フリルやレースの付いた服は好きですか? 【前編】
今回短め。理由は【後編】にて。
「なあ、男はか弱い女のほうが好きなんだろうか?」
魔王の発言に吹き出した中年将軍は手を振って言った。
「いやいやいやいや。陛下、考え過ぎですよ。か弱い女ってのは色々と問題があるもんです。まず、守らなければいけない」
「体格や筋力差があるわけだし、男性が女性を守るのは普通のことじゃないのか?」
「それだけじゃすまないんですよ。外敵から守るだけでも、ある程度自衛できる力がなければ守りきれるものじゃない。勝手におっ死んじまう、て感じですかね。外敵が多ければ多いほど、その危険性が高くなるんです。その分、男の方も冷酷なまでに危険をあらかじめ排除できる性格と力がなければ話になりません」
「う、うむ。そういうものか」
クレスの言葉に考え込みながら歩く魔王。
「わずかな危険がどのような形で降り掛かってくるかわからない。それが先代の魔王様が歴代の方々同様に、聖女の血を引く王女を攫ってきた理由です」
「なるほど。そうだったのか」
魔王は父王の悪行として人間に数えられている、王女攫いの意味を理解した。彼女は父王が人間の王女を攫ってくるのは、魔族の血が濃くなりすぎて種族として弱体化するのを避けるためだと思っていた。
勇者を産む女、聖女として勇者を支える力を持つ女というのは、一般的な人間より肉体的にも精神的にも魔力的にも強い。聖女の血脈の女と、男でありながら聖女に連なる能力が顕現した勇者は、寿命以外では上級魔族に準じる能力の持ち主である。勇者と聖女、それにあと数名いれば上級魔族は元より、魔王も倒せるのはその為であった。
「それにか弱すぎて、守っている筈の男が壊してしまうこともありますから、か弱い女が良いってのは一概に言えないんですよ。か弱い印象だけなら良いんですがね」
「か弱い印象?」
「獣耳や尻尾とか、語尾に『ニャン』を付けるとか」
「『ニャン』・・・」
中年将軍の発言に、魔王は頬を引き攣らせる。魔王としてはクレスの個人的趣味でないことを祈るが、部下のプライヴェートにまで口を挟むことではないので気にしないことにする。
気を取り直して、魔王はクレスに問う。
「フリルとかレースの付いた服とかでは駄目か?」
「フリル・・・」
ヘブンリーが魔王から顔を背け、口元を左手で押さえて呟く。声が小さかった為、魔王の耳には届いていない。
「フリルは不可! レースは鉄板! 黒レースは正義!!」
クレスとヘブンリーが突如として聞こえてきた声に動く。魔王を背後に庇い、声の主と相対する。
顎のあたりで切り揃えられた青い髪にやや吊り上がった漆黒の眼。いつも酷薄そうな笑みを刻んだ口元。
二人の将軍の背後から魔王はその名を呼ぶ。
「アクセルゼータ」
「お出でが待ち遠しくて、迎えに上がってしまいました、我が君」
魔王城の勇者アクセルゼータはそう言って微笑んだ。
・ネモ
幼くして父親を倒し、引退させた魔王。
冴えない茶色の髪にカカオのような焦げ茶色の目。
男の平均身長並の長身(人間の基準で180強)で断崖絶壁の寄せるものすら無い胸。
現在、嫁き遅れ予備軍の年齢。
・ノーチラス
ネモの幼馴染で側近(秘書か近侍)のインキュバス。下級魔族。
蜂蜜色の金髪にサファイア色の目の優男。
母親同士が仲が良く、他の幼馴染よりもネモと親しい。
魔王への忠誠を誓っている為、魔王に対してインキュバスの特殊能力は使えない。
ネモを心配するあまり、狂犬と呼ばれる状態にもなる。
・エレク
ぬばたまの黒髪に金の瞳の宰相。
上級魔族。
・クレス
黒髪の中年将軍。
爽やかなイケメンで気のいい性格。
魔王ネモの就任時には将軍だった。
・ヘブンリー
赤毛の青年将軍。
精悍なイケメンで口数が少ない。
魔王ネモの就任時からしばらく護衛を務めた。