運命の銀翼
花椿の香るこんな夜にはいつもないような香りも漂って来て 謎めいた香りだったがどこか懐かしい香りがした。こんな夜は運命の翼を持った天使が羽ばたくのだろう。雪のように羽を散らして。
花椿の香る白浜を歩くの二人の兄妹だった。兄の方はすっきりとして鼻筋の通った顔立ちだった。妹は品の良いフランス人形のような白く淡い微笑みを浮かべていた。沈黙を破って妹が口を開いた。
「お兄様。こんな美しい月や星が瞬く夜には天使様でも降りてきそうですね。」妹の言った冗談は兄の張り詰めた顔をふっと、ほぐした。
「君はいいね。本当に自慢の妹だよ。貴族でありながらこんなに心の綺麗なのは君だけだよ。僕はそうは行かないから…この家の跡取り息子として生まれてしまった。でも僕は君が言ったように天使様が降りてくるのを信じようかな」そう言ってクスクスと笑った。そして二人は大きな洋館にゆっくりと戻って言った。ルミネ お嬢様,ライフォ坊ちゃま、とせわしなく行き交う執事達。そんなものは無視して通り過ぎる。二人の一緒の部屋に入ったとたん ライフォは窓を開ける。強く激しい風が、吹き抜けてゆく。そして,運命の翼は今、羽ばたいた。
雪のように羽が舞い散る。ライフォもルミネも言葉を失う。 そこには確かにいた。白銀も翼、おそらく金糸で縫われたであろう 金糸の衣を纏った天使の姿が。僕達はなんと幸運なのだろう。運命が舞い降りてきた。この今の状況を打破すべく僕やルミネの下に天使が舞い降りた。
「天使様。」最初に声を掛けたのはルミネだった。
「お嬢さん残念ながら、オレは天使様じゃないぜ。オレは神様だ。」微妙な空気が流れた。二人とも唖然とした様子でポッカリと口をあけた。
「本当に神様か…」ライフォが疑いの眼差しを向けた。自称神様はたじろぐ事もなく、すっぱりとこたえた。
「おう」…と