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灰の地に降りた記録士

崩れゆく塔から落下したレイラを包んだのは、冷たい霧だった。

 夜鴉が最後に放った風が衝撃を和らげ、レイラは荒れた大地に転がり落ちた。


 「……ここ、どこ……?」


 空は灰色、地面には枯れた草と黒い石が広がる。

 まるで、生気を吸い取られた大地だった。


 レイラが息を整える間もなく、地面に刻まれた魔法陣がぼんやりと光る。

 だが、その光はどこか不自然で、揺らぎ、欠けている。


 「魔法陣……壊れてる?」


 触れた瞬間、レイラの指先に走る微かな吸収の感覚。

 魔法が死にかけている——そう感じた。



 「触らない方がいい。そこは《死霊化魔法陣》だ」


 突然、落ち着いた声がレイラを振り向かせた。


 霧の向こうから現れたのは、黒い外套をまとった青年。

 手には古びた巻物、肩には無数の羽根ペン。


 青年は名乗った。


 「俺はリス。アーカイブタワーで“記録士”をしていた者だ」


 レイラは驚く。

 塔の内部にいた者が、塔の崩壊から生き残るのは稀だと聞いていた。


 リスは崩壊の方向を見据えたまま呟いた。


 「塔が壊れたことで、封じられていた魔術や記録がこの地に落ちてきている。

  ……君、魔喰いだね?」


 レイラは息を呑む。


 「どうして……?」


「魔力の匂いがしない。普通は何かしら漂ってるものなんだよ」

彼はそう言うと、レイラの手をとって素早く引いた。


 「伏せろ!」


 直後、破損した魔法陣から黒い“腕”のようなものが飛び出した。


 黒腕は地面に這う影のように形を変えながら迫ってくる。

 リスが巻物を一気に開くと、文字が光り、空中に浮かんだ。


 「《記述式・束縛封》!」


 光の鎖が黒腕を縛りつける。

 しかし、魔法が一瞬で歪む。


 「だめ……魔法が死んでる……!」


 レイラが叫ぶ。

 黒腕が形を変え、鎖を食い破るように溶かしていく。


 リスが驚愕する。


 「こんな反応……初めてだ……!」


 レイラは震えながらも前に出た。


 (吸わせれば……止められる?)


 影が迫る

 → レイラは腕を差し出す

 → 影が触れた瞬間、黒いエネルギーが“吸い込まれて”消えていく


 影は悲鳴のような音を残して消滅した。


 リスは呆然とした。


 「魔法無効化じゃなく……魔法そのものを喰らった……?」


 レイラは小さく息をつく。


 「私……自分でもよくわからないけど……使える魔法は何もないの」


戦闘が終わると、黒かった魔法陣の中心に小さな結晶が残っていた。

 紫と青の光が揺らぐ、不思議な欠片。


 リスは息を飲む。


 「これは……塔の《記憶結晶》だ」


 「記憶……?」


 「塔が持つ膨大な魔法と歴史の断片。

  本来なら塔の内部でしか触れられないものだ。これは……落ちてきたんだ」


 レイラが欠片に触れると、結晶が微かに脈動する。


 リスは驚いたようにレイラを見た。


 「君……塔の欠片に反応するなんて。

  魔喰いの力は“塔そのもの”と相性がいいのかもしれない」


 レイラは不安と希望が入り混じった表情をした。


 「私……どうすればいいの……?」


 リスは巻物を閉じ、決意したように言う。


 「塔の崩壊は世界中の魔術体系を壊し始めている。

  君の力は、その混乱を止める鍵になるかもしれない」


 そして手を差し出した。


 「レイラ。塔の記録士として、君を導く。

  この《記憶結晶》が示す場所へ、一緒に行こう」


 レイラはその手を見つめ、握り返した。


 ——こうして、レイラは最初の新たな“案内役”を得た。

霧の向こうで、黒い鳥の影が低く羽ばたいた。

 夜鴉でも、普通の魔獣でもない。


 ひとつだけ、赤く輝く目。


 レイラの存在を追うように静かに飛び去っていく。


 塔の崩壊で自由を得てしまった“何か”が、レイラを狙い始めていた。

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