ようこそ
住宅地のど真ん中に、やたらと幅が広くて長い、くたびれた階段を見つけた。
針状の枯れ葉が隅に積もっている、何処か時代錯誤な印象を醸す石造りの段差は、『階段は異世界に通じている』という、そんな俗信めいた言葉を彷彿とさせる。
何も知らない暇人は、新たな散歩コース開拓とばかりに足をかけ、半ば程で登り始めたことを後悔するだろう。
嫌気がさして回れ右した人は、そこまで。ご縁が無かったと諦める。
代わりに初志を貫徹し、登り切った方、ようこそ。
疲労で狭窄した視界は、意表をつく巨大な建物に遭遇するだろう。
等間隔に華奢な庭木の並ぶ、石畳の空間の奥。
そこに、一般家屋とするなら破格の規模を持つ一軒の家が、ひっそりと佇んでいる。
真鍮色の切妻屋根に、格子状の模様が走る白い外壁。欧州から取り寄せたような外観の建造物は、それなりに通過してきた年代を感じさせはしたが、古びた印象は見受けられない。
元々、長じた趣味により個人で開いていた博物館として機能していたらしいが、それを知る者は近隣住民でも片手の指を切る。
現在は、全く趣向の異なる―――けれど不思議なことに、前所有者と似た感性を保持したまま―――店舗として使用されていた。
喫茶フェアリーテール。知る人ぞ知る、ここは『お菓子の家』
…閑古鳥、とまではいかないが、まぁそれに近い鳥が鳴いている店だった。