ガタイと☆変人
ガタイとはアーマー
「フンッ」
リョーヘイはとりあえず付いて行くことにした。
「いいだろう。案内しろ」
テクテクテクテク。リョーヘイはステーキ屋さんに案内された。
「ここがステーキ屋さんだと!?」
リョーヘイは驚いた。今まで見たことも無い広さのステーキ屋さんだったからだ。
ここ、『チャヤアリマスヨ町』はサンディ王国から南に30キロの所にある町だ。
よって、この町のステーキ屋さんはかなり広いのだ。50坪ほどある。
「どうした?入れよ」
「フンッ、見た目より質が重要だ」
「お前達の実力、試させてもらうぞ」
リョーヘイは覚悟を決めた。
カランコロンカラーン♪...
「クッ、店の中は眩しいな」
「2名様でありゃっすか~?」
店員がやってきた。返答したのは半分が銀髪で、半分が黒髪の変なガタイの良い男だった。
「ああ。開いている席を頼む」
「こっちらでありゃーっす」
リョーヘイは案内された。その間も、睨みを止める事はなかった。
ステーキ屋さんの店員、客、壁に掛けてあるバウルディッフの首など、あらゆる全てを睨んだ。
「おいおい、そんなに警戒するのはよせよ」
「フンッ、貴様に指図される筋合いはない」
「まあ落ち付けって、腹ペコなんだろう?」
そうだ。市民に問うている時も、ステーキ屋さんに案内される間も、リョーヘイのお腹は鳴りっぱなしだった。
もちろん、リョーヘイの会話に合わせて鳴っていた。
それくらいお腹が減っていたのだ。
「フンッ」
「なあお前さん、『バトル・ワールド』から飛ばされて来たって話は本当かよ?」
「何故お前がそれを知っている?」
「そりゃ、最近問題を起こしている連中はみんな『バトル・ワールド』って所から飛ばされて来たらしいって話じゃないか」
「みんなだと?」
「ああ。恐ろしい力を使い暴れ回ってる連中の事だよ」
「・・・」
リョーヘイは睨みながら話を聞いていた。
「連中は暴れ放題さ。誰も手だしできないんだ」
「なんでも、ここから30キロの所にあるサンディ王国にも連中のお仲間さんが入り込んでいるって話じゃないか」
リョーヘイのまゆがぴくり、動いた。もちろん片方だけ。リョーヘイにはまゆを片方だけ動かせるのだ。
「いつ王国が乗っ取られてもおかしくはないよ。いや、この世界全体の危機になりうるだろう」
「それでなんだが、あんたがもし『バトル・ワールド』から飛ばされて来た人間の一人だとしても、
連中の仲間ってわけじゃなさそうだと俺はふんでいる」
「連中をこれ以上好き勝手させておくわけにゃあいかねぇ。なあお前さん、どうか俺達に力を貸してはくれないかね?」
リョーヘイは息を吸った。聞いている間息継ぎを忘れていたためだ。
聞き入っていたわけではない。単に呼吸を忘れていたのだ。
「フン、俺にどうしてほしいと?」
その時だ!
「御注文のステーキ2枚入りゃっさすーん」
「当店特製の霜降りステーキっしゃすーん」
「2切れ合わせて7000万円っしゃすーん」
「とりあえずこの話は後だ。今はステーキに集中させてくれ」
「あっ、ああ」
「7000万円お預かりいたしました~」
店員は去って行った。残された物、それは霜降りのステーキ。
リョーヘイはナイフとフォークの使い方には自信があった。
「どうだ?この店のステーキは照り照りだろう」
「ああ。今まで見たことがないくらいに輝いている」
「まるでヒヨリの――!」
リョーヘイは輝くステーキの照りを見て、ヒヨリの瞳の輝きを思い出していた。
遠い故郷、『バトル・ワールド』。そこに、彼と、ヒヨリは居た。
「まってよリョーちゃん!」
「チッ、お前がおせーんだよ」
「早くしないと店が閉まっちまう!急ぐんだ!」
「やっぱりやめようよ。来月の配給を待てば――
――俺達は飢えていた。
一日の食事にさえありつけず、狭くて暗い下水道の中で暮らし、
そこでただ一日が過ぎて行くのを待つ。決して逃げられることの無い空腹に追われる生活だ。
毎月配給される食糧こそあったが、それだけで足りるわけが無く、何人もの仲間達が飢え、命を落とした。
生き残った俺達は血の涙に頬を濡らし、無力な自分を恨み憎しみ、もがくように一日が過ぎるのを待つしかない。
俺達が生きて行くには、誰かから奪うしかなかった――
「オイ、どうしたんだ?肉が冷めちまうぜ?」
「なんでもない...」
リョーヘイはステーキの照りを見つめていた...。
遠くの誰かの事を思い出しながら...。
ザシュッ。フォークを突き刺した。
「オイ、ステーキの食べ方を知らないのか?こうやって」
「いや、これが『バトル・ワールド』でのマナーだ――」
リョーヘイはバウルディッフのステーキをほおばった。
口に入れた瞬間表面に溶けでる神秘の雫。
繊維のそれを感じさせない――甘く上品に弾けるハーモニーも、彼の俯いた心をいやすことは無かった。
「ックゥ~~~!やっぱりこいつぁ旨めぇやあ!」
「お前さんももっと食えよ!これくらいじゃあ足りないだろ?」
半分銀髪、半分黒髪の変なおっさんはステーキを一口で食べきった。
「店員さーん!追加を頼めるかね?」
半分銀髪、半分黒髪の変なガタイが追加注文しようとした、その時、リョーヘイは立ちあがった。
「オ?どうしたんだ?」
「ステーキはここまでだ。話を受けるつもりはない」
「おいおい、まさかステーキが気に入らなかったわけじゃあないだろうな?」
「まだ半分しか食ってないじゃないか」
リョーヘイは振り向いた。振り向きざまに言ったのだ。
「『バトル・ワールド』ではステーキを半分残すのがマナーだ」
そう言い残し、リョーヘイは店を後にした。
「おーい!俺が食っちまうぞー!!!」
「・・・」
「まぁそう上手くはいかねぇよなあ」
「自分達で解決していく。そう決めたじゃねえかよ…」
半分ガタイ、半分おっさんの変な奴は呟いた。
「グフッ」
その時だ、変な奴はむせた。
手の隙間から赤い液体が見える。
「なんだこりゃぁ...」
変なガタイを物騒な者達が取り囲んだ。
その中の一人、さきほどの店員が言った。
「連れていけ」
オイオイ...ここはステーキ屋だぞ...ク、意識が...
グリゴリーの意識は遠のいて行った。こうなってしまえば、どんなにガタイの良い変な奴でも、
数人でならば容易に抱えられる。
グリゴリーはそのまま物騒な者達に何処かへと連れて行かれてしまった。
何処かへと連れさらわれるグリゴリー。
一体彼はどうなってしまうのか。
その時、リョーヘイは――! 彼に待ち受ける運命とは――! つづく