第一話
三人にとってゾイを失ったのは物理的にも心理的にも痛かった。なにより、ゾイを取り返せるのか心配だった。
「私がもっと早く転移魔法を覚えていたら……」
「ハルさん、しょうがないよ。こうなることを予測してないんだからな」
カズヤがなだめる。
「でもハルさんのおかげで宝石を売ったからほら……」
――ひひーん
馬が買えたのである。三匹も。
「これからどうするの?」
ロインは不安げに聞く。
「おい、ところでこの天気」
カズヤは血相を変えた。
「まずいわ!!」
ハルも事の重大さに気が付く。
「竜巻が来るぞ!!」
旅が始まって約一年。ロインは自然の驚異も存分に味わうこととなる。
◆◇◆◇
一方、ダークキャッスルでは……。
「今年も破壊神に祈る時期が来ました」
闇の蟲の仮面が跪きながら言う。
「そうか。生贄の確保に抜かりないのだな?」
闇の竜の仮面が玉座に座りながら聞いた。
「はい」
「今年も竜巻が暴れてくれるでしょう」
「生贄に捧げる男の子はしっかり綺麗に、装飾品をこれでもかと身に付けておくのだ。毎度のことだが」
「御意」
闇の熊の仮面は祭壇の地に来た。
黄金の装飾品に身を固めている男の子が震えている。手足と首は鎖で繋がれている。
闇の熊の仮面が呪文を唱え、次に子供の胸に刃物を刺し、刃物で肝臓を抉りだし、肝臓を祭壇に置いた……子供は絶命した。
「贄をお受け取りください、風の竜よ」
血だらけの手で仰ぐ闇の熊の仮面……。
◆◇◆◇
「とにかく下に潜るんだ!!」
カズヤは必死だった。
「さすが土魔法のハルだぜ!」
ロインは感心する。
「でもまだまだ深さが足りないわ!」
ハルは慌てる。
「馬よ、ごめんな」
馬は暴れないように睡眠魔法で眠らせたうえで地下に潜っている。ハルのとっさの判断だ。ロインはそっと馬を撫でる。
「石で入り口をふさいだか! 炎の魔法で石を溶接したか!」
カズヤがハルに確認する。
「ええ!」
「来るぞ!! 風の竜が! 竜巻が!!」
この地でもっとも恐れられているのは暴風雨ではない。風の竜、つまり竜巻なのである。
「信じられない音が地上から聞こえてくる!!」
ロインは未体験の恐怖に怯えている。
「とにかく耐えるんだ!!」
カズヤがロインに叱咤する。
「もしハルが居なかったら俺達は即死だったぜ」