第八話 晩餐会
兄妹の家に帰って来たマヤ達は、リビングルームで晩餐の準備を始めた。
「ミリを助けるのに、手伝ってくれてありがとう。お礼に、一緒に楽しみましょうね」
マヤは、帰る途中で店によって買って来た食材を抱えて台所に入った。カズミもマヤについて行く。
「ねえ、マヤ。あのお母さんって、何なのよ?」
ようやくカズミは、二人きりになったので、訊く事が出来た。さっきまでは、ミリの前では訊かないで欲しいとマヤが背中で言っていたので、カズミは黙っていたのだ。
「まあ、色々あって、あの子はわたしをお母さんだと思い込んでるのよ。明日になったら、お別れするから大丈夫よ」
「大丈夫なわけないでしょ! 何を甘い事を言っているの!」
カズミは、いきなりマヤを叱り飛ばした。いつもは内気で言葉が少ないが、言うべきときはカズミははっりと言うのだ。
「そ、そうよね、カズミ。キリーくんも協力してくれそうだし、何とか夢を壊さないようにミリを納得させるわね」
カズミも協力すると言って温和な顔に戻り、台所でマヤと一緒に料理をこしらえた。
不思議な事に、料理の腕前はマヤの方が上だったりするから、世の中判らない。
量こそ多いが、出された料理は一般家庭のありふれた夕食だった。それでも、子供達にとっては滅多にありつけないご馳走だった。
「ほらほら、慌てないケンカしない! 全員座って座って」
カズミが仕切って、何とか子供達を着席させた。ミリだけは、椅子でなくマヤの膝の上に座っていた。
全員着席させたカズミが、何とか全員に「いただきます」と言わさせた。
子供達が我先にとテーブルの中央にあるサラダやポトフに群がる中、手が届かないミリの為に、マヤが小皿にとってあげた。
「はい、ミリちゃん」
「わあい。お母さん、有り難う」
ミリは、おいしそうに料理をほおばった。
「ねえ、お母さん。これからも、ずうっと一緒だよね」
マヤの手が止まった。カズミは、黙ってマヤの様子をうかがう。
「ごめんなさいねミリちゃん。お母さんはね、今日だけしかこの世にいられないの」
とたんに、ミリの表情が一変した。
「うそだ! どうしてよっ!? 神様が、願いを叶えてくれたんじゃないの!?」
泣きながら抗議するミリに、マヤは困った顔になった。
「その神様が、決めた事なのよ。一日だけなら、願いを叶えてもいいって」
マヤは、ミリを抱きしめた。
「わたしだって、ミリちゃんもキリーも大好きよ。でもね、神様だって叶えられる願いには限度があるの」
「そんなの嫌だ! わたし、神様にお願いする! ずっとお母さんといられるようにって」
ミリは、マヤのひざから飛び降りると、外に向かって走り出した。
「ミリちゃん!」
マヤがミリを追って玄関から駆け出すと、そこには信じられない景色が広がっていた。
町が、燃えていたのだ。




