第五話
「ロイン、ロイン!!」
なんども呼ぶが返事がない。
町は祝賀ムード一色だった。
祭りの声の中から宿屋の主人が来た。
「ベルダーシュが来ました」
この町のベルダーシュは猫の仮面を持つベルダーシュであった。もう老人だ。「男→女」のベルダーシュと言わなければ誰が見ても老人の魔術師にしか見えない。
「ユエと言います」
「この二人、どうにかならないのか?」
「吸血蟲と闘ったのですよね? でしたら血液を一刻も早く増やさないと」
何やら持ってきた。
「これは未成熟の大豆をすりつぶしたものです。枝豆と言われている段階の豆です。これをすりつぶして飲みます」
ユエはゾイにも眼をやる。
「それともう一人の方は……なんとか傷はふさいでますね」
「ああ」
ゾイはまともに答えることが出来ない。
「傷薬に毒消し薬を持ってきました。あなたが回復魔法を唱えていなかったら死んでいたでしょう。ハーブもここに置きます。一刻も早く血液を増やさないといけません。この枝豆を潰した汁をお飲みになってください。あと、宿屋の主人にレバーを頼んでください」
「レバー? 肝だな?」
「血液を作ってくれます」
「分かった。お金なら出す!!」
「お金は頂けません。なにせこの村を救った救世主」
「すまねえ」
◆◇◆◇
「とうとう四天王はお前一人となったな、ザイロよ」
水晶球に手をかざすとふっと水晶の光が消える。表情をうかがい知ることは出来ないが皮肉そうな笑みを浮かべていることは分かった。
「申し訳ございません」
「今がチャンスだ。カホキヤ村で決闘を申し込むのだ」
「帝王様、お言葉ながらそれは卑怯というものでは」
「馬鹿者! 闇のベルダーシュにとって卑怯は誉め言葉!」
「はっ!」
「むやみやたらに四天王を増やすことが出来ないということは分かっているよな?」
「はっ、存じております」
「上級闇魔法と儀式を習得したものでなければ四天王になれないということも」
「それと四天王が三人も倒されたことで闇のベルダーシュの間でも動揺が広がっている。元の楽師団に戻る裏切者も増えている。このままでは存続の危機だ」
水晶球を置いた。
「ザイロ、裏切るなよ」
「はっ!」
「我は裏切者の処分でしばらく留守にする」
◆◇◆◇
翌日、二人は目覚めた。
「俺は生きてる」
ロインが目覚めた。
「俺も生きてるな」
ゾイもなんとか生きてる。
「ああ、生きてるぞ!!」
カズヤが手をそれぞれ握り締める。
「もうすっかり祭りは終わったがな。それとしばらく療養生活になるぞ。水道敷設はずっと後だ」
そうか。ここで療養生活か。
「ああ、ここのうまい物を食おうぜ」
そんな時にまたしても町で悲鳴が上がった。
「ロイン一行はいるか! コミギ村を亡ぼした四天王が一人ザイロ、カズヤに一騎打ちを申し込む! カズヤを出せ!!」
そして宿屋で看病しているカズヤのもとにザイロの話が伝わった。
「くそっ!しつこいな!!」
宿を出て相手を見る。ロインの師ってこいつか!
「俺がザイロだ」
くぐもった笑いを響かせる。
「お前の街を亡ぼしたのは我。憎かろう? 二日以内にコミギ村に来い! 来なければ、この村を火の海にする」
その言葉を聞いて町は恐慌状態になった。
そして闇の鴉の仮面……ザイロは消えた。