解決!鈴音ちゃん
「どうしたの、琴音ちゃん。二人で話をしたいって。」
「急に呼び出してごめんね、鈴音ちゃん。今日は相談したいことがあって……。」
そう言うと、琴音は黙ったまま、うつむいていた。しばらく、二人しかいない教室に、静寂が流れる。
「浩介君のことでしょ。」
琴音は驚いたように、うつむいた顔を上げる。
「やっぱり、図星だみたいだね。」
「……そうなの。なんだか、最近、浩介と私の間に距離を感じると言うか、壁みたいなものを感じるんだよね。」
「その原因とかは分かっているの?」
「……分からないけど、多分、原因はクラス替えだったんじゃないかと思う。浩介と私は、学年が上がる前まで、同じクラスだったじゃない。だから、休憩時間だとか、放課後とか、気軽に話しかけやすかったの。
でも、学年が上がって、私と浩介が別々のクラスになると、なんだか、いつも通り気軽に話しかけることができなくなっちゃったの。わざわざ、私が浩介のために、休憩時間に隣のクラスまで行くのって、重いって思われるんじゃないかなと思って、話しづらくなっちゃったの。
それから、変に浩介のことが気まずくなっちゃって。浩介から私に話しかけてきても、冷たく返しちゃったりして……。
私と浩介の心の間に大きな壁ができちゃっている感じなの。
私、どうすればいいかな?鈴音ちゃん。」
私はしばらく琴音の真剣な悩みを考えた。
「分かった。私にいい考えがある。要は、二人の間にできた壁をなくしてしまえばいい訳でしょう。ちょっと待っててね。」
そう言うと、私は教室を飛び出し、あるものを取りに行った。
「鈴音ちゃん、遅いなあ。」
私は教室の時計を見ながら、鈴音の帰りを待っていた。
すると、廊下の方から足音が聞こえ、教室の扉が開いた。
開いた扉から入ってきたのは、大きなハンマーを肩に乗せ、丸いチェーンソーを持った鈴音だった。
「鈴音ちゃん、それどうしたの?」
「私考えたの。琴音と浩介の間にある壁は、これだって。」
そう言うと、鈴音は教室の黒板を見つめた。そして、鈴音はチェーンソーを置き、助走をつけて、黒板に手に持ったハンマーをぶつけた。ハンマーをぶつけられた黒板はひび割れ、緑色の欠片がポロポロを崩れ落ちる。
鈴音は続けて、ハンマーを黒板に叩きつける。黒板は緑の面から、木の板のようなものが見えてきた。そこからどんどんと、黒板は壊れ、コンクリートの壁が見え、鉄筋も見えた。鈴音は置いていたチェーンソーをふかして、鉄筋を切り裂いた。
私は壁が壊れていく様子を静かに見ていた。
しばらくすると、壁に大きな穴が開き、隣の教室とこの教室がつながった。
「後は、琴音次第だ。」
鈴音はこちらに笑いかけると、教室を出て行った。私は大きく空いた穴に近づいていった。近づけば近づく程、壁は壊れたのだと分かっていった。
「ありがとう、鈴音。」
私は教室の扉の隙間から私の空けた穴に近づく琴音を見守っていた。琴音はきっと大丈夫だと思った。
「さーて、職員室へ自首しに行きますか。」
私は気だるそうにしながらも、顔から笑みがこぼれていた。