その後
北米のネイティブアメリカンはその後一部の戦闘部族を除き長らく安定した平和な時代を過ごすことになる。
このためベルダーシュ達の魔術も廃れていき、単なる儀式と化していく。雷の魔石も活用できず、水道設備も厨房機器も暖房機器も廃棄し文明水準は逆行した。
このため中米のアステカ帝国の侵略を一部の地域で受けることになるが、このアステカ帝国も白人の侵略によって滅亡し、北米ネイティブアメリカン諸部族もインディアンと称して侵略され、皆殺しに近い形で居留地に追いやられていく。
そんな時インディアン文字でロインの冒険譚を文字に起こした人物が十八世紀にいた。インディアン地位復興のために北米ネイティブアメリカンは初めてこの時自分たちの文字を発案したのである。
すでにこの時のフォークロアキャッスルは廃墟同然であった。
しかし、日の目を見ることなくこの物語は埋もれることとなった。
そんな二一世紀、二〇XX年のある日。アイダホ州のある山岳地帯……。
ボーイスカウトでハイキングに出かけたジョンは迷子になってしまった。そんな時ジョンは洞窟を見つける。雨宿りにするためだ。彼はネイティブアメリカンの血筋を持つ原住民の一人である。
ジョンはLEDの懐中ライトをつけて洞窟を回ると声が聞こえてきた。
突然ジョンの目が緑に輝く。ジョンはLEDの懐中ライトを落とした。
――ロイン……こっちおいで。
「小炎」
ジョンがそう唱えると掌から炎が生じた。己の掌は照明代わりとなった。
ジョンは虚ろな目のまま足音すら出さずに流れるように進む。まるで幽霊だ。ジョンは浮いていたのだ。
――ロイン様、ここに宝がございます……。
ジョンはその声に従い洞窟を進むと行き止まりで呪文を唱えた。
「爆発の術!!」
なんとジョンは魔法を唱え壁を粉々にしていく。ジョンが中に進むと壁画があった。奥にがれきに埋もれた個所があった。
そして……。
「風の刃!!」
なんとジョンは魔法を唱えまたしてもがれきを粉々にしていく。そしてがれきを撤去すると宝箱の中にそれはあった。鍵はかかっていなかった。ジョンは宝箱を両手に抱えながら来た道を戻る。
「小炎」
呪文を唱えると宝箱を持ってない指から炎が生じた。帰り道の照明も確保した。ジョンは自分が落としたLEDの懐中ライトがある場所まで戻った。
ジョンの目の色は通常に戻った。地に足が付いた。
「はっ!?」
「これは!?」
これこそ『ベルダーシュの勇者』の物語が書き記された本と壁画であった。
ジョンの大発見により考古学者や文化人類学者がテキストと壁画の違いを勘案しながら確認していく。
アイダホ州のフォークロアキャッスルはこの時、復活を遂げたのである。
後に世界遺産に登録されしこの洞窟はロインの冒険譚を通して失れた物語と失われた文化を今日も我々に伝えていく。
<終>