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第一話 ①『スキルの力を受けない能力 〜それでも力の差は歴然だが〜』

 家に帰りたい。しかしそもそも家までの道程が分からない。唯一分かるのは、今俺がいる場所がとてつもなく家から掛け離れた所だということだ。

 ──即ち、異世界。


 〇


 高校からの帰り道。他の家から漂う夕食の気配に鼻をひくつかせながら自転車を走らせていた。今日の晩ご飯はなんだろうとウキウキしていると、急に目眩。ふらっと自転車ごと倒れそうになったが、近くのフェンスを掴んで体制を持ち堪えた。けど目眩は酷くなる一方で……


 「気づけば異世界って、雑すぎやしないか」


 見渡す限りファンタジー。鎧やら甲冑を身にまとっていたり、腰に剣を携えている人やら大きな杖を持っている人やら、いわゆる冒険者っぽい格好をしている人が大勢いた。つまりここは冒険者ギルドか?


 ガラス越しに見える外は暗く、既に夜らしい。辺りには美味しそうな匂いが漂っており、多くの人がおそらくパーティーメンバーと宴をしている。


 「んで、俺に何をしろってんだ」


 異世界ものは好きだったが、いざ自分が体験すると、テンションが上がるどころか溜息が止まらない。家に帰りたい。もう帰れないのかな。分からない。


 「このまま一人でいたら気がおかしくなりそうだなぁ」頭をポリポリと掻きながら言う。


 とにかく誰かに話を聞てもらいたい。あわよくば、晩御飯もいただきたい(お金は後で返すとして)。大勢の輪の中に混ざるのは申し訳ないから、一人でご飯を食べていて、かつ優しそうな人に話しかけよう。


 ギルド内を歩き回る。壁端の真ん中にはカウンターがあり、受付のお姉さんが冒険者の対応をしている。そのカウンターの両隣には階段がある。どうやら二階もあるらしい。これは最後に行こう。


 「あっ、これは」


 クエストボードだろう。A4サイズくらいの紙から、メモ用紙程度の小さな紙まで貼ってある。文字は……「良かった、読める」


 『ローズ村の調査』『害獣駆除』『ダークドラゴンの討伐』『猫探し』など、多種多様なクエストがあり、その事実が一層ここが地球とは別の場所だということを思い知らされる。でも、猫はいるらしい。


 一階は一通り見て回ったから、今度は二階へ上がる。


 ここでも冒険者のパーティーが宴をしている光景が広がっていた。基本みんな誰かといる。と、ふと部屋の端にある席に目をやると、そこには気弱そうな女の子がもの悲しげな表情で座っていた。


 きっと優しい人なんだろうけど、今は俺の不幸話を聞くような余裕はないように見える。


 「どうしたもんかなあ」

 ため息を吐く。


 もう一度一階を見てみようと、その女の子から目を離す寸前だった。黒いマントを羽織った不気味な人間二人が女の子の周りを取り囲む。

 何かを話しているようだが周りの喧騒で聞こえない。心配で、少し近づくことにした。


 「大人しく着いてきな」

 「暴れたら傷をつけなきゃならんくなる」

 「い、嫌」

 「ムダだ。俺に触れてる間は────」


 これは良い状況じゃない。分かっているが、助けに入る度胸はない。周りの冒険者は気づかないのか。見渡すが、大抵のやつは酔っ払っていたり、そこが端っこの席であることから気づきにくいのだろう。


 黒マントの片方が女の子の腕を引っ張り、強引に連れていこうとしている。彼女は何をされるか分からない恐怖で叫べないようだ。また溜息がでる。それも大きな溜息だ。


 震える足を前に踏み出し、

 「その子、俺の彼女ですっ!」

 叫ぶ。


 黒マントと女の子はこちらをジッと見つめて沈黙。それだけでなく、周辺にいる人達からも視線が集まる。狙い通りだ。これで彼らが大人しく撤退しなければ、あとは周りの冒険者が助けてくれるに違いな……っ


 「えっ」


 右肩に強い異物感。見ると、鋭い矛先が刺さっている。血を散らしながら矛が引き抜かれ、同時に激しい痛みが襲う。


 「うがぁぁ!」


 床に転げ込む。

 周りの冒険者が立ち上がり、止めに入るまでの数秒。男たちは表情一つ変えず、俺にもう一刺し矛をお見舞いしようとしていた。

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