第一話 寒い
最初です。
冷え切った朝が来た。足が冷たい。そうだな、ココアでも飲もう。シナモンもたっぷり入れて…
あー、違う違う。早く慣れないと…
ぼんやりする頭をシャキッとさせたくて、頬をぺちぺち叩く。うん、シャキッとしたよ。自分の手の冷たさでね。
つい先月、トラウアー草原に「黎天」(白くて大きな木?鎖?みたいな見た目なんだよね。)が出現…顕現?してから、「異者」の能力効果の大幅な意図しない増幅、それから「変異」って言う新しい「異」を持った、「変異者」が現れた。異と変異の違いはまだよく分かってなくて、能力の優劣も見られない。そして、かくいう私、ローライフもその変異者の一人だ。
「ローライフ〜!ちょっと下に降りてきてくれない!?このお肉、冷凍してほしいの!」
「ふぁ〜い…いまいくわ…」
私に発現した変異は霜…っていうか氷?とりあえず、氷とか冷気とかを操れるらしい。私たち変異者がしんどいのは、勿論対外的な問題もあるけどそれ以上に不慣れからか制御が上手くいかないことだ。元の冷え性も相まって余計に辛い。ここ一週間は慣れてきたけど、やっぱり朝起きると手足や関節に霜が降りてることも多い。
「はい、メグさん。ご近所さんに届けに行くの?」
「そうなのよ。買いすぎちゃったからお裾分けにね…。あっ、そう言えば来週からドュンケルハイト異者教育学校でしょ?明日にはもう出るんだっけ…。下宿とはいえ寂しくなるね。たまには里帰りしに来なさいよ?」
内心小間使いいなくなってめんどくさいだけでしょ、と私に変異が発現してから異様に優しくなった大家のメグさんを、わかってるよと軽くあしらって部屋に戻る。私だって忙しいんだ。早く準備を進めなきゃ…。
机からトランクに物を移してると、埋もれてたであろう小瓶を見つけた。中はうっすらと青く輝いた花弁が二枚ほど入っている。それを見た瞬間、突如としてその花弁への食欲が湧き上がる。
「(…明らかに不潔だ。埋もれてた瓶の中身だぞ?冷静になれ。しかも花弁だ)」
そう自身を諌めようとしても、本能には抗えない。
ごくり。
嫌な音が喉と腹からする。どうしようもない飢餓感に支配される。
気づいた時にはそれを、一枚飲み込んでいた。
—瞬間
焼かれるような、極寒の氷点下二十度以下の雪原に、裸で投げ出されたような痛みが体内中を駆け巡る。
痛みで声を出そうにも、喉がもはや震えない。
全てを脱ぎ捨てたくなるような悪寒が胎内を走り回り支配する。
そして私は…あまりの痛みに、意識を手放した。
めちゃくちゃ急展開ですが、よろしくお願いします。