異国
奴隷、売り子の続編みたいなもん。ホント連載にすれば良かったと思う。前の読んでないと全く意味わかんないとことかあるしね。
目を覚ますと、鉄格子が見えた。身体が痛い。どうやらコンクリートの床にそのまま寝かされたようだ。外にはサツキが居眠りをしている。あいつを殴った後、兵士に散々いたぶられた。まったく疫病神も良いとこだぜ。俺は鉄格子を思い切り蹴りつけた。
ガシャンという音で目が覚めた。どうやらジェイクの仕業らしかった。彼は見張りの兵士に怒られている。
「目、覚めた?」
「ああ、起きたら檻ん中だもんな。しかもベッドはコンクリート製ときた。こりゃいつもの汚ねぇ空眺めてた方が、鉄格子付のホテルよりゃなんぼかマシだ。」
「これからどうするの?」
「もちろん逃げ出すさ。奴ら、俺達を目の敵にしてるからな。このままいたって、どうせ死ぬまで出れやしねぇ」
「でも逃げたら逃げたで殺されちゃうんじゃ?」
「ははっ、そんときゃあ、体中穴あきチーズみたいにしてファックファック言いながら死にゃあ良いんだ。どうせここにいても干からびるだけさ。それなら逃げて殺された方がマシだ。運良く逃げ切れるかもしれねぇしな」
「死ぬなんてそんな簡単に言わないでよ」
「あん?どうしたんだ?おまえ」
私は迷っていた。言うべきかどうか。言ってしまって良いのだろうか?
なんだ急にシリアスになりやがって。一体どうしたってんだ。過去になんかあったのか?
「なんだよ。言えよ、少しは楽になるぜ。気にすんな。どうせ俺は遠い異国の薄汚い囚人なんだぜ?」
この時、私はなぜだかこの男になら話しても良い。そう思った。
「私ね、昔強盗に入られて、家族みんな殺されちゃったの。」
「強盗ってなんだ?」
「え?知らないの?ほら、人の物を脅して奪う人のこと」
「俺の街の連中みてぇなもんか?」
「うん、そう。それでね、私もお腹刺されちゃったんだ。」
そう言って腹の傷を見せた。
この女は、なぜだか過去のトラウマ話をしてるみてぇだ。俺なんかに。まあ、話せつったのは俺なんだがな。
「そうか、そりゃあ大変だったな。じゃあ、俺の事も話してやろう。」
「え?いいの?でもどうして?」
「お前が話したんだ。俺も話さなきゃ気分が悪い。なんかスッキリしねぇ。てなわけで話す。」
「うん、なんかごめん」
また謝ったなこいつ。クセにでもなってんのか?
「俺はホントの親は知らねぇ。俺が生まれてすぐ死んじまったらしい。俺を育ててくれたのはどっかの見ず知らずの夫婦だよ。そいつらに名前をもらった。この街には珍しい、優しい奴らだった。ずいぶんよくしてもらったよ。すぐ捨てられると思ってたんだけどな。でもな、俺が十四の頃の事だったか、お前らとは別の団体が落としていった物資の取り合いで殺されちまった。ずいぶん困ったよ。俺、生きていく術を身につけてなかったんだな。どうにも腹が減ってな、見よう見まねでパンを盗んだ。そのパンは味がしなかったな。クソ不味かったよ。その後仲間ができた。あるグループに入ったんだ。街で生き残る為にはな、強くなるか、グループに入って守ってもらうかしかねぇんだな。残念だが俺はまるで強くなかった。いつも守られてばっかりだったよ。そいつらもな、縄張り争いに負けて全滅しちまった。俺はなんとか逃げ出せたがな。はん、どれもこれも思い出すのはクソみてぇな記憶ばっかだ。」
「みんな、死んじゃったの?知り合いや仲間みんな?」
「そうだ。親父、育ての親な、死ぬ間際にこう言ったんだ『ジェイク、人を愛せ、人を信じろ、最後の最後まで希望を捨てずに前へ進め』だとよ。クソにも役にたたねぇクソみてぇな冗談だぜ。まったく笑わせてくれるよな?」
「ううん、良い人だと思う。」
「あぁ、そうだ。良い人だった。もう少し悪い奴ならよ、もう少し長生きできただろうにな。てことで話は終わりだ。じゃあ俺は寝る。なんだか眠いんだ」
「うん、おやすみなさい」
夜、ジェイクは目を覚ました。兵士は眠っている。無能だった。
「ジェイク?いくの?」
「おう、久しぶりにまともに人と話せて楽しかったぜ。じゃあな!」
「うん、また合いましょうね?」
「またか、生きて出られたらな。外の兵士はこいつみたいに無能じゃねぇだろうしよ。ここが俺の最後かもな」
「そんなこと言わない、必ず生きて出るの」
「分かったよ。あんたさえ良けりゃ、また来てくれ。あんなクソみてぇな街でも俺はあそこが好きなんだ。」
「だから、行くって言ってるじゃない」
「そうだな。今度こそ、またな!」
そう言って、ジェイクは兵士の持っている鍵を盗み取った。その鍵で鉄格子を開け、逃げ出した。私に向かって手を振っている。
バン!
ジェイクが行ってからしばらくすると、辺りに銃声が響いた。兵士たちが慌てている。そこに、私の前にジェイクを引きずって、一人の男が表れた。私の所属している団体の団長。昔私を刑務所から連れ出した男。そいつが、拳銃を持ってジェイクを引きずっている。なにがなんだか分からなかった。
「ダメだよ。そんなんじゃ。希望なんか持っちゃダメだ。その絶望した目が良いんだろう?その死んだ魚みたいな目が最高なんだろう?ダメじゃないか、こんな奴に心を許しちゃ。君は黙って絶望してれば良いんだ」
団長は言った。一体何を言っているのか分からなかった。ただ、目の前にさっきまで話していた人間が、動かなくなっているのが分かった。
「アッハハ!いいよ!いいよその目!その目だ!その目は最高だ!それでこそ僕のコレクションだ!素晴らしい!!」
団長はやってきた兵士に向かってジェイクを投げた。そして私に引き金を引いた。
「やっぱりいらねぇ。もう死んだ目じゃねぇ。ああ、僕のコレクションがまた一つ無くなった」
腹に穴を開けられ、薄れゆく意識の中で私が聞いた最後の言葉だった。
まさかの団長エンド。作者自身もまさかでした。中盤辺りでどんなラストにするか考えてたのに。なんかそういや団長とかいたなーなんて考えてたらこんなエンド。団長さん厨二くさいです。