この身に宿る異能力…?
弱い者の選択肢は、二つ。抵抗虚しく強者に喰われるか、強者に媚びへつらい、彼らの群れに身を置くか…
「…おいガキ、何してんだ。そこどけ」
銃を持った大男が、少年に吠える。
少年は、尻もちをついた紅い髪の少女の前に立っていた。襲いかかる男たちから、彼女を庇うようにー
強者に抵抗するよりも、自身にも手を出しかねない強者に手を貸し、守って貰えば、弱者は生き延びることができる。少年はこの"事実"を、痛いほどよく知っている。
しかし、否、だからこそ。
「ヒーロー気取りか?さっさとどけよ!」
鍬を持った男が、苛立ちを隠し切れない声で叫ぶ。
「…退きません」
震えた、しかし少年自身がびっくりするくらい、芯のある声が出た。
危険な連中に手を貸して、見ず知らずの少女を殺す…そんな勇気、持ち合わせているわけがない。
だが何より、強い人間に媚びへつらってまで弱者を痛めつけるのは、死ぬよりも嫌だった。
…そんな考え方だからこそ波に乗れず、痛めつけられたことも、その結果の今の人生だということも、よくわかっている。だが、これに関しては譲れなかった。
「邪魔なやつだな、お前が庇っている奴が何者なのかわかってやってんのか?!」
棍棒の男が吠える。
「…わかってないです。でも、あなた達に手は貸せないってのはわかる」
少年はきっと男達を睨みつけた。…震えてしまう声を誤魔化すように。
もうここまで来たら後戻りはできない。どうせ死ぬなら、やれるだけやってやる。そんな気持ちだった。
「……」
この一連の流れを、紅い髪の少女は黙って眺めていた。
…その目線は恐れというより、むしろ、品定めをしているかのようだった。さながら、珍しい掘り出し物が見つかったかのような様子で。
ただ少年はおろか、武器を持つ男達もそれに気づくことはなかった。
「…ならクソガキ、お前もろとも殺しちまっても…」
大男が、怒りと嘲りの混じった表情を浮かべながら銃を少年に向けた。
「文句は言うなよ!!!」
指を引き金にかける音がいやによく聞こえた。
(…やっぱダメだ、殺される。結局強いやつには勝てないんだ。
まだここがどこかすらわかってねえのに…)
せめて、あの娘だけは。少年は痺れる体を必死に動かし、やっとの思いで右手を広げることに成功した。銃撃から少女を庇うように…
少年は目を瞑った。まだビリビリする右手に、力が入った。
ドンと、耳が痛くなるほどの銃声がこだました。
「…?」
目の前を覆う暗闇が死によるものなのか、閉じた瞼のせいなのかいまいちわからなかった。
ただ、予期していた痛みはなかった。意識も、あると感じられる。むしろ、銃の火薬の匂いを感じる。
(…まだ、生きてるのか?)
少年が恐る恐る目を開けると、信じられない光景がーもはや何度目かわからないがー目の前にはあった。
まず目に入ったのは大男の顔だ。信じられない、と言った表情を浮かべている。ただ、なぜか先ほどと比べ顔が青い…青ざめているわけではなく、チェックシートを介して見る景色のように薄く青がかかっていたのだ。
それが何なのかは、すぐにわかった。先ほど伸ばした右手から、少年を覆うようにして薄く青い膜のような…バリアと形容する他ないものが出ていた。
右手の力を抜くと、バリアは跡形もなくスッと消えてしまった。
(…やっぱ俺、死んでんじゃね?ありえないでしょ、この状況)
少年は衝撃よりももっと強い、呆れの感情に襲われた。今の今まで普通の人間として生きてきたのに、死の際に突然無敵のバリアが手から出てきた…都合が良すぎる。夢か天国なのかもしれない。そう感じた。
だが、先ほどまで驚きを浮かべていた大男の顔は、打って変わって納得したような表情に変わっていた。
「…チッ。なるほどな、お前も、異能力者か。道理で」
「…異の…はあ?」
流石に荒唐無稽が過ぎる単語が出てきて、素っ頓狂な声が出てしまった。
が、そんな少年を他所に、他の男達も納得の表情でニヤリと笑い始めた。
「なら、正真正銘殺っちまっていい奴ってわけだよな!」
2人の男達が、鍬と棍棒を振り上げた。
「うわっ」
思わず、再び手をー今度は左手を、上に挙げる。
今度は、はっきりと目にとらえた。力を入れた左手から、薄いバリアが出た。バリアは男達の武器を受け止めるどころか、跳ね返して彼らを数メートル吹っ飛ばした。
バランスを取れなかった2人の男が、大きく転ぶ。
「…すっげ」
思わず少年は声を上げた。
「生意気なガキが!!!!!!!」
怒り狂った大男が再び銃を構える。
若干の迷いはあったが、少年は両手を前に突き出し、力を入れた。三度、バリアが出現する。
ドン、ドンと、重苦しい銃撃音が何度も響く。
(…あんな火縄銃っぽい見た目で連射できんのかよ!いや、というか…)
やはり、バリアは攻撃を無効化した。重たい鉄の銃弾は、すべて力無く地面に落ちた。
やっぱり馬鹿馬鹿しい、と少年が感じていたその時。
「…へーえ」
少年の背後から声が…感心したような声が聞こえた。
「はっ!?ちょっ、まだ逃げて…」
都合の良すぎるバリアに完全に気を取られて、彼女の存在を完全に忘れていた。てっきり、勝手に逃げているものだと思っていた。
逃げるどころかなんと少女は、地面にぺたんと座り、頬杖をついていた。映画を観ているような…少年がそう感じるほど、力を抜いている様子であった。
目線に気づいた少女が少年と目を合わせる。
「…あ、逃がそうとしてくれてたの?」
少年の驚きようと言ったら、手からバリアが出た時よりも大きかった。
「はあ!?いや、そりゃそうでしょ!…いや、とにかく早…く…うっ」
急に、すっと体から力が抜けた。と同時に、痺れるような痛みが体を襲った。
見ると、バリアも消えていた。
「ぐっ…な…んで…」
「…クハハ、体力が切れちまったみてぇだな。これで心置きなくぶっ殺せる!」
大男が勝利の雄叫びを上げた。同時に、いつの間にか立ち上がっていた鍬と棍棒の男も、汚い笑みを浮かべて少年の方へと駆け始めた。
「くっ…そ」
男達が迫ってくるのが見えた。だが逃げられない。身体が、後ろに倒れる。
(まあ、やっぱそんな都合いい力…あるわけないよな…)
ポンと、背中を支えられた。
紅い髪の少女だった。先ほどまでと違うのは、立ち上がっていることと、何よりおろしていた髪をいつの間にか一つに結んでいるところだろう。まるで印象が違う。
少女は少年に笑いかける。女の子らしくない…爽やかで、むしろかっこいいとすら感じた。
「ありがと。あとは私に任せな」
少女は、ショートパンツから出る足の、ちょうど脛の部分に手をかざした。
途端に、少女の足が、真っ赤な炎に包まれた。
驚く少年を他所に、少女は武器を持った男達の方を向き…凄まじい力で地面を蹴った。途端に砂埃が舞う。
多少視界が良くなり、少年はそれを見た。この場所に来て一番だと断言できるほど、信じられないものであった。
銃を持った、あのガタイのいい大男が、白目を剥いて倒れていたのだ。そしてその頭を踏んづけていたのは…あの紅い髪の少女であった。…ついでと言わんばかりに、鍬と棍棒の奴らも地に伏せていた。
少女が、余裕そうにため息をつく。
「ふーう。ま、こんなもんか」
「…え?はあぁ?!」
身体が痛いのも忘れて、少年は驚愕の声を上げた。
長らく、出していないほど大きな声だった。それはそうだろう。ついさっきまで殺されかけていた人間が、すごい力で全員を返り討ちにしたのだから。
「あー、ごめんごめん。余計なとこで異能力使わせちゃたな。いや、にしても」
気さくな感じで少女は少年に謝る。だが本題はそこではなさそうであった。
「お前、なかなかいい異能力持ってるね…ん」
「あ、ありがとう」
少女は倒れた少年に手を差し伸べた。素直に手を取り、少年も立ち上がった。
少年の背丈は、その年齢の男子の平均くらいはある。だが、2人の背丈はさほど変わらなかった。口調と言い、やはり女の子っぽくないな…と少年は思った。
「お前、名前は?」
少女が問いかける。
「あ、えっと、蒼空」
「ソラね。私はフレイって名前だ。なあソラ」
紅い髪のフレイは、少年…ソラに、ニヤッとして言った。
「私と一緒に、旅しないか?こんな国、抜け出しちまおう」
起承転結の「起」の部分に相当手間だった気がします。こっから先は、主人公の三人称は「少年」から「ソラ」に変えていくつもりです(書きづらいので)。




