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第九話 母として

 そもそもの火元は、ギャングのアジトだった。

 何者かがアジトを襲ってギャングのメンバーを次々に切り捨てた上に、火を放ったのだ。

 元々市民が近寄らないアジトだった上に、死体が散乱する有様に人々は仰天し、消火活動が完全に遅れてしまった。

 結局、アジトを中心として三十メートル四方が全焼してしまった。

 しかし、火事はそれだけでは終らなかった。

 アジトから飛び散った火の粉が、風に乗って町中に散らばり、至る所で新しい火事を引き起こしたのだ。

 人が住んでいるほとんどの場所では、火事は出火直後には消され、最悪でもボヤですんでいた。

 しかし、マヤ達のいる区画は違っていた。地上げによって、火を消す人がいなくなっていたのだ。

 すでにカズミも異変に気付いて、子供達を連れて玄関まで来ていた。

「カズミ! キリー!」

 マヤは、二人に振り返った。

「カズミは、とにかく周囲の家を壊しまくって。それでも間に合わないと思ったら、すぐに子供を連れて町から出るのよ! キリーは教会まで案内して!」

 ミリが神様にお願いすると言っていたのを、マヤは思い出した。


 教会は、ミリの家より遙かに火元に近かった。

 ミリが教会に入ると、何か焦げ臭い臭いがしたが、構わずにいつものレリーフの前で祈りを捧げようとした。

 すると、何か前方から異音がして熱くなってきた。ミリが見上げると、壁が火に包まれ、レリーフも燃えていた。

「いやあ!」

 慌てて逃げ出そうとするが、腰を抜かしたミリは思うように立ち上がれない。そして、焼き崩れたレリーフは、ミリに覆いかぶさるように落ちて来た。

「ミリちゃん!」

 間一髪、マヤは間に合った。真っ赤に燃えているにも関わらず、マヤはレリーフを両手でキャッチしたのだ。

「お母さん!」

 マヤの後ろから、キリーが顔を出した。

「早くミリちゃんを連れて行って!」

「ミリッ!」

 キリーは、ミリの手を掴んで引っ張った。

「いや! お母さんも一緒じゃなきゃ!」

「わたしはいいから、早くミリを!」

 キリーは、残りたがるミリを無理やり引きずって教会から脱出した。それと同時に、老朽化していた教会は、あっけなく崩れ落ちた。

「おかあさーんっ!」

 ミリは、泣きながら何度も母を呼び続けた。


 朝になり、ようやく火事はおさまった。

 子供を連れたカズミ達は、町外れの草木も生えていない茶色い丘の上にいた。

 カズミの努力の甲斐もなく、兄妹の家も焼け落ちたのだ。

「新しい家、探さないとね」

 マヤから子供達を任されたカズミは、それだけでもしないと、町を出るわけにはいかなかった。

 今までに偽者を退治して得た報酬を全部つぎこんでも、小屋を一軒買うのが精一杯だろう。それでも、カズミの幼い頃よりはましなのだ。子供達には我慢してもらわないと。

 問題なのは、ミリーだった。キリーがなんとか連れてきたものの、ずっとミリは泣きっぱなしで、両目は真っ赤に腫れていた。

「お母さんが、お母さんが」

 ずっと、同じ事をミリは繰り返していた。

 カズミは、ミリの前にしゃがんで頭をなでた。

「ミリちゃん。あなたのお母さんは、死んだわけじゃないの」

「え?」

 信じられない、といった表情でミリはカズミを見上げた。

「お母さんはね、一日だけという約束で神様から使わされたのよ。だから、また神様のもとに帰っただけなのよ」

 カズミは、空を見上げた。ミリもつられて、青空をあおぐ。

「死んでないから安心して。来年の聖夜になれば、またお母さんはミリちゃんに会いに来るから。だから、もう泣かないで。お母さんがまた来た時に、笑顔で迎えられるように、笑ってね」

 笑顔というにはぎこちなかったが、ミリは泣き止んだ。


 火事については、ギャング達の仲間割れという事でかたがついていた。真相を知らないカズミ達も、そう思い込んでいた。

 カズミは、シルバー・ボンの名前で町長の所に殴りこみ、あんな保安官を野放しにした町の責任について食って掛かった。

 最終的にカズミは、子供達が暮らせる小さな家を、焼け跡の上に建ててもいいという許可を貰った。建設費はカズミ持ちだが、土地代と様々な税金がかからないだけでもかなり助かる。

 掘っ立て小屋だったが、家が完成するのに数日かかった。その間にカズミは、子供達に生活する手段を少しでも多く教えようとした。

 どんなにつらくても、仕事を見つけたら次の仕事が見つかるまでは続ける事。無駄遣いはしないで、お金が入ったら大事に使う事。キリーはみんなのリーダーになれるから、喧嘩しないで常にまとまって暮らす事などを教えこんだ。

 そして、家が完成した日の朝、カズミは子供達が寝ている間にひっそりと町を出た。


 町の入り口の門の陰から、見覚えのある人が出てきた。

「ご苦労様、カズミ」

 それは、馬を連れたマヤだった。

「あの用心棒の馬、結構体力あるじゃない。こりゃ今までの中で一番の儲けもんかもしれないわよ」

 二人乗り用の鞍に付け替えている馬を指して、マヤは笑った。

 勿論、マヤがあの火事で死ぬわけが無かった。ミリ達が脱出した後に、崩れた壁の方から逃げ出したのだ。

「ずっと野宿するのも、大変だったんだからね。ほら、別れの挨拶が済んだら、さっさと行くわよ」

 マヤの言葉に、カズミが驚いて振り向いた。すると物陰から、キリーが出てきた。

「これで、お別れね。バイバイ」

 マヤが笑顔で手を振ると、キリーもゆっくりと手を振ってかえした。こっそりカズミについてきたのだ。

「なあ、ミリにはもう会わないのか?」

 キリーに尋ねられて、マヤは首を横に振った。

「約束するわ。来年の聖夜には、またお母さんになったげるって」

 馬に飛び乗ったマヤは、カズミの手を取ると後ろに座らせた。

 キリーを馬上から見下ろしたカズミは、まだやるべき事があると思った。

「ねえ、キリー。もう今しかないんだから、マヤの事をちゃんと呼ばないと」

 カズミにうながされ、キリーはマヤを見上げた。

「必ず、また来いよ……。お母さん!」

 キリーからもお母さんと言われて、マヤは何故だか嬉しくなった。

「ええ、勿論よ」

 マヤは去り際に、笑顔で親指を突き上げた拳をキリーに向けた。


-完-

本当は、もっと後にやるつもりのエピソードだったのですが、季節ネタなので今しかないと思って、聖夜のエピソードにしました。

それなのに、風邪をひいたり指を火傷したりして、クリスマスイブまでにギリギリカカッテ書き上げる羽目になってしまいました。

当初は、前作と同じ位の長さにするつもりでした。

しかし、新しい敵の存在とかも書かないとと思ったら、三割り増し程度の長さになってしまいました。

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