灰の少女
——空に浮かぶ塔は、今日も眩しく光っていた。
塔からは常に淡い魔力が降り注ぎ、
世界中の人々はそれを魔法へ変換して暮らしている。
けれど、レイラはその光を見上げるたび、胸の奥が少しだけ痛くなる。
自分だけは、魔力を持っていない。
魔法はおろか、微弱な魔力すら感じられない。
だからレイラはいつも《グレン灰処理場》の片隅で、
マスク越しにほうきを握り、塔から降ってくる“使い終わった魔力の灰”を集めていた。
「レイラ、そこの灰、固まってる。早く砕いて!」
監督役の男が怒鳴る。
レイラは「はいっ」と返事して駆け寄る。
魔法が使えない彼女には、
〈破砕魔法〉も〈浮遊魔法〉も使えない。
手で砕くしかないのだ。
それでも彼女は不満を口にしなかった。
——魔法がないなら、ないなりに働くだけ。
その考え方が身についているから。
だがその日、塔の光がふいに揺れた。
風でも、雲でもない。
——塔そのものが震えた。
まるで、巨大な鐘が鳴ったような振動が空気を包み、
次の瞬間、空が白く弾け飛んだ。
《エーテル崩落》——
世界中に魔力の奔流が溢れ出す、大災害の始まりだった。
「な、なにこれ……熱い……!」
周囲の魔法使いたちは魔力の暴走で次々倒れる。
だが、レイラの身体だけが逆の現象を起こしていた。
——魔力が、吸い込まれていく。
周囲から溢れ出たエーテルが、
まるでレイラの身体めがけて流れ込んでくる。
目が焼けるように熱く、手が痺れ、呼吸が浅くなる。
身体の中に“何か”が満ちていく感覚。
「……やだ、なに、これ……!」
次の瞬間。
レイラの周囲の魔法が——全て霧散した。
火の玉も、風刃も、光の盾も。
触れなくても、近づいただけで消えていく。
灰処理場の皆が恐怖に目を見開いた。
「お、おまえ……魔法を……消した……?」
「いや、ありえねぇ!魔力ゼロのくせに……!」
「まさか……“魔喰い(マギイーター)”……?」
レイラはわけが分からず後ずさる。
その時、空から黒い影が落ちてきた。
巨大な黒い翼。
人の形。
赤い瞳。
塔の奥に眠るとされていた古代の使者——《夜鴉》が、
レイラに向かって跪いた。
「……見つけた。
世界を救う“器”。」
その言葉の意味を、レイラはまだ知らなかった。




