5話 男子が好きそうなかっこうの相手
「次、ラベルさんです。準備お願いします」
次の試合の時間だ。いつもの調子に戻った。部屋に置いてあった弁当も食べた。準備万端だ。
待合室でどれぐらいの手加減をしたらいいのか確認してみる。ちょっとジャブを一つまみ。
そういえば属性で剣を作る練習をしてないな。さっき思いついてまだしてないんだった。まあぶっつけ本番でも大丈夫でしょ。
楽観的に考えながらグラウンドへ向かう。もちろんそこにはあのストーカーがいた。ムキムキだし明らか近接戦が得意だろう。ならばこっちは魔術でけん制しながら接近しよう。
初めて戦略を考えた気がする。
「両者、位置について...よーい、はじめ!」
まずは魔術を撃ってみよ...!?
魔術を撃とうとして驚いた。なんとあのストーカーの背中からいきなり杖があらわれたのだ。いやもともと装備していたのだろうが気づかなかった。これが先入観ってやつなのか?怖いな。
っ!?
この男には驚かされてばかりだ。いきなり魔法陣を6個作りやがった。
避けようと右に相手を中心に円を描くように走る。放たれたファイヤーボールはすべてよけることが出来たが次は上から炎の矢が降り注いできた。ファイヤーアローだ。
こっちも負けちゃいられない。よけるのはやめだ、面倒くさい。
バリアで防ぎな願いします」
次の試合の時間だ。いつもの調子に戻った。部屋に置いてあった弁当も食べた。準備万端だ。
待合室でどれぐらいの手加減をしたらいいのか確認してみる。ちょっとジャブを一つまみ。
そういえば属性で剣を作る練習をしてないな。さっき思いついてまだしてないんだった。まあぶっつけ本番でも大丈夫でしょ。
楽観的に考えながらグラウンドへ向かう。もちろんそこにはあのストーカーがいた。ムキムキだし明らか近接戦が得意だろう。ならばこっちは魔術でけん制しながら接近しよう。
初めて戦略を考えた気がする。
「両者、位置について...よーい、はじめ!」
まずは魔術を撃ってみよ...!?
魔術を撃とうとして驚いた。なんとあのストーカーの背中からいきなり杖があらわれたのだ。いやもともと装備していたのだろうが気づかなかった。これが先入観ってやつなのか?怖いな。
っ!?
この男には驚かされてばかりだ。いきなり魔法陣を6個作りやがった。
避けようと右に相手を中心に円を描くように走る。放たれたファイヤーボールはすべてよけることが出来たが次は上から炎の矢が降り注いできた。ファイヤーアローだ。
こっちも負けちゃいられない。よけるのはやめだ、面倒くさい。
バリアを張り、防ぎながら相手へ突撃する。もちろん殴りに。
殴った...と思われたそのこぶしは空振りし勢い余ってこけそうになった。
相手は...ほとんど動かずに僕の拳をよけたようだ。位置が変わっていない。こっちは魔術を使っていないとはいえ念には念をであの秘密の技、グランドバーストの準備をしよう。この技は不意を突かないと対策されてしまう可能性が高いので慎重に...。
挑発して接近戦に誘い込もう。受け身を取る時が準備をするのに絶好のチャンスだ。
あからさまな挑発である手招きをしてみる。相手の様子から察するにちょっとキレた。
突撃してくることこそなかったが相手は少しキレてる。
遠距離でちまちまいやがらせのように下級魔法を撃って接近戦に誘うか。
俺でもキレる。
距離をとり、ちくちくと下級魔法を撃っていると相手の動きが鈍くなってきた。バリアも途切れ途切れになったように感じる。疲れているのだろうか。
相手がやっと詰めてきた!
遠距離からの撃ちあいでは厳しいと感じたのだろうか。僕も魔力で身体強化を行い向かいうつ。
やっぱその体格だったら戦いはこうでなくちゃ!
数回互いを殴りあったのち、相手は倒れてしまった。なんだ、町で逃げなくてもよかったじゃないか。
相手が起き上がってきた。報復でもされるのかと思ったが
「いい戦いだった、ありがとう」
と、まさかの言葉が飛び込んできた。度肝を抜かれた。これも先入観だろうか。僕の悪い癖だ。直さないと。
「こちらこそ、ありがとう」
相手が感謝の意を示したのならこちらも示すのが筋って奴だろう。戦いの後この一言があるだけで気持ちのよく待機室に戻れた気がする。あの人からは礼儀を学べたのかもしれない。
...あ、そういえば戦う前に戦略考えたんだっけ?なんだっけ?まあいっか。
その後の試合はあのいい戦いよりも見どころのない試合だった。ただ魔術を撃っているだけで勝ってしまったり、相手が棄権したり、降参してしまったり...。
ということでこれからメルと戦う。準決勝だ。さっきの腕試しでは特段見どころもなく勝ったが、試合となるとどうなるだろうか。まだメルは杖を使って戦ってはいないし、本気も出していない気がする。何となく。そこだけが怖い。しっかり準備運動をしておこう。
「ラベルさん、次試合です」
僕は返事をしながらドアへ向かい準決勝へと向かう。1試合目の出来事で支えてくれたことは感謝するが、実力次第では容赦はできない。気を引き締めていこう。
「両者、位置について...よーい、はじめ!」
始まった。まずは様子を見よう。メルは何をしてくる。何を隠し持っている。
メルはまずバリアを張った。僕の接近戦を警戒しているのだろうか。
目は...こっちに来てみな、そう挑発しているようだった。挑発に乗るほど気が短いわけでは無いが、ここは乗ろう。決して気が短いわけじゃない。大事なことだ。
距離を一気に詰め、蹴りをいれてみる...!?
かっっった!?何このバリア。衝撃が足に伝わってジンジンする。やっぱり挑発に簡単に乗るべきじゃないな。
バリアを足裏で蹴り、距離をとる。バリアをどうにかしよう。幸いなことに、僕が得意なのは近接戦じゃない、魔術だ。蹴りが別に今出せる最大の威力ではないわけだが...。
それにしても硬すぎる。あんなものを隠されていたとは。
「こないの?じゃあこっちからいくね」
一気に魔法陣が10個出現した。なんてこった。これだけの実力を隠されていたとは。さっきの腕試しは何のためにしたんだ。油断させるため?恐ろしや。
僕はメルに対して負けず嫌いな面がある。多分。だからこっちもバリアで防いで見せる。
難なく凍てつく氷の槍、アイススピアをすべて防ぐことが出来た。だけど砂ぼこりで前が見えない。
メルは今どこにいる。まだ正面にいるのかあるいは...
その時右からメルの手がいきなり現れ、僕のバリアに触れた。その瞬間、手が雷に包まれそのまま僕のバリアを覆った。
数秒目の前が輝いたのち、その雷は引いていった。
ギリギリバリアは破られることはなかったが、もう少し威力があったら破壊されていたかもしれない。
あの技は要注意だ。次は威力を高めてバリアを割ってくるかもしれない。というのもまだメルも魔力による身体強化はしていない。
ここからが本番だ。僕は惜しみなく魔力を全身に巡らせ、身体強化をする。
メルもそれに応じるかのように身体強化をする。メルも本気だ。ここからは僕たちにもどうなるかわからない。腕試しはしていたとはいえあれは本気ではないただの遊びのようなものだ。
メルめがけて距離を詰める。当然メルはあの技を見られた後であの技を警戒しているわけで、後ろに引いて距離を保ってきた。
さてどうしよう。魔術を撃って砂ぼこりで不意を突くやり方はメルがしてきて当然対策法も持っているわけで...。よしここは僕が得意な力技だ。
サンダーボールでお茶を濁しながらサンダーアローの陣をこっそり上で組む...いまだ!
雷の矢がメルめがけて降り注がれる。けれどこれが本命じゃない。
剣の形に雷魔法を練って砂ぼこりで視界が遮られているうちに30本ほど作った。
メルを囲うように全方向に散らばらせ様子をうかがう。
どう動いてくる。何を隠しているのかわからないのが一番怖い。慎重に戦わないと負けてしまう。策略にはめられて負けてしまう。
視界が一気に晴れた。メルが風魔法を使ったようだ。
ここだ!
メルが見える今なら狙いを定められる。適当に撃ってしまって当たらなかった場合ただ魔力を消費するだけだ。今なら当てられる。
すべての雷属性模造剣がメルめがけてとびかかる。実はこれも本命ではない。本命は僕だ。自らの手で仕留めに行く。じゃないとバリアは破れない。
メルは飛んでくる剣を次々とよけている。でもそれで精いっぱいのようだ。
今もてる全速力で一気に距離を詰める。少しでも剣が飛んでくる間に0.5秒でも空いていたら対処してきそうだ。
距離を詰めて何をするかって、それは雷属性を手にまとわせ破壊する。そう、メルがしようとした力業でバリアを破壊するやり方だ。
至近距離まで来た、手に魔力を集中させ雷属性へと変える。それを圧縮しバリアに触れ、一瞬で放出する。悔しいけど今の僕じゃメルの真似でバリアを破壊しに行くしかない。
手に触れられたバリアは一気に輝き、目をそらさないと目が焼けてしまうような光だった。
手ごたえがある、このまま押し切る!
この世のものじゃなさそうな輝きが去った後にはボロボロになったメルが残っていた。手加減できなかった。というか手加減している暇なんてなかった。
仕方がないと割り切りたかったがまた後悔の念が押し寄せてきそうだった。
ずんと心が落ち込んだその時、メルが何事もなかったかのようにピョンと飛び起きて今にも「もう一回」と、言ってきそうだったが、そんなことは言わず
「いい戦いだったね、悔しいけど決勝頑張ってね」
と、優しい言葉をかけてくれた...タフだな。
「うん、頑張るよ」
そう言い残し、互いに待機室に戻る。
待機室に戻り、余韻に浸る。本気のメルに勝てて本当によかった。あんな力を隠し持っているとは...。
敵に回すと怖いな...。
「ラベルさん、試合です~」
あれ?思ったより早いな、いつもならもう3分ぐらい時間があるのに、次の相手が一瞬で片づけてしまったということだろうか?休息自体は十分取れたが、心の準備ができてるか自分でもわからない。けど行くしかない、気合を入れていこう。覚悟していこう。優勝したら100枚の金貨だ。
にやにやが止まらない。待合室に行く途中人とすれ違わなくてよかった。100枚の金貨があったら何が買えるかな?何を買おうかな?新しい杖?魔術本?いや、おじさんにお酒をおごって...
ま、取らぬ狸の皮算用であることに間違いはないんだけども。
待合室に着いた。
えっと...次の対戦相手誰だっけ?そういえば見るのを忘れていたかもしれない。思い出そうとしても思い出せない。
うん...これは絶対確認してないやつだ。こういう適当なところ直したいんだけど直らないんだよな~。ま、これといって問題があるわけじゃないし、直すのはもう少し後でもいいだろう。そう、明日とか...明後日とか...。うん、そうしよう。もしくは暇なとき...
放送がなった。どうやらもう入らないといけないようだ。早すぎる。もう少しくつろぎたかったのに。
仕方ない。覚悟を決めて進もう。この金貨100枚に向かう道を。
相手と真正面で対面して気付いた。
この人、どっかで見たことがある!
知り合いだっけか?どうだっけか?えーっと...
黒いフードをかぶっていて黒いマントを付けていて...そして
男子がめちゃくちゃ好きそうなかっこうをしていると...
あれ?これあの時賭けた人じゃないか。やった僕の勝ちは確定だ!
買ったら100枚負けても確か...20枚ぐらいの儲けだ!
にやにやが止まらない。でも表情には出さない...いや、違う。出せないんだ。相手から異様なほどの強い圧迫感を感じる。さすがに決勝戦ともなるとそりゃ強い人が残るわな...。
顔を見ることが出来ないせいで予測がしづらそうだが、まだ使っていないあの秘技、グランドバーストで吹き飛ばしてやらあ。
「両者、位置について...よーい、はじめ!」
さてどうしようか...え?
気づいたときには相手の鍛えられ洗練された足が目の前まで迫っていた。重く、強いその足技が何とか顔に当たらぬよう防ごうとした腕にのしかかる。
一瞬折れるかと思った。化け物じゃないか。
何とか受け身を取る。そのすきにグランドバーストの準備をする。
準備をできるだけまだ余裕があるとは思うが、さすがに何回も来られたら発動させる前に倒されてしまうかもしれない。早く身体強化をしなければ。
急いで魔術と魔力で身体強化をできたものの...目で追うことが出来る程度で体があの速さに追いつけるとは思えない。バリアも張らなければ...よしできた。
!?
これは後ろからか!?バリア全体が光っている。何だこれ...見たことがある気がする...あっ。
そのことに気が付くころにはとうに手遅れで、その技、さっきメルとの戦いで使用したバリア壊しの技はとっくに僕のバリアを貫き、手はもう僕の体にまで触れようとしていた。
まずい。
この相手も雷属性を使ってくるのか!?そうなると単純な魔術の技量によって勝敗が分かれそうだぞ。違う属性も覚えていたならまだしも、僕は雷属性の魔法しか学んでこなかったし学ぶ気が無かった。ココで初めて違う属性を学んで来たらよかったと後悔した。そう、その後悔した時にはいつだって手遅れなのに...。
体に触れる寸前だった手はギリギリでかわすことが出来た。しかし、依然として状況が変わらない。最初の速さは様子見だったのか、最初の時より全然スピードが上がっている。この試合はきつい。勝てる気がしない。たとえ金貨20枚あったとしてもこのままだと怪我で全額使い切ってしまいそうだ。なにせ再生系統の魔術も僕は使えないからな。
容赦なく今度はサンダーボールが飛んでくる。僕のよりもずっと威力のある魔術が、容赦なく...。何とかよけることはできているが、こちらが攻撃できない以上ジリ貧であることに間違いはない。いずれ負けてしまう。
地獄かよ、どうしろってんだ。
心の中で愚痴をこぼす。
こっちもサンダーボールを撃ってけん制したいが、撃とうと思う頃には真横まで迫ってきていて何とか腕で受け、そのあと受け身を取るという行動が繰り返されるだけで、僕が相手に攻撃を当てることが出来ない。
くそ、グラウンドの中央にいると思ったら魔術撃つときにはすぐ隣にいる。怖すぎる。腕ももう限界が近い。でももうすぐであれの準備が整う。この長い長い手間暇をかけてようやく撃てる技、これがだめならもうだめだろう。またためなおしても読まれて終わりだ。もう内蔵も悲鳴を上げている。口から血が止まらない。
サンダーボールは依然としてやまない、豪雨のように降り注いでくる。
もう家に帰りたい。疲れた。あのフカフカな宿のベッドにダイブしたい...ってまずい、気力がなくなってきた。
へとへとになった体に襲い掛かってきたのは最後の拳だった。
なぜ最後なのか、それはやっと、長く待ちわびたあの、秘技、今の僕の最終奥義であるあの技が撃てるからだ。これが通用しなければもう勝てないだろう。潔く負けを認めよう。死ぬ前に...
最後の受け身を取る。そして手のひらをグラウンドにたたきつける。もうこれしかない。これじゃないと勝算がない。とっておきの技、グランドバースト。
突然地響きが鳴り出し、直後に地面がひび割れ、爆発した。
衝撃で意識が飛びそうだが、何とか持ちこたえる。初めて本気で撃つこの技がいったいどれほどなのか最後まで見届けなければ。
地面から電撃が飛び出す。だが、砂ぼこりで相手が見えない。見えなければ電撃を当てることが出来ない。
これは...想像以上だ...だが、その後の砂ぼこりで相手が見えず追撃できないのはあとで何とかしなくては...まだ相手が戦える状態にあるかもしれない。でもこれほどの砂ぼこりがあればしばらくは攻撃は来ないだろう...!?
油断するべきじゃなかった。というか戦いの場で油断なんてしてはいけない。ご法度だ。気力が減っていたとはいえあまりにもあり得ない行動だ。
どこからともなく現れた相手から顔に1発蹴りをもらってしまった。血の匂いがする。
鼻血が出ているのだろうか。いや、どこからでも出ているのだろう。意識がもうろうとする。もうだめだ。まだ命があるだけましってもんだろうか。相手はどんどん僕から離れていく。背中を向けて...相手ももう僕が戦えないと思っているのだろうか?実際戦えないのだけれど...。どうしよう、どうやって医療室に行こう。ああ、だめだ...意識が.......................。