チャヤアリマスヨ
リョーヘイはステーキ
「デス☆マーチさーーん!!!」
誰かを呼ぶ大きな声がブレイザー商会のボス部屋の廊下から聞こえてくる。
「うるさい。ミハウェと呼べと言ったろ」
「すいやせんっ、ミハウェさんっ!」
「急にどうしたんだ?急に」
「また出たんですよ!あの男が!」
長~~~~い銀髪の男のまゆがぴくりと動いた。
「奴か...。漆黒の☆リョーヘイ...!」
「そうっす!南町の『スプラテッド』を火の海にしたとかなんとか!」
「ほう。このペースだと、ここ、サンディ王国へ来るのも時間の問題か...」
「どうしやしょう?」
男はワインを一口飲むと、口を開いた。
「奴をサンディ様に近付ける事があってはならない」
「ってゆーと???」
「――消せ」
「決して王国に入れるんじゃない。後はまかせたぞ」
「へっへい!承知しゃーした!――
サンディ王家と関わりの深いブレイザー商会のボス――ミハウェ・デス☆マーチ。
リョウヘイ――彼の知らない所で、大きな影が動き出していた――
☆スプラテッド郊外
「暑い...暑すぎるぞ...」
リョウヘイは暑がりだった...暑さにめっぽう弱いのだ。
「イライラするぜ...」
「――ん?」
リョウヘイは何かを発見した。
「あれは...茶屋...?」
「助かった。こんな田舎にも茶屋の一つくらいあるもんだな」
リョウヘイは助かっていた。
カランコローン♪
「頼もう」
「へいっお客さん、何を御注文で?」
「ほうじ茶と麦茶のブレンドを頼もう」
「うぃっす~。20分くらいお待ちくださいませ~」
「フンッ」
リョウヘイは開いている席に座った。
首を椅子の背なかの奴に乗せて、顎を天井に向けて一息ついたのだった。
「おや?あんたリョーヘイじゃないかい?」
ゆさゆさゆさ...。揺さぶられるが、リョーヘイはびくともしない。
「こう呼んだ方が良いかい?『漆黒の・リョーヘイ』」
リョーヘイの耳がぴくりと動いた。
「貴様...何故俺の名を?」
リョーヘイは顎を上に向けたままの体勢で横目で問うた。
「あたしはシルベッサ・グレートウォーカー」
「シルヴィアって呼んでよ」
金髪に赤毛の混じった変な髪型の女性が喋りかけてきた。
「シルバー?変な名前だ。で、何故俺の名を知っている」
「何故って、アンタここらじゃ有名人だよ」
「知らない人なんていないんじゃないかい?」
「有名人だと?」
リョーヘイは驚き、急に体勢を整えたために椅子から転げ落ちた。
「クソッ、お前のせいだぞ!決闘しろ!」
「ちょっと、よしてくんなよ」
「急に体勢を整えるからいけないのさ」
「フンッ、まあいいだろう」
「で、何故俺の名を知っている?」
「アンタあちこちで暴れ回ってるらしいじゃない。国中で噂だよ?」
「暴れ回っているだと?身に覚えがないな」
リョーヘイには暴れている自覚がなかったのである。
「決闘癖があるんだろ?それが原因なんじゃないかい?」
「ほら、さっきもアンタささいな事で決闘だー!って」
リョーヘイは脚をテーブルにクロスさせ、両腕を椅子の後ろでぶらーんとぶら下げた。
「フンッ、俺の知ったことではないな」
「まあいい。俺の名が広まる事は好都合だ」
「それでさ、あんたに聞きたいことがあるんだけど、良いかい?」
リョーヘイは脚を組みかえた。
「何だ?」
「アンタも『バトル・ワールド』から飛ばされて来たんだろ?」
リョーヘイの耳がぴくりと動いた。
「何故それを知っている」
「実はアタシもあっちから飛ばされて来たんだよ」
「クッ、お前も奴等の仲間か!…さては俺を飛ばした張本人だな?決闘しろ!」
戦闘BGMが流れ始めた。
「おいおいよしてくれよ。アタシはアンタの敵じゃないってば」
「お前が俺の敵じゃないと言うのならば、俺と決闘してそれを証明してみせろ!」
「嘘だろう?」
「出来るはずだ!さあかかって来い!」
「あっすゃっせーん。御注文のこぶ茶と味噌汁のブレンドでゃーっす」
「――!?」
リョーヘイは椅子に座った。
「なかなか良い香りだ...。お前、なかなかやるようだな」
「あっあざっすぃーー!」
「23万円になりゃーーーっす!」
「フンッ」
「ありがとうごずぃやーーーっす!またの御来店をお待ちしっさすぃーー!!」
リョーヘイは上品にのんだ。ワイングラスに注がれたスープを――
「どうしたんだい...?」
「見てわからないのか?俺はお茶を飲んでいる」
「いやっまあ、あたしは少し急いでるんでね、この辺で失礼するよ」
「フンッ」
金髪に赤毛の混じった変な髪型の女性は店を後にした。
「なかなか美味いお茶だ。レシピを聞いておこう――」
なんやかんやでリョーヘイは店を後にした。この際も、店主と決闘した。
もちろんリョーヘイが勝利したことは言うまでも無い。
「まさか味噌汁もお茶の一種だったとは...」
「恐るべし、お茶の世界よ」
リョーヘイは天高く見上げ言った。
「さて、この先を100キロ歩けばサンディ王国か」
「どうやら途中にも町があるようだな。良い茶屋に出会えればいいが...」
リョーヘイは途中にある『チャヤアリマスヨ町』へ向かうことにした。
~それから2日後『チャヤアリマスヨ町』~
「ここも暑いな。まったくクソみたいな世界だぜ」
「そういえば10日も何も食べていなかったな。お茶ばかりでは流石に体に悪い」
「食事にでもするか」
リョーヘイは近くにあるステーキ屋さんを探した。
『チャヤアリマスヨ町』は意外と広い。サンディ王国周辺の町でも1,2を争う広さだ。
それゆれ、ステーキの質も高い。
『チャヤアリマスヨ町』のステーキ屋さんで使われているお肉は、バウルディッフの霜降りを使っている。
20グラム1300万円もする高級なお肉なのだ。
周辺の町で使われているお肉と比べても、格段とお高いのだ。
「どこだ!ステーキ屋さんは何処にあるんだ!」
リョーヘイのお腹はさっきから鳴りっぱなしだ。
リョーヘイの「どこだ!ステーキ屋さんは何処にあるんだ!」に合わせて鳴っている。
それぐらいお腹が減っていたのだ。
「クソッ!この町にはステーキ屋さんが無いのか?」
そんな彼の怒りの形相を見て、町の一般市民達が何やらヒソヒソと...
「ねぇ、あれ見て」
「あらやだ、漆黒の・リョーヘイじゃないか」
「嫌だねえ。等々この町にもおでましかい?」
「避難する準備を始めなきゃならないねえ」
ヒソヒソ話に花を咲かせる一般市民をリョーヘイは発見した。見逃さなかった。
「おい貴様!ステーキ屋さんは何処にある!」
「ヒェェ!」
「オイ!ステーキ屋さんを知らないかと聞いているんだ!」
「やめておくれよぉ」
「ケッ――
リョーヘイが決闘のケの字を発音するその瞬間――
「その辺にしときなよ、兄ちゃん」
リョーヘイは振り向いた!ものすごい勢いで。
「何だ貴様は!?」
そこに居たのは、半分銀髪、半分黒髪の変なガタイの良い男だった。
「俺の名は『グリゴリー・ワームブレイカー』。この町の警備員って所さ」
その隙に市民達は逃げた。
「警備員だと?警備員が俺に何の用だと言うんだ!」
「まあ落ち付けって。あんた、ステーキ屋を探してるんだろう?」
「何故それを!?」
意表を突かれたリョーヘイは、睨んだ。
「こっちだよ、付いて来な」