第一話
「集中して! 念じて! 君の故郷を!」
ゾイの指示は的確だった。そうか、転移魔法ってそうやるのか。
「はい!」
ハルも必死だった。
「転移魔法唱えて!」
すると黒い渦が生じて立てた棒が消えた。
「出来たじゃないか!!」
ハルの肩を叩くゾイ。
「うん」
「後は実践だな」
「今君のために金棒を作っている」
カズヤもロインもその作業に追われていた。
「君のマグネットの魔法でかき集めた砂鉄をもとに武器を作る」
そう、マグネットがこんなことに役に立つとは。
「砂鉄を溶かして出来た金棒を転移させるんだ」
「どのくらい時間がかかるの?」
カズヤがゾイに聞く。
「あと二~三日ぐらいだな」
「木材を集めて作ったかまどを使って風魔法で空気を起こすのは厳しい作業だぜ……汗だくだよ」
ロインはまさかこんな作業にも使えるとは思っても見なかった。ん? まてよ? ということは木製の上下水道管だけじゃなくて鉄製の上下水道管にも出来るじゃないか。何事もやってみるもんだ。
「その間に上級闇魔法って覚えることは難しいよね?」
ハルはちょっと不安げだ。
「転移魔法を応用した術ならそれほどでもない。魔力の問題だ」
へえ。
「じゃあ、見てて」
ゾイは呪文を唱えると空間を引き裂いた。
割れ目から闇の空間が広がる。そして――!
「すべてを亡ぼせ!!」
すると空間から小さな石が次々降り注いだ。海岸に次々クレーターが生じた。
「今の術を隕石降下術という」
ロインは目が点になった。俺こんな連中と戦えるのかな?
「転移魔法で失敗すると闇の空間に行くと言ったよね。その闇空間とこの世界を一時的にリンクさせた。で、闇空間にある小さい星々を相手に激突させる」
カズヤもゾイの話を聞いて感心している。
「君も夜の世界を見てると分かると思うけど、人間は半分闇夜の世界に生きている。闇は決して人間の敵じゃない。使い方だ」
ん? 闇は決して人間の敵じゃない……か。そうかもな。
「じゃあ、やってみようか」
「はい!!」
こうして、初日、二日、三日と過ぎた……。
「隕石降下術!!」
ハルはとうとう隕石降下術をも会得した。
「やった!!」
「とうとうやったね」
ゾイも嬉しそうだ。
「金棒も冷えたよ」
ロインもゾイに報告する。
「この金棒を君が転移させてから、君を転移させる。戦いの場に金棒があれば転移魔法は習得済みだ」
いよいよだ。
「明日、いよいよだよ」
ゾイがハルに言う。
「今日は小屋で休もう」
「いよいよなんだね」
食事はロインが氷魔法で釣ってきた魚だった。
みんな無口だった。ロインは自分が拾ってきた、ここ世界の果てに行った証拠を……貝を見ていた。
こうして西海岸の日々は終わった。