第8話
その日、家に帰った私は
ひたすら涙を流し続けた。
いつも通り家に帰って
自分の部屋に行くと、
勝手に涙が流れ始めた。
勝手に流れる涙は
止まることを知らず、
後から後から流れ出てくる。
どうして、こんなことになったんだろう。
こんなつもりじゃなかったのに。
『好き』といっても、
両思いになりたいとか、
彼女になりたいとか思っていたんじゃない。
普通に友達としていられれば、
それでいいと思っていた。
でも、嫌われるのだけは怖かった。
お願い、嫌わないで。
『好きな人』に嫌われることが、
今の私にとって一番辛い。
両思いにならなくていいから。
一生片思いでもいい。
君に『彼女』が出来て、
それを遠くから見ているだけでもいい。
だから、嫌いにならないでほしかった。
何が、いけなかったのだろう。
あんなにも仲がよかったのに、
何がこんなにしてしまったの?
どこからがいけなかったのだろう。
ねえ、私は、
いったいどこから後悔すればいい?
何日前の私から後悔すればいいの?
昨日?
1週間前?
それとも、もっとずっと前の、
出会ったところから、後悔すればいいの?
出会ったのは小学校1年生。
その頃は、偶然同じクラスになった
数多い男子のうちの1人だった。
もうすでに、その出会いがいけなかったの?
それとも、その後クラスがずっと分かれて、
ただ同じ学校に通っている人だけだったのに、
中学に入ってまた同じクラスになったのがいけなかった?
小学校の頃のように、
他人としてずっと接していればよかったのかな。
でも、仕方なかった。
中学校に入学して同じクラスになって、
仲良くなってしまったんだもん。
きっかけなんか覚えていない。
でも、1年の最後の席替えで
君の前の席になってから仲良くなってしまった。
まだ、ここで止まっておけばよかったのかな。
そのまま2年に上がるときの
クラス替えで離れればそのままだった。
1年のときに仲がよかった友達でしかなかった。
でも、2年でまた同じクラスになって、
同じ班になって、好きになってしまった。
こうやって思い出してみると、
どこから後悔していいのか分からない。
だって私と話してくれる君は
いつだって楽しそうに笑ってくれたから。
嫌いになる素振りなんて
全然見せてはくれなかったから。
前に、恋愛小説で読んだフレーズがあった。
「好きじゃないなら優しくしないで」
なんて自分本位な感情だろうと、
その時の私は思いながら読んでいた。
でも、今なら少しだけ分かる。
『嫌い』丸出しの冷たい態度をとられるほうが、
優しくされて実は『嫌い』だったよりも
ずっと傷つかないで済む。
そういうことだったんだね。
自分勝手だって分かってるよ。
勝手に好きになって、
でも私に問題があるのに
嫌われたら悲劇のヒロインぶって、
自分勝手だって分かっている。
でも、今日だけ。
今日だけ、可哀想な私でいさせて。
明日からはもう、他人になるから。
楽しかった思い出を全て封印して、
他人になれるように努力する。
嫌いになる事はきっと出来ない。
いや、絶対に出来ない。
でも、もうこの気持ちを封印するよ。
涙と共に、流し去る。
だから、せめて今日は可哀想な女として、
涙が枯れ尽きるまで、泣かせてください。