表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツキノメ  作者: 東 元弓
1/3

こんな日常

淡い雲が月を覆い隠すように、それは心を侵していく。

気付かないうちに、気付こうとしないうちに。


―――見ようとしたときには、もう見えない。




【Ⅰ】




等見ひとみーー!サッカー入れよーー!」


帰り道の途中にあるグラウンドの側を通りかかった時、知った声に呼ばれた。


「高任、くん……」


クラスメイトの高任たかとう明良あきら

学級委員長でスポーツ万能。

成績はあまり良くないみたいだが、それもキャラとして受け入れられている。

二年になり、クラス替えで同じ組になった生徒だ。


もう少し付け足すと、あまり関わり合いになりたくない…はっきり言うと、俺の苦手なタイプだ。


「なあ、等見。お前、塾とか行ってなかったよな?時間あるなら、ちょっと入っていかね?」


フェンスの近くまで駆け寄ってきていた高任は、もう一度そう問いかけてきた。


「行ってない…けど、ごめん。忙しいんだ」

「そっかー…。んじゃ、また暇な時来てくれよな。俺ら、放課後は大体ここでやってっから」


(と、言われても…)


来る気はない、と言う前に高任は走って仲間のところに戻って行った。


「はあ………」


ため息と共に、体から力が抜けていくようだ。


「明良ー…あいつも誘ったのかよ?」

「おう、今日は忙しいってさ」


また歩き出した俺の背中を、高任と他のクラスメイトの声が追いかけてくる。


(今日は、というか……)


高任はいつもこんな調子だ。

勝手に人の言葉を、自分のいいように解釈してしまう。

これだから、嫌なのだ。


「あいつは……やめといた方がいいぜ…」

「うん…あいつ、ちょっと変だし…」


(………………)


そんなこと、言われなくとも知っている。

俺自身が、一番。


『あんなこといわれてるぜ、ひとみ』

『ひどいことを言いますね。私がちょっと足でも切ってきましょうか』

『じゃあおれは、てをくってこよう』

『それはいい案ですね』


(おまえら、うるさい!)


左耳と右耳から交互に入ってくる声を、頭の中で怒鳴りつける。

それらは一瞬静かになったが、今度は頭の上の方で聞こえ始めた。


『あいつ、なんてったっけ』

『高任、でしたか。彼はいい子ですよ』

『そうだな。ひとみと、はなしてくれるしな』

左火さび、彼の腕は食べてはいけませんよ』

『おう。右火ゆうびもあいつのあしは、やめといてやれよ』

『もちろんです。彼は等見に話しかけてくれる珍しい人間ですから』


(………………)


誰にも聞こえない声。

誰にも見えない姿。


俺にだけ見えるこいつら。


『等見?どうかしましたか?』

『また、きもちわるくなったか?』

『それはいけませんね。はやく家に帰りましょう』

『そうだな。ひとみ、はやくかえれ』


(誰のせいだと…………)


また近付いた左右からの声に、俺はもう一度怒鳴る気力もなくなる。

ただひたすら、家へ向かう足を速めた。


都々木(とつき)等見ひとみ

俺には鬼が憑いている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ