第六話
村から離れた森にザイロとロインはやって来た。鳥がぐえっ! ぐえっ! と啼く。魔鳥だろうか。
「分かってるな」
ザイロが再確認する。
「はい」
「変化は苦しいぞ」
「はい!」
「私は万が一の時のために蟲神の仮面を持つ。万が一お前が変化後に暴走した場合は巨大な吸血蟲となってお前を亡ぼす」
「はい」
ザイロから渡されたのは竜の仮面。
「仮面を被り呪文を唱えよ」
ロインは静かに仮面を手に取り、その冷たく重い感触を確かめる。仮面の表面には古代の呪文が刻まれており、竜の力が宿っていた。この重さはおそらく命を奪った分の重さだろう。己が仮面を顔に近づけると、ピタリと己の顔に付いた。すると周囲の空気が一瞬にして重くなり、竜のエネルギーが渦巻き始める。
仮面が彼の顔に触れると、竜の力が彼の体内に流れ込み、全身を覆う。彼の目は赤く輝き、肌は緑へ変色し、筋肉が膨れ上がる。彼の背中からは翡翠色の翼が生え、鋭い爪が指先に現れる。彼の叫び声が森に響き渡り、その声は次第に低く、獣の咆哮へと変わっていく。木々をなぎ倒しながら大きくなる。
彼の体は徐々に変化し、筋肉が膨れ上がり、鱗が全身を覆い尾が伸びる。竜の力が彼の中で渦巻き、全身を覆う緑の炎が燃え上がる。その姿はまるで精霊の森の主のようだ。
その後なぜか気持ちい感覚が支配する。なるほどこれは癖になりそうだ。
こうしてロインは巨大な竜となった。
「その樹を爪でなぎ倒せ」
ザイロの命令通り爪を振るうといとも簡単に巨木が倒れた。
「解除せよ」
解除呪文を唱えると元の姿に戻った。
「あと覚える仮面の呪文は三つだ」
「分かってる」
こうして他の三つの仮面もかぶってロインは変化を遂げた。幸いロインは理性を失って暴走することはなった。
――なんて奴だ。こいつはこれだけの変化の術に耐えるとは
その声はロインに届いていなかった。仮面に肉体を支配されるということは相当の精神力が必要である。きっとロインは恥辱にまみれた自分の境遇が却って精神力を強くしたのだろう。
「合格だ。最後は上級魔法だな。一気に敵を殲滅する魔法になる」
「はい!」
魔鳥達の声が森に響く。警戒しているようだ。まあ、そりゃこんな姿を見せたらね。だが僕たちを襲ってこない。襲ったら自分たちが死ぬと分かっているからなんだろう。
薄暗い森に光が差し込む。まるで僕の未来を暗示しているかのようだ。その森を抜けると青空が広がっていた。
「上級魔法は森で使うと危険だ。さっさと行くぞ!」
「はい! 師!」