第五話
新緑が濃くなってきた。ロインは本来数か月かかる魔法をたったの数日で覚えた。ザイロは共学した。ロインは決して落ちこぼれなのではない。単に力仕事が出来なく両親を失ったせいで情緒不安定になっていただけなのだ。彼の実力は本当なら酋長になってもおかしくない。
――いや、ベルダーシュの中でも最強の部類に入るかも
「何か言った?」
「いいや、なんでもない。修行を続けろ」
「はい、師匠!」
ザイロは思わず身震いした。あのロインが「師」と言ったのだ。うれしいというよりも悲しい顔をした。
(なぜ悲しい顔をするんだろう?)
おかげでロインは初級魔法は使いこなせるようになった。風の刃、氷の刃、雷の術……。
「あとは上級魔法だけだな」
問題はその上級魔法なんだよね。
「それといよいよ仮面を使っての化身だ」
ザイロの家に再び入る。壁に飾ってる仮面は熊神、竜神、鷲神、蟲神の四つだ。
「ねえ……ここを去った後ザイロはどうするの?」
「知りたいか?」
「うん」
「流浪の民となる」
「ええ……」
「じゃあ僕もいずれは流浪の民になるの?」
「ならない方法はいくらでもある」
(知りたい)
「まず酋長になること」
(それは無理だな。俺人望ないわ)
「もう一つは庵を立ててひっそりと暮らす」
「ぼっちってこと?」
「本当に一人で生活する場合と顧問になる二つの道がある」
(顧問?)
「顧問は村には住めずアドバイスだけしか送れない。権力を失う」
「そうなんだ……」
(何で顧問なんて制度があるんだろう。それも住む場所は追い出し部屋じゃないか)
「もっとも一人で住むと言っても街へ買い物などに行くことは許されてるぞ」
(やはり……村からの事実上の追放だ)
「ただ好奇心の強いベルダーシュは流浪の民になる奴のほうが多い」
(そりゃそうだよな。厄介者扱いされるなら旅人を選らぶわ。俺も)
「旅芸人、楽師、薬師……お前もいろんな専門集団を見てきたと思うがあれはベルダーシュだったりする」
(魔術の力を使って薬師になるのか)
「勝手に族から逃げるのは重罰だがベルダーシュの場合は引退、つまり合法だからな」
「そっか」
「仮面をかぶってちゃんと化身出来るか見ものだな」
「やってやるぜ!」
その返答にザイロはさみしい顔をした。
(ベルダーシュになる事って悲しい事なのかな?)
その悲しみはロインにも伝わった。そんな時また悲しそうな音がする。なんでだろう。なんかこの家は呪われてる気がする。
「さ、俺の家から出るか」