第四話 二人それぞれ
シャープクローのアジトを、カズミは見張っていた。望遠鏡なんて持っていないカズミは、近くの民家の庭の茂みに潜んでいた。
「用心棒がいる場所は……」
「ここからじゃ用心棒の部屋は見えないぜ」
突然背後から声をかけられて、カズミは危うく大声を出しそうになった。
「な、なんで貴方がいるのよ?」
カズミが振り返ると、そこにはトムソンがしゃがんでいたのだ。
「元々、俺は流れ者なんだ。どこにいたっていいだろ」
そんな言い分では、カズミは信用できなかった。
「まさか、まだ私達を狙っているんじゃないでしょうね?」
「フフン。そんなの意味ねえよ。俺がやっつけたいのは偽者の方なんだからな」
カズミは、前から疑問に思っていた事を聞いてみた。
「どうして偽者のシルバー・ボンを許せないの? 貴方は、私達と何の関係があるの?」
いつかは尋ねられると判っていたが、トムソンはそれでも困った顔をした。
「んー、何ていうかな。シルバー・ボンだけでなく、俺は英雄の偽者に恨みがあるんだ。そいつらは、シルバー・ボンだけでなく何人もの英雄の名を使っていた」
そんな連中がいたとは、初耳だった。シルバー・ボンの偽者にしか興味が無いから、知らなくても当然だったが。
「シルバー・ボンは判るとして、他の英雄も、偽者なの?」
カズミが尋ねると、トムソンは黙って頷いた。
「全員偽者だって事は確かなんだ。何しろ、本物の英雄はみんな殺されちまったからな。生き残ってるのは、シルバー・ボンだけだ」
トムソンがシルバー・ボンを追っている理由に、カズミは仰天した。それと同時に、トムソンが何を隠していたかも判ってしまった。
「まさか貴方、事情を今まで隠していたのは、マヤを偽者集団の囮にしたかったからなの?」
「ま、そんなところだ」
やっぱり、トムソンをうかつに信用してはいけない。しかし、彼だって今はマヤに死んで欲しくないのも事実だ。カズミは、彼の話だけは聞いてみる事にした。
ミリは、近所の空き家に上がりこんで、そこに住んでいる子供達に自慢していた。
「お母さんだって? そんなわけないだろう」
子供の一人が、ミリの話を聞いて笑い出した。
「本当なんだもん、ビル。あたしのお母さん、強くてカッコよくて、しかもとっても強いんだから」
ミリは、今朝の出来事をみんなに話した。
「ほほう、詳しく話してくれないかな?」
窓から突然、見知らぬ男達が何人も部屋に上がりこんできた。
ミリが出かけている間、二階の寝室でキリーはマヤとテーブルに向かい合って座っていた。
「まさか、わたしがお母さんだとあんたまで思っていないでしょうね」
マヤの問いに、キリーは苦笑いして首を横に振った。
「そんなわけないだろう。お前が何者なのかは、知らない。でも、悪い人じゃなさそうだ。だから、たのむ。今日だけでいいから、ミリのお母さんになってくれ。ミリには、一日だけの奇跡なんだって、言っておくから」
キリーは、そう言ってマヤに頭を下げた。
「そんな事言ってもねぇ。何をすればいいのか、わたしもよく知らないのよ。お母さんなんて、わたしだって会った事ないんだから」
マヤが困った顔でお手上げのポーズをしていると、玄関の戸を激しく叩く音がした。
「わざわざノックするなんて、チンピラじゃないわよね」
キリーが窓から顔を出すと、ビルが血相を変えて見上げていた。




