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「あなたを愛することはない」~当然です。私、他の方と結婚していますので。

作者: 塙瑶花


「あなたを愛することはない」

フォード子爵のご子息、エルク様にそう言われても、顔合わせをした時から私に全く興味がなさそうでしたので別段驚きもしませんでした。


「はい、分かりました」


 でも、慌ただしくこの部屋を退出する前に、いろいろ聞いてみたいと言う誘惑にかられまして声をかけてみました。

 

「お忙しいこととは思いますが、できれば私の質問に答えていただけると嬉しいのですが」

「まあ、そのくらいなら」



 ――ここのところ何故か初夜に「君、または、お前、または、あなた、を愛することはない」

と言う男性が増えてきているようで、私の友人たちも立て続けにそれを言われたそうです。


 私はもしかすると男たちの間で一度それを言って女性たちの反応を見て、楽しむという遊びでも流行っているのかと思ったのです。


 そこで私は、色々な伝手を頼ったり、手記などを読んだりして統計を取ってみました。

 そうするとだいたい四つのパターンがあることが分かりました。


 まず第一。

 全く女性に興味がない場合。けれども子孫を残すためには無理することもあるかと思うので、これは結婚した両者にとっても不幸ですね。


 第二は、

 他に愛人か好きな人がいるが、家の家格が違うので結婚できない。だから釣り合う人ととりあえず結婚する。これは女性の方もそれに同意していれば別ですが、随分と失礼な話ではあります。


 第三は、

 結婚した相手の女性が嫌いだ。生理的に受け付けない。と言う場合。これだって上から目線ですよね。


 第四は、

 自分に自信がない場合。とりあえず愛することができないと言って様子見をする。あるいは、女性の反応を見て楽しむ。性格が悪いですね。




「エルク・フォード卿は、こちらのどれかに該当なさいますでしょうか?」

「な、なんでそんなことを答えなくてはいけない?」

「一方的に愛することが出来ないと言うのです。相手の女性に納得できる説明が必要だとは思われませんか?」

「だったら。第三だ」


 私はいつも持ち歩いているペンと紙をカバンから出し、眼鏡を着けて、第三と書きました。

 

「第三ですね。私のどういうところが嫌いだとお思いになったのでしょう?」

「あなたは義妹のコニー嬢を虐めていると噂になっているからだ」

 なるほど、卿はその噂を確かめもせずに鵜呑みする人だと。また、紙に書きつけます。


「もしかしてフォード卿はコニーがお好きなのですか?」

「あ、ああ可愛いと思う」

「どうして結婚を申し込まれなかったのでしょう?」

「申し込んだが、彼女は、いずれシューリス侯爵の次男ライアンを婿に迎えるのだと言って、断られた。まあ、私は子爵家を継ぐ立場にあるから仕方がないんだが」

 それで、義姉の私、アイシャでもいいかと思ったわけね。義兄になればコニーの傍にいても不思議ではないですものね。

 

 一応、思い人と一緒になれないので、その姉と結婚すれば思い人の傍にいられる。その姉が嫌いでも仕方がない。と書いておきましょう。

 

「それでは、もう少しお聞きしたいことがあるのですが」

「なんだ」

「愛することのない妻に望むことは何でしょうか? 社交などは期待していらっしゃらない?」

「まあ、家の中を管理してくれればいいかな。社交界に出すつもりはない」

 望むことは家の中の管理。社交界は無し、とまた紙に書きます。

 

「では、フォード卿はこの屋敷の管理をしないで何をなさるのでしょうか? たしか領地はご両親にお任せしていらっしゃるのですよね」

「だから、あちらこちらに用事があるのだ。国から任されている仕事もある」

「差し支えなければ国から任されているお仕事についてお聞きしても?」

「あなたは何も知る必要はない」

(まあ、そうよね。尋問じゃないのでこれ以上は聞けないわ)

 仕事のことは妻に言わない人。って書けばいいかしら?

 

「ああ、そうです。離婚はいつ頃と思っていらっしゃるのでしょう?」

「二、三年後かな」

「当然、白い結婚でよろしいのですよね。まさか閨だけは共にする、などとはおっしゃいませんよね」

「も、もちろんだ」

 離婚の時期をはっきりと言わない。白い結婚を希望? と。メモメモ。

 

「跡継ぎについてはどうお考えで?」

「...」

 今のところ白紙と...。

(これ以上ここにいても得るところはなさそうね)


「いろいろお答えくださいましてありがとうございました。ではこれにて私は失礼します」

 私はカバンにペンと紙をしまいまして、傍に置いていたショールを肩にかけて立ち上がりました。

 もちろん夜着などは着ていません。くるぶし丈の清楚なワンピース姿です。

 人の顔を見ない人ですから、何を着ていても気に留めもしないでしょう。


 ただ、この時は私を見ました。

「はっ、なにを言っている。初夜だぞ」

「私には関係ございません。だいたいあなたが嫌っている私がここにいる理由もございませんし」

「私たちは結婚したのだぞ」

「あなたとは結婚しておりませんよ」

「え、どういうことだ?」


 私は抱えているカバンから婚姻の書類を出しました。

「あなたが私との顔合わせの時に、これにサインして出しておけとおっしゃいましたよね」

「ああ、役所へ出してなかったのか?」

「私はサインするわけにはいかないのです。なぜなら私はすでに()()()()()()()ので」

「はあ?」



 フォード卿は私との顔合わせの席で、この書類を私にポンと投げて、

「これにサインをして出しておけ。俺は忙しい」

 とすぐに出て行ったので、私は『結婚しているのです』と言えなかったのです。


 もっとも私にも別な目的がありましたので、『結婚している』と言うつもりはありませんでしたけれど。

 

 ◇◇◇


 私、アイシャはジリアン伯爵家の長女です。

 十二の頃に母が風邪をこじらせて儚くなり、その後すぐに我が家にやって来た義母ブレアと一歳下の義妹コニーに酷い扱いこそされませんでしたが、無視されている状態が今も続いています。

 

 この縁談があるまでは、父も私がいることを忘れているのではないかと思っていたのです。

 

 私は白髪のようなプラチナブロンドですが、それを嫌う父に母が儚くなってからずっと栗色の鬘を着けさせられているのです。その鬘は前髪も長いものなので、私の顔をはっきりと知るものは伯爵家では、メイドのルミナだけだと思います。

 

 無視されているのをいいことに、昼間はお祖母様のところに入り浸っておりました。

 父が母の実家を嫌うので父には何も言ってません。言う必要も感じませんが。

 

 なぜ実家を嫌うかと言えば、まず結婚に反対されたからです。母の美貌に魅せられた父はしつこく母に言い寄り、当時の王室関係者に手を回し、母に結婚を承諾させたらしいです。

 でも、祖父母が案じた通りに父は誠実とは程遠い人間だったのです。

 現に母が儚くなってすぐに今の義母と義妹を連れてきたのですから。

 

 もう一つの理由は、現在、父が所属する派閥と、お祖母様の家のヘイル伯爵家が所属する派閥が違うことです。


 私は小さい頃から母に乗馬を習っていました。父は馬と言うものは馬車を引くものと思っていましたので馬には何の関心も抱いていませんでした。

 

 私は母とよく、お祖母様の家に馬で出かけていました。ジリアン伯爵家からは裏の草原を通って馬で二十分くらいの距離でしょうか。一人になっても、それは続きました。

 馭者兼厩の世話をするベンはそれを知っていても父に言いつけるような人ではありません。

 

 この国では、十七歳になったら成人と認められるので、私は十七歳になった時にさっさとジリアン伯爵家から籍を抜いて、お祖母様の息子である伯父様のヘイル伯爵家の籍に入りました。

 もちろん保証人は伯父様がなってくれました。

 

 こうして小さい頃から仲良くしてもらっている従兄姉たちの妹になったのです。

 今、四歳上のお義兄様はすでに結婚して、領地で領主としての勉強をしています。

 二歳上のお義姉様は昨年、王都から少し離れている縁戚の伯爵家に嫁いでいます。

 伯母様は優しく私に言います。

「寂しくなったから、あなたがいてくれてよかった」

 お蔭様で、実家の家族愛がなくても曲がらずに育ちました。

 

 お祖母様は私に家庭教師を付けてくれましたし、伯父様夫婦やいとこたちのお蔭で、私の交友関係も広がり、友人も増えました。

 

 ところで、籍を抜くときに重大な事実を知りました。コニーが伯爵家の籍に入っていなかったのです。父は面倒なことを嫌う性格ですので、多分、義母ブレアと結婚したので、それで済んだと思っていたのでしょう。

 この場合はコニーを養女とする手続きをしなくてはいけません。

 つまり彼女の立場は宙に浮いた状態なのです。

 

 もちろんそんなことを助言する必要は私にはありませんので、胸に納めておりました。

 

 さて、伯父様は「アイシャが我が家の養女になったことを、私がジリアン伯爵家に行って話そうか?」と言ってくれましたが、どうせ私のことはいないものと思っているのだから放っておいても大丈夫と返事をして、そのまま私はジリアン伯爵家には帰ることが無くなりました。


 ◇◇◇ 

 

 少し肌寒くなったある日、母のショールを私の部屋のクローゼットの上の棚に忘れていたのを思い出して、家人のいない時間を見計らってジリアン伯爵家に行きました。

 

 それなのに、なぜか父と遭遇してしまったのです。

「お前に縁談がある。すでに了承している。明日、顔合わせで 五日後には結婚のために相手の家に行きなさい」

 すれ違いざまに突然言われて驚きました。

 

 戸籍なんてめったに見ることはないですから、父が自分にまだ娘の結婚を決める権利があると思っていても仕方がないのです。

 

 それで、相手のフォード子爵のご子息、エルク様と会って断ろうと思ったのですが...。

 

 まず、なぜそんなに結婚を急ぐのか?

 

 そんな疑問を抱いて、この縁談のことを夫に相談しました。

  

 そうしたら、  

「先日、新しく建て替えたばかりのオルニアの橋が一部損壊したのを知っているよね」

「ええ、幸いにも怪我人はなかったと聞きましたが」

 思いもよらない方向に話が進みました。


「あの橋の建て替えの責任者は君の実の父親とフォード子爵なんだ。フォード子爵は療養中だから息子のエルクが担当したらしい。どうも建築資材を安物に替えたのじゃないかと言う話が一部で囁かれている」

「それと私とどういう関係が?」


 私たち新婚ですから、私はワイングラスをしっかり両手に持って、彼の膝の上です。ちょっと不安定で、ワインを零さないか心配なんですけれど、彼が放してくれないのです。

 話がそれました。


「君を隠れ蓑にするとか...」

「どうやって?」

「その子爵邸の君の部屋に横領金の一部を置いておいて...」

「すべては私の指示したことにする? じゃなくてこの場合は私のわがままで横領した?」

「君の実家では、使用人も父親と君が殆ど関わりがないことを知っているから、嘘がばれるけれど、子爵邸に行って数か月でも経てばどうだろう? ワードローブに高いドレスを数点とお金を置いておけば?」

「少しは信憑性が増すわね」

「実行犯は君ではなくても、君の父親とエルクが君のせいだと証言すれば、彼らの罪は軽くなるかもしれないし、またはそうしろと誰かに指示されている可能性もあるな」

「横領しているのなら、絶対に裏帳簿があるはずよね」

「そう思う...」


 私はワイングラスをテーブルに置いて、彼の首に両手を回し

「フォード卿の寝室を探るわ!」

「君に危険なことはさせられないよ」

 夫は私の顔から首筋にかけてキスをし始めまして、まあ新婚ですから。

 私は彼の唇を両手で押さえて言いました。

「わかってる。ひとまずフォード卿に会ってみてから決めるわ」



 そこで私は、予定通りエルク・フォード様と顔合わせをすることにしたのです。

  

 思った通り、フォード卿は私に全く興味を示すことなく

「五日後の夜には我が子爵邸に来るように、俺は少し遅くなるから俺の寝室で待っていてくれ」と、婚姻の書類を私に放り投げたのです。


 夫にフォード卿の寝室を探ることに決めたと言いました。

「無理するなよ。私は子爵邸の側で馬車で待機しているから、何かあったら大声を出してくれ」

「わかりました!」

 それから私たちは『隠したい物がある時、人はどうするか』と言う本を読みまして、勉強いたしました。


 五日後、早めに子爵邸に赴き、フォード卿が来る前に、寝室の中にある証拠を捜しました。

 部屋の中を二回ほど見回しましたら、壁に掛けられている絵画がほんの少し曲がっているのに気が付きました。あの本を読んでおいて良かったです。

 

 そっとそれを退けてみると壁の窪みの中に帳面が入っていました。

 ついでに金貨もありました。もちろん帳面だけいただきましたけれど。

 さらっと見たところ、やはり裏帳簿のようでしたね。

 

 何食わぬ顔でそれをカバンに入れて、絵画を戻して出ようとしたところで、フォード卿が寝室に入って来たのです。

 

 彼は「来ていたのだな」と私が部屋にいることを確認して、

「あなたを愛することはない」とすぐに言いました。

 

 あまり慌てて部屋を出て怪しまれてもいけないと思い、私はゆっくりとショールを傍らに置いてソファに腰かけ、冒頭のような質問を始めました。

 まあどのような返事をしてくれるのか興味もありましたし。

 

 その後はご存じのような会話になりました。 


 顔合わせからこっち、フォード卿の私を見下した態度に少し腹が立っておりましたから、

「私はすでに結婚しています」と言った後は、婚姻の書類を破りました。


 そして驚いている彼を後にして寝室を退出しようとした時に、ドアの外から子爵家の執事の切迫した声が響きました。

 

「あの、旦那様、お取込み中のところ失礼します。シューリス侯爵のご子息ライアン様が旦那様に至急な用があるとかでご来訪なさいまして、只今、サロンの方にお通ししました」


「あら」

「分かった。仕方がない...。今行く」

 私もすぐにフォード卿の後ろに従いました。

「なぜ、あなたが付いてくる?」

「夫に会いに...」

 フォード卿は不思議そうな顔をしていました。

 


 サロンに続いている大階段を下りようとしましたら、夫のライアンが駆け上がって来て、私を抱きしめました。


「心配したよ」

 私は少し背伸びをして彼の耳元にそっと言いました。

「うふふ、すべて順調よ」


 その途端、彼は急に私から鬘と眼鏡を外して、熱烈なキスをしたのです。

 

 エルク・フォード様の驚いた表情は今でも忘れられません。

 

 


 夫であるライアンは、今現在、急速に発行部数を伸ばしている某新聞社の社長です。

 そして彼は、シューリス侯爵家の次男です。家を継ぐ必要もなく自分の好きなことで生計を立てたいと新聞社を設立しました。

 

 私は文を書くのが好きなこともあり、彼の新聞社のコラムニスト募集の記事を見つけて応募しました。

 私が貴族と言うこともありまして、彼が私の面接を担当したのです。

 もちろん私は鬘なしで素の自分で行きました。

 

 それからですね。いろいろと意気投合しまして。

 コラムニストにも採用されましたから、彼と会う機会も増えて行ったのです。


 私の代表作は『某公爵子息の婚約破棄に関する考察』です。

  

 私が伯父様の養女になったことで社交界に出るようになりました。父親の派閥の夜会には出ませんからコニーと会うこともありません。夜会はいろいろな話が聞けるので私の記事の参考にもなります。

 そうすると、デートのお誘いやら、観劇のお誘いやらが来るようになり、ライアンがとても心配しはじめたのです。

 ある星の美しい夜に、

「他の男に君を取られるようなことがあったら私は生きていけない」と時計台の塔の上でプロポーズされました。

 私も彼を好きになっていましたから、知り合って一年ほどで結婚したのです。

 

   

 それはさておいて、私たちが帰ろうと手を繋いで屋敷の玄関先に出たところで、義妹のコニーが駆け込んできました。なんて騒々しい夜でしょう。

 

「あーっ、ライアン様」

 コニーが夫を見て声を上げます。

 

「君に名前呼びを許可した覚えはないのだが」

「そんなことは、どうでもいいです!」

 コニーはマナーに少し問題があるのです。

 

「今日、お茶会に出たらライアン様が結婚したと噂が立っていて、びっくりして私、すぐに侯爵様のお屋敷にあなたを訪ねたの。あなた、お屋敷にいなかったからどうしようかと思ったけど、馬車をフォード子爵の家に回しているとなんとか聞きだし...聞いて。

良かった会えて! ねえ、嘘ですよね。結婚なんて。ライアン様はジリアン伯爵家の婿になると言いましたよね」


「それは君が勝手に吹聴しているだけで、私は一言も言っていないが」

「だって、伯爵家の婿になれるのですもの、侯爵家の次男にとってはすごくいい話ではないですか?」

「君にも伯爵家にも全く興味がない。私はすでに自立しているしね」


 ここでコニーは彼と手を繋いでいる私に気が付いたのです。

「その女は誰ですか?」

「私の妻だ」

「えっ」


 妻だと紹介された以上、声をかけなければいけません。

「こんばんはコニー、久しぶりね」

「その声は、...お姉様」

(あら、声は覚えていたのね)

 

「お姉様? 容姿が全然違うわ」

「これはもともとの私の姿よ」

「...」

 コニーは私を上から下まで眺め、目を見開いて驚いていました。

 

「なんで、なんでお姉様が私のライアン様を取るの?」

 そんなことを言われても困ってしまいます。

「ライアンから望まれたんだけれど...」

 私は隣の夫を見上げました。


「私がアイシャを愛しているからだよ。さあ、アイシャ。もう行こう! これから忙しくなりそうだし」

 彼は、義妹を無視して私の腰を抱きながら馬車に向かいました。

 

「まって。まってー。ライアン様!」


 そう叫んでいるコニーにライアンは振り向いてとても冷たい声で言いました。 

「これ以上私や私の大切なアイシャに纏わりつくと訴えるよ。二度と私を名前で呼ばないでくれ。不愉快だ!」

 

 それを聞いて、コニーはその場で蹲ってしまいました。衝撃が大きかったようです。

 その傍らでフォード卿がしきりにコニーを慰めていましたから、二人は上手く行くかもしれませんね。

 

 

 その夜、私たちは徹夜で裏帳簿と向き合い、必要なことはすべて書き取りました。

 さすがに疲れました。


 かなり、数字をごまかしていたことが分かりました。安い資材に替えることで、公共金を横領していたのです。帳簿の後ろは日記のようになっており、父の名前もありました。

 二人とも横領のほかに脱税の罪にも問われることでしょう。

 

 翌朝、ライアンがしかるべき機関にそれを提出しました。

 

 新聞社にとっては大スクープです。

 

 すぐにジリアン伯爵家とフォード子爵家の屋敷が捜索されまして、伯爵家にも同様の裏帳簿が見つかりました。

 父もフォード卿も義母ブレアやコニーに要求されるままにドレスや宝石類を貢いでいたということです。他にも賭博に手を出していたと言う話もあります。

 

 今思えば、義母たちの生活は派手ではありました。犯罪の影に女ありですね。 

 

 また、父が所属している派閥にも査察が入ったのですが、所詮、トカゲのしっぽきりです。父とフォード卿だけが罪に問われました。

 

 父は伯爵を私に譲り引退。郊外の小さな家に義母と義妹と一緒に移りました。もちろん横領の分は返さなくてはならないので十数年は監視されながらどこかで働くようです。

 

 フォード卿も同様に罪に問われ、子爵家を追い出され、ただのエルクになりました。

 義母たちのところに転がり込んだという話もありますので、エルクさんはもしかすると幸せになられたのかもしれません。

 

 

 私は伯爵家から一度籍を抜き、さらにライアンと結婚したこともあり、伯爵を継承する手続きに日々追われました。

 伯爵家は捜索が入ったこともあり、正直な話、滅茶苦茶でした。父親はお金は欲しいけれど伯爵家の経営に向いている人ではなかったので、私はライアンから薦められた『褒めて育てる人と金』と言う本を読みながら頑張っております。道半ばですが。

 

 新聞社も順調です。

 私たちの結婚披露と伯爵夫妻としての披露も無事に終わりました。

 

 コニーがお金を無心に来たり、それを追いかけてエルクさんが来たりと言うこともあったのですが、新聞に載せてもいいかと聞きましたら、それからは姿を見ることが無くなりました。

 

 今度のコラムの題名は

『初夜に相手を愛することはないと言う人との結婚生活は不幸なのか』です。

 ちょっと長い題名ですが、ぜひ、読んでくださいね。


   

溺愛系を書くつもりが、コメディ寄りになってしまいました。

楽しんでいただければ嬉しいです。

本当のコメディ「名付けて『婚約破棄大作戦』!」もよろしくお願いします。

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