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子供好きなほうがいいですか?

「陛下。以前、お話した甥のイレースでございます」


ある日、側近のノーチラスが胸を張って甥を紹介した。

執務室にある休憩用の長椅子に座り、香草茶を楽しんでいた魔王は幼馴染に突然甥を紹介されて動揺した。

ちなみに軽食やらお菓子はノーチラスに貪られていない為、まだ山積みである。


「いきなり、何を言う?」

「以前、子供好きなほうが良いかとお尋ねになられたではありませんか」


言われてみれば、そのような会話をしたような気がする魔王。


「そういえば、そういう気もするな」

「ですので、私の自慢の甥を連れてきました。どうぞ、子供と触れ合って子供好きをアピールして下さい」


ノーチラスは非常に得意げに言った。

魔王に感激され、お褒めの言葉を貰えると疑ってもいない様子だ。

だが、魔王の反応はイマイチだった。

どう反応していいのかわからない。まったくわからない。

魔王の思考は停止していた。


一見、どう考えても美貌のインキュバスとの血の繋がりがありそうにない――あり得そうにない物体が宙に浮かんでいる。


一言で言えば、


「蛇玉・・・」


魔王はポツリと口に出してしまった。


蛇玉。その言葉通りだった。蛇玉は直径60センチほどの大きさで、大小様々な蛇が中央にある30センチ弱の目を取り囲んでウネウネと動いている。


これをどうすれば、蜂蜜色の髪をした美しい幼馴染と関連付けられるのかわからない。髪に少し癖のあるところが蛇がうねっているところだと考えてみれば・・・むしろ、そこしか共通点はない。眼の色も幼馴染は青い宝石(サファイヤ)で蛇玉は金色だ。蛇たちの色も黒かったり、赤かったり、緑だったり、青かったり、一色ではない。蛇たちのサイズも魔王の小指くらいの細いものから、魔王の首ほどもある太い蛇もいる。


更にこの蛇玉は幼馴染のなのだ。


何歳なのか、これで成体なのか幼体なのかすら何もわからない。

いや、叔父であるノーチラスの始めの言葉通りなら子供=幼体なのだろう。

しかし、この幼体と仲良くしていて、相手が幼体だとわかる者がどれくらいいるのだろうか?

子供好きをアピールしろというのなら、もっとわかりやすい甥か姪を連れて来て欲しいと魔王は思った。


「蛇玉? 失礼だね。この姿はれっきとした由緒正しいインキュバスの姿だよ。忘れたの?」

「お前もそうなのか、ノーチラス?!」


この幼馴染が見るからに怪物然とした姿が本性なのかと、150年弱で初めて知る事実に魔王は戸惑う。

果たして、この美しい男がどのような異形の美になるのか。多分、なっても知覚できないだろうな、と魔王は自分に呆れつつ幼馴染を見る。


「俺が? この高貴な姿に?」


戸惑いと怒りにインキュバスの声が僅かに低くなる。

高貴と言うが、魔王には欠片もわからない。サッパリわからない。

魔王は首を捻る。


「この先祖返りした姿形。更に何種類もの蛇の種類。そして、何色もの蛇の色。これぞインキュバスのエリート中のエリート! the King of インキュバス! いや、インキュバスの帝王、皇帝の名に相応しい!!」


熱く語られても困る、と魔王は思った。

語られてもやはりよくわからない。魔王にとって、蛇玉は蛇玉だ。


魔王だとて、配下にしている種族の特徴くらい覚えている。

そもそも、幼馴染に担がれているのではないかとさえ思う。

ノーチラスは物事が面白ければいいと混ぜっ返す性格をしている。嫌がらせのように他人の嫌がることをして、反応を楽しむ悪癖があるのだ。今回もそうではないかと魔王は考えた。

インキュバスがどういう種族かよく知りもしていないと担がれているのかもしれない。それはあり得ることだ。


「・・・ノーチラス。何もそう熱くならなくても・・・」

「ネモ。わからないんだね? これは重大だよ。ちょっと宰相呼んでくるよ」

「は? 何故エレクを?」

「宰相はネモの教育係だろう? 勉強不足だって報せないといけない相手だからね。勿論、ネモもお勉強の時間が出来るよ。久しぶりのお勉強を楽しむといいよ」

「ちょっと待っ――」


真っ黒な笑みを浮かべた幼馴染はそう言うと、魔王の言葉も聞かずに風のように執務室を出て行った。

あまりにも早すぎて、魔王は座っていた長椅子から立ち上がる時間もなかった。


部屋に残されたのは宙に浮く蛇玉ことノーチラスの甥イレースと魔王のみ。


「・・・」

『・・・』

「・・・」

『・・・』

「・・・」

『お初にお目もじ致します。インキュバスのイレースでございます』


無言で見つめ合っていたのを、蛇玉のほうから沈黙を打ち破る。口は蛇で見えないと思ったが、どうやら身体(?)にはついてないらしく、魔法で意志を伝えてくる。

明らかに年下であるイレースに気を遣われた魔王は、頬を引き攣らせながら笑顔を見せる。


「・・・うむ」


この後、ノーチラスに連れられて来た宰相に全種族の特徴を答えさせられ、間違った種族の特徴はみっちり覚えるまで教え込まれた魔王。その隣で幼馴染とその甥は軽食とお菓子をすべて平らげ、勝手に飲み物を給仕して寛いでいた。


ノーチラスの甥イレースはその後も何度か魔王の下を訪れたが、幼体だとわかる者も少なく、またあの姿形だったので魔王を子供好きだと認定した人物は宰相と帯剣する美女顔文官と一部の武官くらいだった。

・ネモ

幼くして父親を倒し、引退させた魔王。

冴えない茶(ミルクティー)色の髪にカカオのような焦げ茶色の目。

男の平均身長並の長身(人間の基準で180強)で断崖絶壁の寄せるものすら無い胸。

現在、嫁き遅れ予備軍の年齢。


・ノーチラス

ネモの幼馴染で側近(秘書か近侍)のインキュバス。下級魔族。

蜂蜜色の金髪にサファイア色の目の優男。

母親同士が仲が良く、他の幼馴染よりもネモと親しい。

魔王への忠誠を誓っている為、魔王に対してインキュバスの特殊能力は使えない。

ネモを心配するあまり、狂犬と呼ばれる状態にもなる。


・エレク

ぬばたまの黒髪に金の瞳の宰相。

上級魔族。

大魔法も楽々こなせる魔力を持つ魔法剣士。


・クレス

黒髪の中年将軍。

爽やかなイケメンで気のいい性格。

魔王ネモの就任時には将軍だった。


・ヘブンリー

赤毛の青年将軍。

精悍なイケメンで口数が少ない。

魔王ネモの就任時からしばらく護衛を務めた。


・ゴールド

深緑と黄色の髪の文官。カレン=デュラの

スラリとしたネモくらいの長身の美女にしか見えない。

常に帯剣しており、剣豪で武闘派文官。切り込み隊長という別名がある。


・カレン=デュラ

深緑と橙の髪の武官。アクセルゼータの副官。ゴールドの兄。

顔は美女だが将軍に値する実力の人物。

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