第九話
旅の途中。周りに樹がないためテントを張った。
「今日はここまでか」
「調理器具出そっと」
「しかし解毒魔法に麻痺解除呪文とか本当俺役に立ってるでしょ」
「まあね」
「ハル、食事が終わったら今日も闇魔法の練習だ」
「はい」
「今日はいよいよ転移魔法教えるぞ」
「えっ!?」
「転移魔法と言っても二種類ある。一つは洞窟の入り口に戻る転移魔法。もうひとつが過去いろんな旅で回った場所に転移する魔法だ」
「転移魔法というのは闇魔法の中では中級なんだ」
「で、俺たちは別に洞窟を回るわけじゃない。だから町などに転移出来る魔法を教える」
「いよいよって感じだね」
-----------------
「この棒を君の故郷の村に転移させるよう念じてごらん? で、呪文は……」
しかしハルが唱えた呪文は黒い渦が生じたものの棒が倒れるだけであった……。
「もっと集中させて。村に象徴となるトーテムポールあったでしょ」
それが目印になるのだ。
「転移魔法は一瞬闇の世界に転移させてもう一回闇の世界から元の世界に瞬時に戻る呪文なんだ。間違えたら大変なんだよ」
「えっ?」
「間違えたら最悪永久に闇の世界にとどまるか異世界に転移してしまう」
「異世界!?」
「聞いた話だと鉄の甲冑を着て大きなお城と城下町のある世界に転移してしまった話をよく聞く」
カズヤはこの話を聞き逆にときめかせている。だめだこりゃ。
「転移事故って絶対に防がないといけないんだ」
「日々使ってる魔法ってそんなに危険な魔法だったの!?」
「だから今いる場所を頭に焼き付け、詠唱は絶対に間違えず転移先の場所もすぐ思い浮かべるようにしないとダメなんだ」
村にトーテムポールが無い場合はどうするのだろうとロインはふと思った。
「そして転移魔法を応用したのが闇消去という魔法なんだ。つまり相手を異世界や闇の世界に飛ばす魔法だ。この場合移転先のイメージは暗黒となる。成功率は低いけどね。だって雑念が少しでもあったらただの黒い渦が生じて終わるだけだから」
ゾイはそんなことまで出来るのか。うーん……だとすると異世界からどうやって戻って来たのだろうか? ロインはそっちの方が気になった。
「もっとも闇の世界に転移してしまった場合、再移転魔法を唱えたら元の世界に戻れる」
「何だ、よかった」
「よくない! 転移先が異世界だったら最悪元の世界に戻れない!」
「あ……」
そうか、術者も転移魔法を唱えることが出来たら戻れるのか。それで「異世界」の中身が伝わるわけだな。
「もう一回やって。いつもより真剣に!」
「はいっ!」
闇夜の草原に呪文の声が響く……。
そんな時水晶から声がした。
――ロイン、ロインいるか?
「カルだ!」
「こちらロイン」
「旅は順調か?」
「順調です」
「仲間も増えました」
ロインは訓練中のゾイとハルを連れて来た。
「ゾイと言います」
「ハルです。よろしく」
「あ、進展がありました。敵の調理器具の技術を盗みました」
そういって調理器具を見せる。コックをひねると炎が生じる。
「このようにベルダーシュでなくとも簡単に炎を生じさせることが出来ます」
「ロイン、お前……本当にすごい」
誇らしげに調理器具を見せるロイン。
「ロインの旅をぜひ、伝承にとどめておきたい。これから毎晩五分程度語ってくれないか。私はそれを音楽に直して伝承する」
「そんな……恥ずかしい」
何を今更と言いたげなカズヤはロインの頭を小突いた。
「楽師の使命は後世に英雄や歴史を後世に伝えることなんだ。ただのエンターテインメントじゃない」
「ぜひ、協力してくれ」
「はい」
「これから毎晩水晶で呼び掛けるからその水晶は大事にしてくれ。無くしたら相当高く付く。金貨五枚分だ。宿賃半年分ぐらいだな」
「えっ……」
四人が青ざめた。
「しかもこの水晶は村探しに欠かせないものです」
ハルは村にたどり着けなくなることを心配していた。
「じゃあ、もう絶対に無くすなよ」
ロインに向かって言う。特に物を無くしがちのロインに。
「はい」
「じゃあ、またな」
そういうと水晶の反応が消えた。
「今日も遅いから寝るか」