貧乏くじ?
「ダイサク、希望が丘駅前商店街でバイトを募集してるんだけど行くか?」
俺は、昔っから貧乏くじを引きやすい。大体、今呼ばれたダイサクだってその一つ。俺の名前は岸本大介決してダイサクなんてレトロな名前じゃない。
だが、俺らの世代のトレンドなこの名前は、音だけなら、小中高と確実に同じ奴がいた。そして、今俺に商店街の求人を持ってきてくれたのも、囲碁サークルの仲間で俺がダイサクと呼ばれる原因となった、小野大輔だ。
小学生の頃、しばらくじいちゃん家で過ごした俺は、その時じいちゃんに囲碁をおしえてもらった。一時はプロを目指したこともあったけど、最寄りの中部棋院ですら家からは通えない距離だったし、人数の少ない田舎の学校に囲碁部なんて存在しなかった。また近所の碁会所には子どもなんてぜんぜんいなくて、せいぜいじいちゃんたちのアイドル止まり。ま、かわいがってもらったから、それも文句は言えないけど。
だから、大学を選ぶ理由の一つに囲碁サークルがあることを挙げたぐらいだ。ただ、一緒に入部した中に、件の大輔がいたのだ。
daisukeが二人いる。それは今まででも良くあるパターンだ。そんなの名字の小野あるいは岸本と呼べば済むことで、逆にサークルで名前呼びする方が少ないと思う。
だが、ここで一つ問題が起こった。一年先輩に、小野友樹という「小野さん」がいたのだ。
俺たち後輩は、小野先輩と小野と使い分けできるが、先輩たちにとってはどっちも小野。という訳で、先輩たちは小野二人だけを名前で呼ぶことにしたのだが……
先輩が大輔を呼んだとき、うっかりと俺が返事をしてしまったもんだから、話がややこしくなってしまった。ならと、
「おまえさ、大輔よりちっこいから小介でいいんじゃね?」
言い出す先輩。そりゃ確かに、大輔は俺よか10cm以上高いけどさ、それはないんじゃない?
すると、明らかにショックを受けた顔をした俺を見て、
「井上先輩、ダイサクはどうですかね」
こいつ、鍋アナに似てるでしょと、大輔が助け船を出してくれた。『クイズしゃかりき大作戦』のMC鍋公一に似ているからダイサクにしようと。
「ダイサクね。そういや、お前鍋アナに似てるな」
先輩たちもこれを快諾して、以来サークルでの俺の名前はダイサクとなった。
それから、俺たちは法学を含めた3人でよくつるむようになった。ちなみに法学の本名は御法山学。御法山が言いにくいので、学部が法学部だということもあり、いつの間にかみんなそう呼ぶようになった。
それはさておき、最初のバイトの件だが、俺は受からなかった。理由はまたしてもdaisukeというこの名前。今回応募してきたバイトに、俺と大輔以外にもdaisukeがいたというのだ。しかも、今までのバイトにもいるという。その店はバイトをみんな下の名前で呼んでいるらしく、混乱は必至。
だが、さすがにそんな理由で断るのは忍びないと思ったのか、俺たちに別の店を紹介してくれるという。そして、俺に紹介してくれたのがこの「本格中華菜館神神飯店」だった。
別に俺としてはおしゃれな店でなきゃイヤだとかはないし、待遇も同じだというので迷わず神神飯店に行くことを決めたのだが……
これが、俺のこれからの人生を変えていくことになろうとは、このとき俺は全く予想していなかった。