第五話
三人はいよいよ敵の本拠地に向かっていった。
「誰かに付けられたりしてないよな」
ロインは振り向かずに小声で言う。
「大丈夫だ」
カズヤも小声だ。
「魔法の類は?」
なんでハルは普通の声で言うんだろう? 敵に見つかったらどうする。
「大丈夫だと思うよ……たぶん」
カズヤが言う。そして見えてきた。
巨大な谷に洞窟がいくつもある。
そして家もいくつかある。ダークキャッスルだ。
「ここからは俺一人だ」
ロインはダークキャッスルに向かって歩き出す。土埃が舞う。
「武運を祈るぜ」
カズヤは親指を立てる。
「しくじらないでね」
(ハルもな)
二人は即引き返した。
ロインだけ進む。家のある部分は宿屋や道具屋、食料品などを売る店だ。だけど全員闇の僧衣を着ている。
(道具屋……ということは……!)
ロインは服屋に入った。
「いらっしゃい」
「すみません、けっこうぼろくなってきたんで闇の僧衣を」
「ああ、けっこう傷んでるね。補修でも済むけどどうする?」
「いえ、お金はあるんで二着分闇の僧衣をください」
「二着? なんでまた?」
(しまった……なんて言おう?)
「実は闇のベルダーシュに興味を持つベルダーシュが居て」
咄嗟に言ってしまった。
「なんだ、そんなことでしたら」
店主は二着持ってきた。
「ちゃんとひもで縛らないと下半身が見えてしまいますよ」
「助かる」
「古い闇の僧衣はこちらで処分しましょうか?」
「いや、いい。布などに使う」
「そうですか」
ロインはお金を出す。よかった。通貨も共通のようだ。おつりまで同じだ。
「ありがとうございました」
(壁には自分専用の仮面が掛けてある。ここの住民は全員闇のベルダーシュなんだな)
ロインは新しい闇の僧衣が入った袋をもらい、そのまま一旦街へ出た。
(ばれるなよ……ばれるなよ……!)
ロインは街から出て、そして無事……小屋に戻った。
「ただいま!」
ロインが戻って来た。
「見てくれ。じゃーん!」
「「新しい僧衣!!」」
「服屋の主人に怪しまれるところだったぜ。で、『興味あるベルダーシュのために』ということで買ったぜ」
「ものはいいようだね」
ハルは感心する。
「嘘は言ってないからな! だから俺は怪しまれないように新しい闇の僧衣を着るぜ」
「ええ? 俺がロインの汗まみれの僧衣を着るの!?」
カズヤはものすごい不満だ。
「我慢しろ」
ロインはそっと言う。
「はいはい」
「暗くならないうちに料理すまして洗濯するね」
ハルはさすが元・女の子だよなあ。俺……ロインも見習なければ。自分は「女」でもあるんだし。
「お! そうだ、この僧衣も洗濯だ」
そう、カズヤが嫌がったこの古い衣服。
「小屋に明りは灯せないものね」
洗濯は今のうちだ。でないと部屋干しだ。
「それにしてもあそこは一種の宗教都市だな。宿屋の店主も道具屋の店主も服屋の店主も実は闇のベルダーシュなんだよね。しかも壁には自分の仮面がちゃんと飾ってあるからな。全員敵だと思えよ」
ロインの言葉に二人は戸惑った。
「全員敵……」
カズヤは大丈夫だろうかと本気で思った。多勢に無勢だ。
「そう考えるとぞっとするぜ」
こうして二日目の探索が終わった。