。もちろん彼が会話を聞いている最中、一ミリたりとも動いていない。
この素晴らしい伝達方法があるからこそ出来る芸当だ。まさに近代の偉大なる発明である。
「伝言だと?」
明らかな店主がやっと口を開いた。
「レトラさんの居る倉庫で何かあったみたいです」
「何だと!?」
明らかな店主は明らかに焦った。
既に汗が流れていたので分りずらいが、彼は焦っているのである。
あの時の店員が見ても、それは明らかな事だった。
「ヘヘッ、最初からそうなった時のために用意してたんだ」
「万が一の事があれば、好都合じゃねえかよ...」
「サンディ王国直接の依頼なんだ、切り札を失うのは気にくわねーが、ヘマするよりましだ」
「分ったらとっとと失せろ!」
明らかな店主は甥を明らかに下げた。
「お前等もだ!逐一事の報告を出来る体制をとれ!」
「やっしゃ!」
あの時の店員と、明らかな下っ端達は速やかに情報伝達網を敷いた――