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カミサマの言う通り。  作者: 葛飾みどり
1/2

第一部


「今日から転校してきました、傘宮春といいます。よろしくお願いします。」

転校生として挨拶をした。

私の名前は傘宮 春 (かさみや はる)。

東京から来た女子高生だ。

自己紹介が終わると、クラスメイトの人達が拍手をしてくれた。

色々なところから、

「あの子めっちゃ可愛い!」

とか

「うわ超美人じゃん」

などが聞こえてくる。

とても嬉しい。

でも何故だろう。

なんだか変な違和感がある。

少し気にはなるが、きっと気のせいだろう。

と自分に言い聞かせ、先生に指定された席に座った。

「隣だね!よろしく!」

そう言って貰えた。


その日は色んな人に話しかけられ、とても楽しかった。

だけどその反面、少し疲れた。

ここは周りに何も無い、いわゆる田舎というところだろう。

畑や川、小さな神社のような場所があった。

少し寄ってみようかと思ったが、近くに行こうとした瞬間に雨が降り、急いで家に帰った。

「あらびしょ濡れじゃない、大丈夫?」

そう言って出迎えてくれたのは、私の母だ。

「うん、急に雨が降っちゃって急いで帰ってきたの」

「そうなのね、はいタオル。

服も乾かすからそこにかけて置いて」

「ありがとう」

そう言って私は手を洗い、髪を乾かしてから、部屋着に着替えた。


夕方になり、父が帰ってきた。

「あなた、おかえりなさい」

「おう、ただいま

とてもいい匂いがするね」

「えぇ、今日はあの子が好きな肉じゃがにしたのよ」

「それは楽しみだ」

私の両親は仲が良く、喧嘩しているところは見た事がない。

そうこうしている内にご飯の時間になり、3人で机に向かって座った。

「春、今日初めての学校どうだった?」

「ぼちぼちだよ。みんな優しそうですぐ馴染めそうな感じがした」

「そう、なら良かったわね。」

そんな他愛もない話をして、

一日が終わった。


次の日、私はまた学校に行き、靴を履き替えていると、挨拶をしてくれた。

隣の席の子だ。

名前は確か、長谷川(はせがわ) 美桜(みお)だったか。

「おはよう!今日いい天気だねぇ〜」

「ほんとだね、昨日の雨が嘘みたい」

「ね!

あ、早く教室行こ!遅刻しちゃう!」

「うん!」

すぐにこうやって話しかけることが出来るコミュニケーション能力が少し羨ましい。

私は長谷川と、話をしながら一緒に教室に向かっていた。

ふと階段ですれ違った人がなにかブツブツ言いながら階段をゆっくりと降りていった。

「……様は…対……」

小さな声だったので、全て聞き取ることが出来なかった。

「ねぇ、今の人」

「あぁ、気にしなくていいよ。」

「そ、そうなの?」

「うん!」

「今はまだ。」

「何か言った?」

「何も!」

私は何が何だか分からず、

とりあえず、自分の教室に向かった。


一時間目が始まった。

担任の先生の授業で、

進路希望の調査をするとのことだった。

そこで見たものに、私は驚きを隠せなかった。

配られた紙には、

『進学』と『就職』

とでかでかと書かれた紙が配られた。

その二文字以外に、何も書かれていなかった。

説明文も何も無く、ただその二文字だけが紙に置かれていた。

先生に質問をしようとした時に、

先生が言った。

「はい、では配られた人から決めていってくださいね」

決める?これは調査書だからまだ確定するわけじゃないんじゃ?

そういう疑問を感じながら、

先生にどういうことかを聞こうと席を立った瞬間、

それは始まった。

「どちらにしようかな、マコガミ様の言う通り」

と、言い就職か進学かを決めていた。

その言葉を唱えながら、クラスの人全員が、指を上と下に交互に動かし、自分の進路を決めていた。

「あ、私就職だって!」

「俺進学だ」

皆自分の決まった結果を何一つ疑うことなく、それを受け入れている。

「何…?これ…どういうこと…?」

「傘宮さん?どうかしたの?」

「せ、先生…これはどういう…」

「あぁ、あなたはまだ知らなかったわね。この学校には、マコガミ様っていう神様がいるの。私たちは、その神様を信じ、マコガミ様に言われた通りに物事を判断するの」

「自分の進路も…ですか?」

「えぇ、その通りよ。

何かおかしいかしら?」

最初に感じた違和感の正体が、先生と話していて分かった。

ここのクラスの人、大人も含め、全員の目に生気が宿っていない。

まるで洗脳されたように、

自分の考えを放棄し、神様の言いなりになっている。

「そんな…」

私は酷い恐怖を感じた。

私もこうなってしまうのか。

考えることを放棄し、神様に任せてしまうのか。

それがとても怖かった。

私はその場を逃れるために、進学に丸をして提出した。


授業が終わり、少しの休み時間。

先程のことはなんだったのだろうか。

変に考えない方がいいとは思っていても、考えてしまう。

マコガミ様。

先生はそう言っていた。

もしかしたら、私が入ろうとしたあの小さな神社が関係しているのではないか。

あれは神社のようにも見えたが、祠のようにも見えた。

帰りに行ってみたら、何かわかるかもしれない。そう考えた。


この日の昼休みは、周りをよく見て見ようと思った。

昨日は人が周りに集まっていたので、普段の学校がどんな感じなのかが見れなかった。

なので今日は、みんながどのように教室で暮らしているのか、普段の学校生活をみてみようと思った。

一時間目の恐怖は一旦忘れよう。

昼休みということもあり、みな各自でお昼ご飯を食べていた。

そういえば、この学校には購買があるらしい。

今日はそこに行ってみよう。


購買につくと、多くの人がいた。

カツ丼やおにぎり、アイスなども売られていた。

思っていたより種類が多く、どれも非常に美味しそうだ。

どれにしようかと悩んでいたら、

またそれを目の当たりにした。

メニューの方向を指で指し、

どれにしようかな、と選んでいた。

これとこれで迷っている。といった感じでは無さそうだ。

全てのメニューを指でさして選んでいた。

全部好きなメニューなのかな。

そう思うことにした。が、

列に並び、ふと後ろを見てみると

後ろに並んでいる十何人かの生徒全員が同じ方法で選んでいた。

きっとみんな好きなんだ。

どれでもいい程、みんな全部のメニューが好きなんだ。

楽観的に捉えることにした。

そうしたらまだ気持ち的にマシだと思ったから。

ご飯を買い終わった生徒が、私の横を通る際、その横にいた友達らしき人と

「うわ、俺これちょっと苦手なんだよなぁ」

「まじで?マコガミ様も意地悪だな」

そういう会話を交わしていた。

私は無意識のうちにその人の腕を掴み、

「なんで苦手なのにそれを買ったんですか?」

と、質問してしまった。

いきなり知らない人に腕を掴まれ、質問されたら怖いに決まってる。だけど、気になってしまった。

その人はキョトンとしていた顔を笑顔に変え、

「なんでって当たり前だろ?

マコガミ様は絶対だから。」

そう言い、過ぎ去って行ってしまった。

マコガミ様は絶対。

そうだ。階段ですれ違った人もそう言っていた。

上手く聞き取れなかったが、同じようなことを言っていた。

前の人が買い終わり、私の番になった。

色々考えすぎて、何を買うか決めるのを忘れていた。

とりあえず、最初に目に付いた唐揚げ丼というものを頼んだ。


教室に帰り、一人でご飯を食べていたら、先生に声をかけられた。

「食べ終わったら、向こうの別教室にいらっしゃい。」

そう言われた。

嫌な予感がする。

でも、マコガミ様について聞くチャンスだ。


食べてる最中も、マコガミ様のことで頭がいっぱいだった。

授業中でも、マコガミ様の話は取り上げられた。

その授業で、少しこの神様についてわかった。

マコガミ様はこの学校ができる前からいたらしい。

この学校ができる前、ここには元々何も無く、ひらけた場所だったよう。

そして、学校ができたと同時に、祠も共にいつの間にかできていた。

ここいらに住んでいる周囲の人々は天からの授かりものなんだと思い、昔からの言い伝えとしていたマコガミ様をそこの祠で祀り、深く信仰していた。

だが、マコガミ様を信仰していた代の人々は老衰し、いつの間にかマコガミ様という存在が忘れられた。

そこからなぜこの学校で再びマコガミ様を信仰するようになったのか。

それは分からない。

この学校以外で、マコガミ様の話を一度も耳にしたことがない。

この前、隣人が門の掃除をしている所、聞いてみたことがある。

マコガミ様を知っていますか。と。

だけど、そのお隣さんは長いこと住んでいるが、そんな神様は一度も聞いたことがないという。

やはりこの学校だけなのだ。

マコガミ様を異常なほど信仰しているのは。

でも不思議だ。

この学校以外で何故マコガミ様が言い伝えられていないのか。

学校に通っている人が家に帰ったり、卒業したら、そこまで信仰しているのなら、周りに言って回るのもおかしくない。

なのに何故学校だけなのか。

…いや、もしかしたら、隠しているだけなのかもしれないが。

深いことは考えないでおこう。

この後、先生に詳しく聞けばいい。


先生に呼ばれたとおり、

私は教室から少し過ぎた所にある

展開教室という部屋に来た。

ここの教室はいつもだったら英語、数学の授業をする時に使われている。

一人でここに座って先生を待っていると、教室のドアが開いた。

「ごめんね、お待たせ」

先生が来た。

なんの話しをするのかなどは何も聞かされていないので、

正直少し怖い。

「どうされました?」

私がそう聞くと、先生は

「あなたはまだマコガミ様を知らなかったわね。」

と言った。

「そうですね。どんな神様なんですか?」

少し探りを入れた。

「ふふふ、興味を持ってくれるのね。」

先生は不気味な笑みを浮かべた。

「マコガミ様はみんなを守ってくれるのよ。だから、マコガミ様の言うことは絶対なの。」

「絶対…」

「えぇ、自分たちのことを守ってくれる神様だもの。言うことは聞かないと、割に合わないでしょ?」

「そういうものなんですか?」

「えぇ。そういうものよ。

みんな最初はそうやって疑問に思うの。だけど、だんだんと分かってくれるの。マコガミ様は偉大なんだってことが。」

「…一つ、質問してもいいですか?」

私はなぜ、マコガミ様がこの学校で伝えられたのか、なぜ、周りの人々はマコガミ様を知らないのかなどを聞いてみた。

「みんな、学校以外ではマコガミ様の話をしないんです。そんなに深く思いがあるのに、なんで外では話さないのかなって不思議に思っちゃって。」

「…」

その質問をした瞬間に、

先生の顔が変わった。

聞いてはいけないことを聞いたような、そんな感じがした。

「い、いや、なんでもないです。

忘れてください」

「そう?ならいいわ。」


午後の授業も、何も頭に入ってこなかった。

先生が、なぜ教えてくれなかったのか。

なぜ学校の外では話さないのか。

一番聞きたかったことが聞けなかった。

こうなれば、もう自分で確かめるしかない。

私はクラスメイトに一人一人話しかけていくことにした。

まずは、私と同じく、信仰していない人を探そう。

五時間目の授業が終わり、十分の休み時間に入った。

「ねぇ、マコガミ様ってどんな神様?」

それをクラスの人に聞いてまわる。

信仰している人なら、決まって同じような文章で返ってくるはずだ。

「素晴らしい神様だよ!

マコガミ様は絶対なんだ!」

半数の人は同じような答えだった。

やっぱり、みんな信じているんだ。

次の人に聞いて、今日は諦めることにした。

そして、みつけた。

「ねぇ、マコガミ様ってどんな神様?」

「あ…えっと…い、いい神様だよ。私たちを守ってくれる。」

この子だ。

私はこの子に知っていることを教えてもらおうと思い、放課後一緒に帰ろうと声をかけた。

「私と?う、うん、いいよ」

「ほんと?ありがとう!」

これでいい話が聞けたらいいが。


放課後。

「ごめんね、急に一緒に帰ろうとか言って」

「ううん、大丈夫」

彼女の名前は里村(さとむら) 花音(かのん)という。

単刀直入に聞くことが一番なのだが、まずは交流をして少しでも警戒をとかなければ。

「この村はのどかでいいね〜

静かだし、景色が綺麗!」

「そうかな?

ずっとみてるからわからないや」

「綺麗だよ〜

私こういう場所好き!」

そんな会話を交わしながらさりげなく本題に入る。

辺りを見渡し人がいないことを確認し、聞いた。

「ちょっと聞きたいんだけど…」

「マコガミ様…って、信じてる?」

「!!」

そう聞いた瞬間、彼女の顔が強ばった。

「な…なんでそんなこと聞くの…?」

「私自身、信じることが出来ないから」

「……ちょっと来て」

少しの間を置いて、そう言われた。

言われるがままついて行くと、そこはあの祠のような場所だった。

「…私も、信じることが出来ないの」

「だよね、良かった。

教室の人に話聞いてる時、あなただけ他のみんなと回答が違ったからそうじゃないかなって思って。」

「…マコガミ様は私たちが小さい頃から信仰があったみたい。」

「え?でも授業では信仰が消えたって…」

「表上はね。この学校が、あの祠とほぼ同じ時期に出来たのは知ってる?」

授業では、存在が忘れられた時にできたと言っていた。

祠とほぼ同時期にこの学校ができたのなら、信仰していた代の人々は、最初からそこそこの年齢だったということになる。

「この学校の先代の校長は、マコガミ様を深く信仰していたの。その校長が、新しく働きに来た先生たちに、マコガミ様を信仰するように仕向けたんじゃないかなって思うの。方法は分からないけど。」

「先生たちも最初は、こんなの信じなくていい。言わされてるだけだって言ってたの。でも、途中から様子がおかしくなって、マコガミ様は絶対って唱えるようになった。」

「それが、今に繋がってるの」

なんでこの子はこんなに知っているんだろう。

そうは思ったけど、あえて聞かないことにした。

とにかく、学校に言い伝えが伝わった理由がわかった。

先代の校長もそれなりの年齢だったらしい。

しかしなぜ、急に先生の思想が変わってしまったのか。

次に気になったのはそれだった。

そして、もうひとつ。

確認しておきたいことがある。

「ねぇ、それってさ

みんなもそうなったってこと?」

「……そうだね」

話によると、先生たちが信仰するように変わった時、全く同じ日にみんなも変わってしまったそう。

「その前日までは普通だったの。いつも通りの日常で。だけど、その次の日に、ホームルームで先生が開口一番に言った言葉が、マコガミ様は絶対。だったの」

「私は、また先生が何か言ってるって思ったの。周りもきっとそう思って、先生にまたですか?って、いつも通りのくだりをするんだろうなって」

だが、その日はそうではなかった。

期待していたようなくだりとは全くの逆で、皆が放った言葉は「何当たり前のこと言ってるんですか?」と、笑いながら言ったそうだ。

呆気に取られた。そう言った。

「気のせいかなって思って、その後の休み時間、友達に先生がまた何か変なこと言ってたねって言ったの」

「いつもなら、そうだねとか言って返してくれるんだけど、その日は何言ってるの?って軽蔑されたの。」

「それって、いつ頃の話?」

「去年の九月ぐらいだったと思う」

学校が始まり、少しクラスにも慣れてきたぐらいか。


目の前にある祠をまじまじと見ていたら、あることに気づいた。

奥の方に、『立ち入り禁止』と書かれた看板があった。

「ねぇ…あれって…」

「あぁあれ?知らないうちに出来てたんだよ。」

「知らないうちに?」

「うん、確か去年の九月ぐら…」

里村は喋るのを辞め、黙った。

言葉に詰まった様子で震えていた。

九月。里村はそう言った。

ということは。

「そう…そうだよ、なんで気づかなかったの私!!」

「みんなが急に変わった時…同じタイミングで置かれた…ってこと?」

「そう!!」

「あの奥に、もしかしたらあるのかもしれないね。みんなが変わってしまったヒントが。」

「「…」」

私たちの間に、しばらく沈黙が続いた。

そして、先に口を開いたのは里村だった。

「…行ってみよう」

「私、学校の友達がずっとこんな感じとか嫌だ」

里村は、自分の友が洗脳されたように変わってしまったことに深く悲しんでいる様子だった。

前までは、何もかもを自分で決め、意思がはっきりしている子だったそう。

マコガミ様が現れた瞬間に、その子は自分の考えを放棄し、全てをマコガミ様に捧げるようになった。

里村は、ハキハキとしたそんな友が好きだった。

今となっては、意志を持たず、全ての選択を神に託してしまっている。

里村は見るに絶えなかったと、

俯きながらそう言った。

「もしかしたら、あそこを見て何かを変えることが出来たら、美桜は元に戻ってくれるかもしれない」

美桜。あの隣の席の子か。

「危ないかもしれないけど…一緒に来てくれる?」

「当たり前じゃん、私も踏み込むとこに踏み込んじゃったし」

「ありがとう」

どれほど危ないことか。

それはみなの様子を見ていたらわかる。

あの変わり様は異常だ。

だからこそ、私の好奇心は昂っている。

こんなことにワクワクしている自分は、とても気持ちが悪いと思う。

私も、もう既に異常者なのかもしれない。


少しでもいい話が聞けたらいいと、そう思っていたが、予想以上の話を聞けた。

ここに入ったらどんなものがあるんだろう、どうなってしまうんだろう。

そう考えているうちに、私は知らない間に笑顔になっていた。


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