フリルやレースの付いた服は好きですか? 【中編】
ネモの回想です。
体臭について言及する部分がありますので、ご注意下さい。
ネモはアクセルゼータが苦手だった。
外見ではない。
魔族男性の平均的な身長だし、筋肉も軍人としては少なめだが魔法や特殊能力に長けている。
クールだと言われる顔立ちも、嫌いではない。
では性格かというとそうでもない。
彼の裏表ない言動は好ましいと思う。
年齢だってそう大きく変わらない。
ヘブンリーよりは上だがクレスのほうが年上だし。
父王の世代やその上の世代の配下もいたが、彼らを苦手だとは思わない。
にも拘らず、ネモはアクセルゼータが苦手だった。
ノーチラスに相談してみたこともある。
「なあ、どうしてアクセルゼータが苦手なんだろう?」
本気で悩んでいたネモは香草茶の入ったカップを両手で抱え、琥珀色の水面に映る自分の顔を見つめていた。
ノーチラスはテーブルに置かれている軽食を次から次へと食い散らかしている。
「ん~、料理長の料理は今日も美味しいね~。次は、コレ。バターのたっぷり使った焼き菓子。これだけは外せないね」
焼き菓子を一つ摘むとヒョイと口の中に放り込む。そして咀嚼。
「・・・」
次の焼き菓子を口の中に放り込む。そして咀嚼。
「・・・聞いているのか、ノーチラス!」
「・・・」
もう一つ焼き菓子を口の中に放り込む。そして咀嚼。
「ノーチラス!」
「口の中にものが入っているから、ちょっと待って」
呑気に幸福の表情を浮かべて咀嚼しているノーチラスに、腹が立ってくるネモ。自分がこんなに悩んでいるのに、何でコイツは・・・と、額に青筋を立てる。
そんなことに気付かないノーチラスは、自分の前に置かれている香草茶のカップに手を伸ばす。カップが空だと気付き、今度はポットを手にする。
「ネモ、冷めちゃったんじゃない? 淹れ直す?」
「いい!」
「そう」
ノーチラスはネモの苛立ちにも気付かず、優雅な手つきで香草茶のお代わりを注ぐ。ポットを置き、カップを口元に運んで一言。
「う~ん、いい匂い」
ノーチラスは一口啜ってから、ネモの顔を見る。
「そんな顔しない。折角の美人が台無しだよ」
「お前に言われたくない」
取り付く島もないネモの返答に、ノーチラスは苦笑する。
「あー、アクセルゼータの事だったよね。アレは仕方がないんじゃない? もう無理。病気だから」
「病気?」
「そう。ネモって、匂いに敏感だからアクセルゼータが苦手なんだよ」
もう一口、香草茶を啜る。
「匂いだって? アクセルゼータは臭くないぞ?」
「うん。ワキガだろうが、体臭がきつかろうがネモは平気だけど、ネモには嫌いな匂いがあるんだよ。だからアクセルゼータが苦手なんだ。嫌いな匂いを何度も嗅いでいるうちに、大元自体に苦手意識を持って、避けちゃうんだろうね」
意味ありげにノーチラスは言うと、カップの中の香草茶を飲み干し、ネモの持っているカップを取り上げる。
「じゃ、お茶を淹れ直すから。くだらないことは忘れて、忘れて」
・ネモ
幼くして父親を倒し、引退させた魔王。
冴えない茶色の髪にカカオのような焦げ茶色の目。
男の平均身長並の長身(人間の基準で180強)で断崖絶壁の寄せるものすら無い胸。
現在、嫁き遅れ予備軍の年齢。
・ノーチラス
ネモの幼馴染で側近(秘書か近侍)のインキュバス。下級魔族。
蜂蜜色の金髪にサファイア色の目の優男。
母親同士が仲が良く、他の幼馴染よりもネモと親しい。
魔王への忠誠を誓っている為、魔王に対してインキュバスの特殊能力は使えない。
ネモを心配するあまり、狂犬と呼ばれる状態にもなる。
・エレク
ぬばたまの黒髪に金の瞳の宰相。
上級魔族。
・クレス
黒髪の中年将軍。
爽やかなイケメンで気のいい性格。
魔王ネモの就任時には将軍だった。
・ヘブンリー
赤毛の青年将軍。
精悍なイケメンで口数が少ない。
魔王ネモの就任時からしばらく護衛を務めた。