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ベルダーシュの勇者  作者: らんた
第一章 俺、第三の性になって魔術師にもなるの!?
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第三話 

 ザイロとロインが酋長の家に入る。酋長が聞き遂げると冠をかぶってネックレスを身に着けて街の広場で大声で宣言した。


 「皆の者、聞くがよい!! この者が新たな暫定ベルダーシュになる!」 


 村は驚きであった。


 魔素がロインの掌に集中する。それはザイロの業火の術そのものであった。たしかに。ロインはベルダーシュになれたのだ。ちなみに特別な呪文などほとんど要らない。魔素が味方してくれるのだ。


 本物のベルダーシュの誕生どころではない。ベルダーシュの中でも相当上位の魔術師だ。なにせベルダーシュになったばかりの状態で業火の術を使うことなど通常は不可能だからだ。


 そしてザイロは新たなベルダーシュとなったロインに女装を施し、化粧を塗る。髪型は三つ編みにする。最後に胸のパットを渡した。ロインは恐る恐る胸のパットを付けた。皮肉なことになんとザイロよりもずっと美少年にも美少女にもなった。ザイロはベルダーシュでありながらどこからどう見ても男なので姿だけであったら圧倒的にロインの方が素質があるということになる。衣服も最高級のものを使っている。馬子にも衣装とはこのことか?

 

 「似合ってるぞ」


 ザイロが鏡をかざす。ロインは戸惑っていた。


 (これ、本当に俺?)



 夜が更けていく。街の中央の広場に村人全員が集まった。そして新たなベルダーシュ誕生の祝いが始まった。わざわざ近所の猪を狩って丸焼きにしていた。ネイティブアメリカンは成人の儀以外にお酒を飲まない。しかもこのお酒はハーブを混ぜるので度数が極めて強い。下手に飲みすぎるとすると意識が飛ぶほどだ。事実上の酒造の文化が無い代わりに果汁飲料の文化が発展している。


 新たなベルダーシュに次々女性も男性も群がっていく。


 ――今までさんざん馬鹿にしていたくせに。


 ロインはなんかちょっと逆に悔しかった。


 「よいか、これがベルダーシュの権力だ」


 権力。そうもうロインはこの村の第二位の地位に居る人間なのである。


 「はい」


 「そしてロインよ、男とならいつだって寝れるぞ」


 「え?」


 「女と結ばれるときは結婚が義務じゃが男とならいつでも楽しめる。結婚後もな」


 酋長が会話に割って入る。


 「もうお前も大人だ。いい加減部族のハーレムを知ってもいいだろう」


 (ハーレム……かあ。いい事なのかなあ?)


 「それと明日からお前に仮面の事と魔術を伝授せねばならん」


 (修業は嫌だなあ……)


 「そして伝授したあと、俺は引退が義務となっている」


 「えっ? ってことは」


 「そうだ、お前がこの部族の事実上の副酋長だ」


 (おかしい。ちょっと前まで僕は自分で死ぬことを考えていたのに……いきなり二番目の地位? いきなりちやほやされる?)


 「その気になれば酋長になってもいいのじゃぞ」


 周りの男たちが色気を使っていく。


 「じゃあ、俺はこの村で一番の美男子とされるロイサンと一夜を過ごす。お前も適当に決めておけよ。それとお前はもう男じゃない。男を嫌悪した瞬間ベルダーシュへの信頼は無くなって行くと思え」


 ザイロは油が入った瓶を懐にしまってからロイサンと手を繋ぐ。


 「まあ、楽しめや」


 そう言い残して去っていく。


(何、この豹変……。俺怖い!!)


 ロインは走り去っていく。村人はロインの姿見えなくなると一斉に呆れ悪口大会となった。不穏な空気が流れた。酋長が「やめぬか!」と大声上げると悪口は止まり妙に静かな宴となり宴は自然と解散となった。


 酋長だけ広場にぽつんと残った。その時最後の楽しみを終えたザイロが酋長の隣に座る。


 「《《人》》としての最後の楽しみは済んだか? ……お前さんには苦労かけたの」


 残り火がパチパチと鳴る。


 「いいや、酋長。俺の人生はこれからだ」


 ザイロは嬉しそうだ。


 「そうじゃろう。《《あんなこと》》があったんじゃからな」


 人を捨てるだけの十分な理由があった。ザイロは黙り込む。やっと重い口を開けた。


 「イロコイ連邦の酋長なんてお飾りにすぎないしな。お互い苦労するよな」


 イロコイ連邦は女系部族である。女性の意見が大変強い。その上で部族の氏族母クランマザーが投票代理人を立てて酋長が決まる。なんとヨーロッパがまだ中世の時代に形だけとは言え連邦民主政を達成したのだ。そして酋長はいつでも解職リコール出来る弱い立場なのだ。


 「飾りじゃない。部族を代表する者であることに変わりは無い。お前をベルダーシュにさせて命を救ったこともあった」


 イロコイ連邦の男は壮絶な儀式を経て戦士階級に強制的になる。戦士の素質が無いとベルダーシュにする救済制度を設けている。思わず酋長は弱くいつも泣いていた少年ザイロの顔がよぎった。そんなザイロをいつもかばっていた少年、それが酋長だった。


 「後から己の穢れた血まみれの手を見て泣くのではないぞ」


 やはり酋長の問いに答える事はない。夜は更けていった。

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