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とある神様の過去
とある神様人間なった少年のお話し
“痛い”と泣き叫んだ事があった。
“嫌だ”と訴えた事もあった。
“やめて”と助けを求めた事も…。
されど、それが聞き届けられる事は無く少年は更なる苦痛をその身にただただひたすらに受け続けた。
愛の変わりに与えられたのは暴力で
温もりの変わりに与えられたのは罵声。
一体誰が予想しただろう。
極普通の暖かい一般家庭に産まれながら、少年がただの一度も愛されないと言う事実を。
平和で穏やかな日本に居ながら少年だけが誰からも排され続けると言う現実を。
少年に落ち度は無くとても優しい子だと言うのに。
故に。
その理不尽に曇る心故に誰も深く考えず気付かなかった事がある。
誰からも排され奪われてばかりの少年が知らぬ筈の知識と教養を身に付けていると言う神秘を。
そして、少年の心が悲しみに暮れはすれど憎しみには染まらぬと言うその奇跡を。
少年はまさに“聖人”と呼ぶに相応しかった。
けれど、それでも人が人で有ることに変わりはなくーー。
齢十八にして少年は世を去った。
その体は病と生傷でボロボロだったと言うーー。