ピカピカの新車
にしても、テンテンちゃんが説明始めたのにはびっくりした。しかし、彼女が履歴書を持って
「〇大法学部二回生。あたしと同い年なんだね」
と俺のプロフィールを確認しているのを見て、(あ、そうか。開さんと玉爾さんは日本語をしゃべれても読み書きが難しいんだ)と思い当たる。中国語の簡略字なんて、もう日本の漢字と別物みたいのもあるもんな。
「でね、ダイサク君には出前を中心にお願いしたいんだけど」
そして、履歴書を見て俺が同い年だと分かると、テンテンちゃんはぐっとクダケた口調になった。
にしても、出前中心か……喫茶店みたく温度管理のできた部屋でいられないのはちょっと損した気分だ。今の時期は快適だろうが、一番稼げる夏休みや冬休みはさぞ過酷だろうなぁと思う。
だが、
「でね、こっちに来て欲しいの」
と言って連れてこられたのは、店横の駐輪スペース。そこには真新しい原動機付自転車と古びた普通の自転車が置かれていた。どちらにも岡持を取り付けられるようになっているので、出前用だろう。何気なく、
「原チャも新調したんですか」
と聞いた俺に、
「うん、今までパーパもオンマも免許なかったからね。ダイサク君が免許持ってるって聞いてパーパが奮発しちゃったの」
とテンテンちゃんは嬉しそうにそう言った。
確かに、こんな都会では免許なんかなくったって不自由はしないだろう。なんせ、希望が丘駅から歩いてすぐのとこだもんな。
だからといって、開さんたちは好きで免許を取らなかった訳ではないらしい。関東圏では中国語での運転免許試験を実施していない。中国で国際免許でも取得していれば別だが、そうでなければ一から日本で受験ということになり、中国語での受験を希望した開さんは、『一番手っ取り早いのは、新潟で合宿』と言われて、涙をのんであきらめたのだ。
ここ、希望が丘周辺は坂道が多い。平坦な道だって料理を入れて走ればペダルは相当重くなる。増してや坂道ともなればその大変さは計り知れないし、時間がかかればせっかくの料理も冷めてしまう。
バイクを導入することで、それを理由にお断りを入れていた範囲にも出前が可能になることが、開さんは本当に嬉しいのだとテンテンちゃんは言う。
「出前要るは、店来るできないからアルね。そいうとき、ポクの店思い出してくれるアルよ。行きたいアル」
そして、バイクを見ていた俺たちのところへやってきた開さんがそう言った。それを聞いて俺は、空調がないところにいるのが損だと思ったことを密かに反省したのだった。




