第2話
私にとって君は、多分
『嫌いじゃない』男子のうちの
1人にすぎなかったんだと思う。
どちらかと言えば
男友達も多いほうだったから、
そのうちの1人と言っても
普通の友達でしかなかった。
中学2年生になって
何度目かの席替えで同じ班になった時、
特別仲がよくなった。
でもその時私には他に好きな人が居て、
君は私の中の『嫌いじゃない』の中で
一番仲のいい人だったけれど、
『好き』にはならなかった。
男子の仲で一番仲がよかった君には
何度も色々な恋の相談をして、
その度に君は安心をくれていた。
今思えば、この時もうすでに、
『嫌いじゃない』を抜け出して、
『好き』の一歩前くらいにまで
来ていたのかもしれない。
その気持ちに気づくことになったのは、
まだまだ先のことだったけれど。
君と同じ班になってから、
少しずつ私の気持ちに変化が訪れた。
あんなに幸せだった、
委員会で『好きな人』の
隣の席に座れた時間が、何も感じなくなった。
緊張や喜びに慣れただけだと思っていたけれど。
そして、それとは逆に、
君と隣の席に座る給食の時間や、
ペアを組む掃除の時間が楽しくて仕方なかった。
好き嫌いが多く、少食の私は、
給食の時間も嫌いだったはず。
掃除の時間が好きなんていう生徒は、
私の学校じゃレアと言ってもいいくらいだ。
しかも、私の学校の校内服は
男女どちらも冬は長袖長ズボンのジャージ、
夏は半袖半ズボンの体操服と決まっている。
夏場の半ズボンの時期、
それも比較的砂の多い昇降口前の廊下の
雑巾がけ担当と言ったら皆が嫌がる仕事。
いくら掃いても風で砂が入ってくるここは、
半ズボンで膝が露出された状態でやると
膝をついたときにはかなり痛い。
どこの掃除場所でも一番人気なのはほうき係だけど、
今の暑い時期は次に水拭きが人気。
雑巾をゆすいでいるフリをして、
いくらでも水道の水で涼めるから。
だから、私達のクラスの掃除分担場所で
一番人気なのはクーラーのある保健室で、
一番人気がないのが暑くてホコリっぽい昇降口。
その中でも一番人気の担当が
保健室の掃除機をかける担当で、
一番人気がないのが昇降口前の廊下の雑巾がけ担当。
そう、今の私の担当。
私も嫌だったのに、
じゃんけんで負けてしまった。
でも、そんな一番人気のない担当でも、
何故か掃除の時間が楽しかった。
それは多分、雑巾がけとペアの
ほうきの担当が、君だったからだと思う。
他の班員はみんな離れた水道で、
ゆすいでいるフリをしてずっと涼んでいる。
この掃除場所で真面目にやってるのは
雑巾がけの私とほうきで掃いている君だけ。
必然的に、と言っていいのか分からないけれど、
掃除をしながら2人で喋ることが多かった。
給食のときも、掃除のときも、色んな話をした。
恋の話は勿論、色々な人の噂、
先生の悪口、昨夜みた変な夢の話、
授業の感想、友達同士であった面白い話、
勉強や進路の事など・・・。
楽しくて、あまりにも楽しすぎて、
気づいていなかった。
時間が経つのも、『好き』の領域に入っていることも。