ペルソナ
俺は誰にも嫌われたくなかった。もっと尊敬を集めたかった。仲間内での注目が気持ちよかった。
「なぁ、あのゲームのステージクリアできた」
「あぁーあれね、余裕やったよ。初見で楽勝だわ」
『嘘』
笑って答える。息を吐くように、口からこぼれる。
「そんなに勉強できてすごいね。1日どのくらいしてるの?」
「ええーっとね、最低でも5時間かな」「やっぱ尊敬するわ!」
『嘘』
大した努力もしていない。嘘を重ねる度に尊敬の眼差しを向けられる。『すごい』その一言が欲しいがために嘘をつく。徐々に友達は自分の凄さに慣れていく。その度により大きく信じられるレベルの嘘をつく
友達には善人の仮面を。
「今回のテストはどうなの?」
「今回も1位とれそうだよ、だけどもっと頑張らないとね」
また、『嘘』本当はこれで十分だ。これ以上どこに行くというのか。自分の実力はこれで精一杯。
「なんか手伝おうか?忙しそうだし」
「ほんとありがとう」
ただ、機嫌がいい状態をキープしておきたいだけ。そこに本当の優しさは無い。
「俺は昔──」
「そうなんだね、父さんってすごいね」
1mmたりともそんなことは思ってない。こいつも凄いが欲しいだけ。見え見えだからあげているだけ。
両親には良い子の仮面を。
「はい、これプレゼント。俺たち付き合って1年だよね」
「覚えてくれてたんだ。ありがとう」
そう言って彼女は含羞む。
キミが求めるのは俺じゃない。俺がつけている仮面だ。
「好きだよ」
そうやって嘘をばら撒く。君が欲しいのは仮面をつけた俺の言葉。
恋人には理想の相手の仮面を。
俺はこれだけじゃない、数え切れないほどの仮面をつけていた。第二子長男として生まれて、気の弱い母、乱暴な父、ワガママな姉、それぞれの理想を演じることでしか生きられなかった。尊敬されること、尊敬される趣味、好きな食べ物でさえ誰かの理想を叶えた。次第に仮面をつけることは生きるためではなく、私欲ために使うようになった。
幼少期から培い続けた、『嘘』はもう誰にもバレなかった。自分でついた嘘の整合性をとり、それに見合った仮面をつける。周りからは賞賛の嵐、人生イージーモードだ。
ただ、俺は僕自身の本人が分からない。自分は何者か、常に他者評価に委ねてきた。全ての選択は他人のためだ。
つけた仮面が外れない。いや違う、初めから仮面などつけていない。自分の顔を変えてしまったんだ。
自分は思う。鏡を見た時に『僕は誰だ』と。そうしてまた、自分の顔を仮面の影に落とす。
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